第1話 "異"なる世界 ②
青白い体を
痛みに顔が歪み反応が強く見え始めると、『彼』は朦朧としながらも意識を取り戻した。初めて柔らかな光を藍色の瞳で受けたものの、その光景の中身は霞んでいて焦点すら定まらない不確かな場景ばかりだ。
「うっ…!」
「ふ、うっ…!」
息を止めることも、吐くことも全身の痛みが伴い、回路基盤のようなスイッチがあちこちで勝手にひねられて痛みを排出していく。
チリチリと、ヒリヒリと、バリバリと、ゴリゴリと。
様々な耐え難い痛みの上に痒みや苛立ちが皮膚を熱くさせ、それを耐えようとする筋肉に力が入り、引きつった肉同士が再び痛みで共鳴しあう。その繰り返しである。
「あ、うっ!!ぐっ…う…!」
特に、痛みを堪えようとした際に起きる左脇腹の硬直が、一段と強く刺すような痛みに襲われる。平静さを取り持てない呼吸の原因はまさしくそれである。
次第に光に慣れてきたのか、目の焦点も瞳の水晶体にも濁りが消えていき、『彼』の視界にはほのかに明るいどこかの部屋の天井を映した。
明るい光…太陽ではない。まるで蝋燭のような明るさ…いや。それ以上か何かだ。部屋全体を明るくはしていない。現に石の天井は光源から離れた場所には薄暗い影を落としているし、その光源の行方、原点もすぐ左側からだ。
『彼』の思いつくところ、視界の一つとしての情報の中に符号するものが当たった。
天井は石で出来ている。分かることはそれ一つだけで、一つの情報を取り入れて直ぐに全身の痛みが時間を制して『彼』に目を閉じさせる。彼の脳内にある意識は覚め続けようと必死だが、痛みと苦痛の連続に意識は程無くして静かに妥協し、見事に気絶へと向かった。
……
ようやくだ。ここまで長々と連ねてきたものの、始まりが始まりだから口を出す他ないものだったが、どうやら『私』はもうここまでだろう。だが『彼』の事だから、また少し世話を焼くこともある。その時になってまたお会いしたい。そう言ってみたものの、その時は随分近いように思えて仕方がない。
……
冷え。冷たさを手に…いや。両腕に。両足か、あとはどこか痛かった場所、燃えそうなほどの熱い痛みが冷やされるような、肌を湿らせる重みを感じる。
水気を含んだ何かが額に置かれると、その心地よい冷たさに大きな深呼吸が安らかに吹けた気がした。
冷たさに何か、水を感じる。濡れた布か何かを水で濡らしたものだ。頭の芯から熱が吸収されていくのを意識して感じ取れる。かすかに…いや。額に置かれたものからは匂いも感じる。優しげな、鼻が透き通るようなみずみずしい香りだ。近しいものでいえば、アロエに似ている。茎を割った時のようなものでなく、氷の水に溶けた爽やかな具合だ。
腕も足も、胸も首も。痛みが酷い場所から熱と苦痛が吸いとられ、呼吸が楽になっていく。痛みは強く残るが、周りへ呼び掛けて波紋を生むような広がるほどのものはない。痛みの漏水を栓で蓋をされたかのようだ。
「よし…」
小鳥のような声が聞こえた気がした。でもそれきりだ。さらに意識して分かってきたのはその冷えと、匂い。つられて聞こえてきた、音とその存在だ。水の音が立っている…いや。数十の数珠のような雫を垂らしている。音だけの世界には水音がありつつ、固い床を踏み歩く靴の音もある。
すっかり温くなった布が取られ、また新しい冷えの水を吸った布が額を隠すように優しく敷かれる。苦痛でしかない熱が冷えの中へと吸われ、代わりに海風のような冷たい感覚が身体中を駆け巡る。するとまた、呼吸が幾分楽になっていく。
呼吸が楽になると、また一つ集中して向けられる意識が増えた。
「よし、これで一先ず完了、と」
