第9話 技能決定

「お待たせしました。二十個くらいまでの絞り込みであれば手伝っても構わないという許可を貰いました」

「ありがとうごじゃいましゅー」

「にゃうっ!?」


 嬉しくてホッとして、半泣きになりながら思わずアウラロウラさんに抱き着いてしまった。

 そして可愛らしい驚きの声いただきました!


「いきなり飛び付いてきたりしては危ないではありませんか!確かに『OAW』は仮想現実であり、無茶ができますし、時には無茶をしなくてはいけないこともあります。ですがそれには仮初であっても命の危険というものが伴うのです。それを忘れてしまってはリアルでその身を危険にさらしてしまうことになりかねないのですよ。聞いていますか?」

「は、はい!ちゃんと聞いてます!」


 そしてお説教されました。

 ウサギ耳のにゃんこさんを怒らせるのはダメ、絶対!今日ボクは一つ賢くなったよ……。


「ふう、それでは本題に戻りましょうか」


 一通りのお説教を終えたのはボクの体感で数時間が経過した後の事だった。後から実際はたったの五分しか過ぎていなかったと知って物凄く驚くことになる。

 仮想現実なのをいいことに、時間経過を操作されていたのかもしれない。

 はい、そこ!お説教されていたから時間感覚が狂ってしまっただけとか言わない!きっと、多分、そんなことはない……。はず?


「リュカリュカさん、候補の中に能力値を上昇される技能も入っていましたよね?」


 心の中の誰かと討論しているボクを余所に、アウラロウラさんは話しを進めていく。


「え?あ、はい。というか全種類あります」


 能力値はキャラクターの根本の部分だ。正比例とまではいかないけれど、これが高いほど強力なキャラだと言えることは間違いない。

 そのため候補には〈運〉を除いた五つの能力値を上昇させる技能が加えられていた。


「それらは全て候補から除外してください」

「ほわい?なぜに?」

「確かに能力値を上昇させることは一番分かり易いパワーアップであり、重要なことだと言えます。レベルアップ時の能力値アップボーナスが〈運〉以外の五つの内、任意を一ポイントだけしか上昇させられないことを考えても、これら能力値アップ技能の性能はそれなりに効果が見込まれることでしょう」


 ちなみに、一覧の中にあった能力値上昇系の技能は、〈筋力〉〈体力〉〈敏捷〉〈知性〉〈魔力〉がそれぞれ二ポイント上昇する〔○○の法〕五種と、〈筋力〉と〈体力〉が各一ポイントずつ上昇する〔戦いの記憶〕、〈敏捷〉と〈知性〉が各一ポイントずつ上昇する〔物作りの記憶〕の計七種類だった。

 つまりレベル換算にして一つの技能当たり二レベル分の能力値アップとなる訳だ。


「しかし、それらの技能にはデメリットが設定されています。他の技能とは異なり、熟練度がないのです。当然、熟練度が最大になった時に発生する上位技能への変化もありません」

「な、なんだってー!?」


 即効性がある反面、一切成長することがないということみたい。


「さらにですね……、序盤から入手機会が設定してあり、他の技能に比べて安い金額で取引されていることが多いようなのです」


 取引、プレイヤー間のアイテム売買のことかな。

 基本的には一人用であり、個々人でお話を進めていくことになるのだけれど、レアアイテムを入手した場合には専用の町に行くことで、他のプレイヤーとの交換や売り買いができるようになっているのだ。


「それじゃあ、緊急に戦力アップする必要が発生してから購入するのでも問題はない?」

「その認識で間違いないと思われます」


 きっちりかっちりと断定されないところに、少しばかりの不安を感じないでもない。だけど人工知能である彼女が、これだけアバウトでファジーな対応ができるというのは素直に感心するべきなのかもしれない。

 まあ、ここはそんな高性能なにゃんこさんの意見に従っておくことにしよう。……ウサギ耳なことだけは未だに意味不明だけど。


 そんな感じで、アウラロウラさんのアドバイスに沿って候補にしていた技能を次々と消していき、最終的に残ったのがこちら。


 〔調教〕…言わずと知れた<テイマー>専用技能で、魔物を仲間にすることができる。


 〔槍技〕…槍を扱う際に補助をしてくれる技能。熟練度が上がると戦闘技を覚える。


 〔水属性魔法〕…水属性の魔法を使用するための技能。熟練度が上がると新しい魔法を覚える。


 〔風属性魔法〕…風属性の魔法を使用するための技能。熟練度が上がると新しい魔法を覚える。


 〔調薬〕…薬を作る時に補助してくれる技能。熟練度が上がると作れる薬の種類が増える。


 〔生活魔法〕…生活する上であると便利な魔法を使用するための技能。最初は【種火】のみだが、熟練度が上がると魔法の種類が増える。実は使い方次第で……。


 〔鑑定〕…様々なものを鑑定するための技能。熟練度が上がると鑑定できる種類や項目が増加する。時にMPを消費することがある。


 〔警戒〕…周囲の敵意や殺気を感知する時に補助してくれる技能。熟練度が上がると感知できる範囲や種類が増加する。時にMPを消費することがある。


 〔気配遮断〕…自分の気配を隠す時に補助してくれる技能。最初は動きを止める必要がある。熟練度が上がると動かせる体の部位や移動できる距離が増加する。時にMPを消費することがある。


 〔軽業〕…体を軽やかに動かす時に補助をしてくれる技能。熟練度が上がると、よりアクロバティックな動きができるようになる。極めれば舞い落ちる木の葉すら踏み台にすることが可能だと言われている。


 魔物を仲間にすることを前提に、基本的には一人で動き回ることを念頭にした技能構成となった。生産系列の技能を〔調薬〕にしたのも、自分で使うためのアイテムを確保するためだったりする。

 というか、売る分が残るかどうかすら怪しいかもしれない……。後は実際にプレイしながら確かめて行く他はないのかもね。


「さて、残るはリュカリュカさんの外見だけとなりましたが、ここまでのことで何か疑問点や不満に感じた点などはありませんか?」

「特にはないかな。まだゲームを本格的に始めた訳じゃないから、仕様がよく分かっていないということもあるのだろうけど。まあ、それを言い始めたらきりがないしね」


 同じような観点から、もっと強くしたいという気持ちもあるけど、それは不満というよりはただの願望だ。

 しかもゲームバランスを破壊しかねない類のものなのだと言える。

 チートっぽい無双状態は、一時は楽しくても飽きるのを速めてしまうからだ。


 結局のところ、上手くいかないことへの愚痴を言いながらも腐ることなく試行錯誤を繰り返すこと、難関や難問を乗り越えることを苦労だと思わず楽しむことができること、そんな心の余裕が大切なのだと思う。


 まあ、適度に発散することも大事だけどね!

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