感じた冷え、匂い、音、存在、そして感触。肌に触る心地よい布。肌に触れる冷気と心地よく響く、物静かな女の声が心を撫でる。心が落ち着いていくと指先にも感覚が戻っていく。
そうしてまた、『彼』は一つずつ気づいていく。何者かの存在による介抱と、その存在から感じる温もりの音沙汰に。
「…王」
「…
「届いて、おりますか?」
左の指先に…いや。左掌に何かの信号が触れている。固くはなく、やや湿っていて人肌よりはだいぶ冷たい。しかしその冷ややかな感触の奥深くから温もりが伝わってきた。少し躊躇ったように最初こそ指先だけだったが、手のひらへと優しく重なったあと、手を包み込むように左手が握られた。
「王、私はここにおります」
「ずっとここにおります」
この感触をどこかで覚えている。しかしどこであるか。辿ろうにも記憶の海へ漕ぐ船すらないほどに頭の中は霧で見えやしない。それでも何となく、本当に確証もない単なる思いつきのようなものだが、苦痛と痛みに襲われて沈んでしまいそうになった時、この感触にいつも救われていたような気がする。
優しくも、強く握る暖かい手と共にあの時怒鳴り響いた少女の声が、ハッキリと左側から聞こえている。同じ声とは思えないがこれだけは聞き間違いがない。慎ましさの中に勇ましさを秘めたその声には、特徴的なほど声を圧し殺してまで隠そうとする優しさがある。そう感じざるを得ないほど、どこかで数十数百と寝耳に聞き帯びた感覚がある。
「どうか。ご安心くださいませ」
「私めが、傍におりますもう二度と離れることはありません」
「ですから、どうか。」
「王、生きてくださいませ」
祈りの声。拝むようなものでなく、誰かに宛てる言葉だ。
祈り声と共に、少女の握る手が少しだけ強くなる。まるで返ってくる反応を確かめるように、小さな手を包むように握っている。
しばらくして、するりと少女の大きな手から開放された後、左隣のすぐ近くに感じていた存在は足音を奏でて離れていった。木造品に金属を混ぜた何か…いや。近しい音でいえば扉だ。扉の閉まる音と共に消える。唯一の救いを隔てたられたような寂しい気分に一瞬だけ包まれ、重たい瞼をあげてみた。
だがまるで何も見えない。昨夜とは違って石の天井が明るく、霞んで見える。
あぁ、そうか。霞んでいるのではなく、明るすぎて目がこれ以上開かないのだ。眩しさに閉じた瞼の裏からも光の刺激が感じられる。今、眩しい光の中におり、そこには暖かさがあるが正直に言えば、鬱陶しいほど眩しい明かりである。
左手の動きには先ほどまで確かにそこにあった少女の手を握り返そうとしている。今度はそれに応えられるようにと思ってみたものの、それは単なる反応の思いつきであり、『彼』の心はまだ行動にすら追い付いてはいない。しかしその小さな動作一つが、よほど疲れさせたのだろう。『彼』はそのまま、陽光を全身に受けたまま深い眠りへと落ちていった。また覚めることなど期待はないが、『彼』なら覚めてくれるという信用がある。
……
テレビのガヤガヤした笑い声につられて誰かが笑っている。大人の女性の声。随分と馴染み深く、耳をつんざいて来そうなほどに高らかに笑う声量には心から断言できるものがある。これは母の声だ。そうに違いない。手を叩いて喜び、大口を開けて笑う母の声だ。あんなにハキハキとした声は他にない。母だ。母が笑っている。楽しそうだ、何を笑っているのか。
……
夢はいずれ覚めようものだ。『彼』に聞こえていた声は意識の浮上と共に頭の奥へと消えた。身体はすっかりと夕日に包まれていた。
先ほどよりも眩しさはない。目へ直接差し込む光がないせいか、目はすっかり暗がりに傾く石の天井の景色にも慣れ、不思議なくらいに眼前の光景がハッキリと見えている。
ぼやけなどもない。あの時見た石の天井は、よりハッキリと見えている。光景は少し違う。よく見ると天井の石の隙間には、垂れ下がった金色の帯に藍色の布が埋められていて、布そのものにも繊細な刺繍の装飾があった。
「……」
ぼう…っと見つめていると、扉を開けて誰かが入ってくる。靴の音だけを聞きつつも、目で確かめられる情報は確かめたい。
『彼』の行動には知的さを感じる意思の現れがあり、音を追って情報を拾おうとする動きが首をもたげて見ようとする姿勢から感じられた。
だが頭を上げるのは至難の技だった。身体中の痛みを抱えてはどうにもならない。少し左へ首を向け音の正体を目に映してみることにした。
「っ」
ほんの少しだけ、熱がぶり返した気がした。
事実だ。『彼』の温度は外も内も多少の熱量の上昇があった。脈拍にも影響は現れている。
一目見ただけでため息がつきそうなほどの美しさと、ガッシリとした体格でありつつも、スラッとしたスリムな体型を思わせる高身長で、髪色は金色…いや白に近い。
髪を束ねる銀色の髪飾りが夕日の陽に当てられて光っている。美しいと言う他はないが、そんなものを感じているかさえもハッキリとは定まらなかった。
彼女は1人で険しく責任ある表情でなにか事務的な作業を化粧台のような机の前で難しげにこなしていた。気になるところではあるが、見守るだけが精一杯だった。
こればかりは嘘だ。こんなに美しい女性を前に『彼』から見守るなどという忠義立てなどあろうはずがない。見惚れていると言うのが正しいのだ。精々目を奪われておくといい。それは『彼』にとって良いものだ。
「よし…。えーと、…緑が7で青が3」
「緑が7で青が3…」
「あれ…水は数にいれるんだっけ…」
「えー…っと…水の分量は」
彼女の作業を観察していると小さな桶にガラスの水瓶から水をいれ、程好い煎餅のような大きさをした緑色の丸い葉と、食欲を奪いかねないほどに濃い青色の花弁を手で千切り、何やらそれを手で擂り潰すかのように合わせ、桶の中へと投入していく。
桶からは水音がする。手で撹拌し、桶の中で混ぜ合わせているようだ。その水を布で濾して出てきた液体はエメラルド色のように透き通っており、漂ってくる香りには…あぁ。これをよく知っている。額にあててくれていた、あの冷たい布の香りだ。心が救われるような、あの匂いである。
彼女は慎重に布を染み込ませ、一息ついて布を軽く一捻りして水を絞る。その芸当にはどこにも難しそうなところはないのだが、彼女の手からしてみればあの小さな布は、その逞しさが見える肩や腕によって、例え水を含んでいた布だとしても、簡単に引きちぎってしまいそうなほどだ。
彼女が慎重に丁寧に扱って絞ったのは、まさにそれが原因でもあるのだが、『彼』にはまだ気づきようもない。気づくための知的さから派生する想像が戻っていない。
しかし見た光景と言うのは必ず記憶に残る。その刻まれる記憶には彼女の一つ一つの丁寧な手と共に、責任と決意から滲み出た表情から疲れも見て取れた。『彼』にはそれに気づき、熱意を抱くような感情から芽生えた想像こそ湧かないが、相手の顔を見て「思う」ぐらいはある。
『…大変そうだ』
『……綺麗だなぁ』
美しいものを目に映す時、人は心の底から癒しを覚えてしまうものだ。『彼』も例外じゃない。彼女が絞りの過程を終え、一枚の布をパッパと軽く両手で引き延ばして段取りを終える。
「よしっ。完璧な水絞り。今度こそ破らずにできた!」
こちらへの意識など欠片も向けていなかった彼女がようやく顔を向けた。
「ではこれを、っ」
「っ…!」
「…?」
ビリィッ!
彼女の驚いた顔と共に、持っていた布が両手でいとも容易く真っ二つに引きちぎられる。濡れ布を軽い芸当のように引き千切り、彼女は目を丸くして彼を見ていた。
彼女は物の見事に瞳も肩も手も震えていたが、その表情にはさほど恐怖というものはない。怒りもなく、驚きの中に喜びを隠せていないような。そんな彼女の潤んだ瞳がそう思わせる。
「…っ!!!」
彼女と目を合わせていた時、彼女がなぜ泣きそうになっているのかを何となくだが理解できた。おそらくこれは、何か彼女の中で報われたのだと。何が報われたのかまでは分からないけれど、彼女はその報われた何かに涙している。自分の目の奥にも不思議と熱さが感じてくる。
「あぁ…!」
「今日この日をどれだけ待ちわびたか…」
彼女は涙いっぱいで近くへ寄り、膝を落として姿勢を落とす。胸の前で形作られる祈りの両手に力いっぱいの願いが込められているのを見て、どういうわけだかその祈りに自分の手を当ててみたくなった。
鈍い痛みがあれど、今は彼女を思う気持ちで、その願いに寄り添ってみようと彼女の祈りの手へと伸ばしてみる。
ゆっくりと差しのべた『彼』の左手を、彼女は一瞬躊躇いはしたものの、自らそれを受けようと祈りの手を崩した。机から転がって落ちてしまいそうなほどに、小さく弱々しいボロボロの『彼』の手を、彼女は掬いあげるかのように受け止めようとした。
「っ…!!」
しかし、すんでの所で彼女は『彼』の手を包み込むことを止めた。ハッと我に返って、『彼』の手と、『彼』を罪深く見つめるばかりだ。
どうした事だろう。先ほどまでの嬉しさでいっぱいだった彼女は、まるで深い後悔に襲われたかのように突然としてその表情に悲劇的な形相を浮かべた。
「…っ…あぁ」
「私は…なんということを…!」
伸ばした手には触れることさえせず、けれど彼女の手は左手を包もうとする意思が目に見えてあった。それは決して自ら触れようとはしないが、触れることを躊躇う手の形には左手を包もうする表れがある。
「あぁ…、申し訳ございません…!」
「私は…なんということを……!」
「お許しを…!…王、どうかお許しを…!」
彼女に手を伸ばしても、彼女は繰り返し何かへ謝り続けるだけで手を取ってはくれなかった。落胆して沈んでいく彼女は、うわ言のように許しを乞うばかりだ。どうしてしまったんだろう。
彼女は突然、ハッとして顔をあげ、腰をあげ、扉へと猛進して声を発しに出た。
「宮医(きゅうい)!」
「宮医はどこだ!」
「王が…!我らの王が目を覚まされた!」
「宮医だ!宮医を早くここへ呼べ!」
「急ぐのだ!」
きゅうい。
馴染みのない言葉だ。聞き覚えのあるものが一つあるが、あれは確か野菜の類いだったかに思う。彼女の爆音の声量は、聞き覚えがある。しかもそれを間近で聞いたような覚えもある。どこだったか、思い出そうと考えみるものの、途端に傷が痛み出してきてくるものだから、何も思い浮かばない。
しかしどこか、そう。あの暗くて酷い臭いの場所が薄暗い天井の石を画にして甦りかけたが、痛みが先程より鋭く突き刺してきた。
必死に伸ばしていた『彼』の手はとうとう力尽き、だらんと力無く寝床へと倒れ、そのまま『彼』も深い眠りの中へと落ちていく。
それは次に起こりうる光景を前に、ある種の予感がそうさせた。『彼』にはまだ珍道中を巡りには些か体力の余裕もない。
知ってか知らずか、それでも騒ぎはやってきた。集まり、連なり、結われて、まとまって。彼らは押し寄せてきた。
「王ぅー!」
「陛下ぁー!」
「国王様ぁー!」
「王ぉー!ご無事ですか!?」
「ええい!貴様らは入るな!宮医だけだ!宮医を通せ!おい!押すんじゃない!」
「何を言うか!騎士団は廊下を守れい!ワシだ!ワシが先なのだ!」
「団長!宮医だけなんでしょう!?宮医さん以外通しちゃダメなんですよね!?なんで団長は部屋に入ってんですか!?」
「ええい!黙れ!私が傍におらなければ王の身に何かあったらどうするのだ!」
「じゃあ俺達も!!」
「ええい!邪魔だ!城壁を守ってろ!」
「あー、!」「だー、!」
「こー、!」「だーっ、!」
遠くの意識の外で、バタバタと幾人もの何十人もの足音が部屋へ雪崩こんできたような気がしたけれど、今少しばかりは構うことは止そう。痛くて辛くて、たまったもんじゃない。
……
眠りが浅くなる。目の奥から湧き出るかのようにそれが分かるほど、今はっきりと意識がどこからか戻ってきた。体の感覚は痛みよりも、痒みを感じていて無性に不快感のある場所を掻きむしりたい。
目を開けると、あの夕日の部屋はすっかりと暮れていて、部屋の中は夜の間際にあった。それでも左側からほんのりとした暖かい灯りが照らしているおかげで、頭の傍らのすぐ側で椅子に腰掛けたまま眠る彼女の姿が見えた。
もたげて落ちそうな頭はかろうじて姿勢を維持しているものの、緩やかな落下の放物線の途中にある。小さな突き一つを加えただけで倒れてしまいそうだ。
そんな彼女の手は膝元へと置かれている。大きく手を伸ばせば、どうにか触れられそうな場所にある。眠っている彼女を少しの間見つめていたが夕日に照らされたこんなに美しい彼女が本当に目の前に存在しているのだろうか。耳を澄ますと彼女の寝息が細く聞こえる。
聞こえるばかりで、何も思いつかない。と言うより、思いつく動力がない。頭の中はずっとモヤに包まれ、潮流に流された沖合いのようだ。
不安ばかり心にあるが、手を伸ばせば何か思い出せそうだと半ば好奇心ありきで、彼女に断りもなく手に触れてみた。
「…っ」
じわっとした感覚が背筋に走った気がした。
柔らかく艶やかな女性の手だが、その皮膚のうちにある強靭な皮下組織には積み重ねてきた筋肉も感じられた。それでも、とても優しいものだった。
『彼』はその温もりに触れ、目を閉じて思い出そうとする。傷口の痛みに体が硬直し、息のできぬ肺の痛みに震え、寒気と痒みで眠れぬ日があっても、『彼』の手を握っていた彼女の手を、傷にも身にも沁みている。感情の震えが『彼』になびかせる。心に行き届いた思いが涙を流して沸き起こり、それは深い感謝の意を込めた力となって、『彼』は力いっぱいに彼女の手を握った。
その力に応えたのか、彼女は『彼』の手をそっと握り返した。いつも握っていてくれたあの感触が、涙で崩れていく『彼』をより一層
思いの底まで溢れさせた。鼻の奥を刺激し、それは鼻水まで通ってくる。
止めどなく溢れる涙と一緒に、『彼』は一声泣いた。一声泣いたら最後、もう抑えようのない苦しさへの反動が表れて、『彼』は怪我の痛みなど忘れ、左手だけに力を込めてむせび泣いた。
泣き声に、彼女はハッと目を覚まし自身の置かれている状況を即座に理解した。繋がれた手に、取り乱して泣く姿。
彼女は顔を青ざめて即座に手を離し、椅子から飛び上がってベッドから6歩離れて転げ周りながら深々と頭を下げ、盛大なる謝意を腹の底から声に出した。
「も、申し訳ありません!!!」
「大変申し訳ございません!!この罪深き我が手の業は…!ここで即座に切り落としてお詫びを…!」
彼女の鬼気迫る声に駆けつけた、全身に白衣を纏った宮医が扉を開け放って乗り込んでくる。目下一番にやってきた情報の量は凄まじい。本来の体格を忘れたかと思うほどに小さく縮こまって謝罪を述べ続ける女騎士と、その後ろには咽び泣いている幼子の傷病者。
「アロア、なにごとですか!」
「うぅ!宮医ぃ…!私はなんということを」
「アロア!?一体なんだというのですか!」
「宮医!すぐこの手を切り落としてくれ!」
「一体なにを…!王がお泣きになられているのですよ!?」
「私のせいだ!私の手が…!王を穢してしまったのだ!」
「そんな事より早くそこを退きなさい!王の治療が最優先です!」
「し、しかしぃ…!」
「ほら立ちなさい!手ならあとで好きなだけお切りなさい!今は王の治療です!」
分かっているものには分かっている。何が重要であるかは勿論、何を一番にすべきことかを迷うことなく選ぶというのは、医を志す者の真髄にある。
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