第10話 リュカリュカちゃん完成
「それでは、作成をやり直す必要はありませんか?」
アウラロウラさんに問われて少しだけ悩んでしまう。
それは、種族決定後のボーナスポイントについてだ。今回のキャラ作成では三ポイントのボーナスをもらっている。
だけど、ランダムボーナスに挑戦するなら最大で六ポイント。レベル換算で六レベル分のボーナスを手にすることができるのだ。
その差は実に二倍。これは大きい。
特に技能熟練度も低くできることが少ない上に、ゲーム内の世界に慣れていない最序盤では数値以上の効果があると思う。
「でも……、一か二が出てオーアールゼットな状態になった未来しか思い浮かばない……」
多分、いや間違いなくそうなるだろう。ここぞという時のボクの運の悪さには定評があるのだ。……言ってて悲しくなってきた。
あー……、そうか。里っちゃんがこういう時に狙って悪い結果を出していたのはボクに付き合ってくれていたからなんだね。
今度会った時には「許して」と言うまでずっと引っ付き虫になってやろうと心に決めるボクなのだった。
さて、里っちゃんに
やっぱりこのまま進めることにしようと思う。いずれセカンドキャラも解放されるという話があるようだし、別の種族や職業については、この冒険が行き詰まったり、飽きてしまった時に考えればいいだろう。
それに、頭をこねくり回して考えたから、愛着も沸いてきているからね。
「それでは、ここまでのキャラクターの状況を保存させていただきます」
ウサギ耳にゃんこさんがそう口にすると、ババーンと大きく、『せーぶちゅう』の文字が浮かび上がってきた。
「なにゆえ、ひらがな?」
「仕様です」
仕様なのか……。それじゃあ仕方がないの、か、な……?
後から考えれば物凄くどうでもいい事だったのだけど、なぜかその時のボクはとても気になってしまったのだった。
「それでは最後の難関である外見の決定と行きたいところなのですが、リュカリュカさん、時間は大丈夫ですか?」
「え?時間?」
意識した瞬間、ポンという軽い音と共に小さな置時計が現れた。
それを見て、改めて自分は今、仮想現実の世界にいるのだと認識することになった。
「リュカリュカさん、感心するのは後にして、時間を見てください」
「あっと……。そうでした、そうでした」
再度促されて表示された時間を確認してみると、なんと日付を跨ぐ時間となっていた。
確かキャラクターメイキングを始めたのが午後九時だったから……。ビックリ。なんと三時間以上もこの場所にいたことになる。
「入力されたパーソナルデータの通りであるならば、未成年の学生、となりますよね」
「間違いないです」
パーソナルデータはリアルでの『国民番号』の入力が必須なので、嘘を吐く事はできなくなっている、らしい。
どうして断言ではないのかというと、まあ、早い話、抜け道や裏道は何にでも存在するということですよ。
「それでは、そろそろログアウトして休息を取った方が良いのではないでしょうか」
と、終了を提案してくるアウラロウラさん。
本音を言えばこのまま切りの良いキャラ作成完了まで進めてしまいたいところだ。明日――いやもう今日になったのか――は日曜日で少しばかりの朝寝坊も許されるステキな日なのだから。
……が、彼女の声は優しげではあったけれど、拒否することを許さない圧力のようなものが込められていた。
どうやらこれが里っちゃんの言っていた没入を防ぐための機能の一つであるらしい。
「う……、わ、分かりました。今日のところはここまでにします」
結局、ウサギ耳にゃんこさんの迫力には勝てず、ボクはログアウトすることになった。
まあ、明日の楽しみができたと思えば、そんなに悪い事でもない。
あ……。アウラロウラさんにウサギ耳の事を聞くのを忘れていた。
そして翌日、十時までたっぷりと
「おはようございます、リュカリュカさん。今日も良い一日になりそうですね」
「あ、どうも。おはようございまああああ!!!?」
出迎えてくれたのは昨日も会ったにゃんこさんのアウラロウラさんだ。しかし、昨日はウサギ耳があったはずのその頭上には、なぜか鹿のような枝分かれした立派な角が生えていたのだ。
「フフフ。ただの飾りですよ」
何と言っていいのか分からず硬直するボクに笑いかけながら、頭からカポッと角を取り除くにゃんこさん。どうやら幅広のカチューシャのようなものに取り付けられていたらしく、その下からは可愛らしい彼女自身の耳が、みょんと飛び出していた。
「ど、どうしてそんな真似を?」
「ちょっとしたお茶目ですよ。プレイヤーの方の中には緊張されている人もいましたので、それを取り除くという意味もありますね。……昨日もせっかく渾身のウサギ耳を付けていたというのに流されてしまいましたから、今日は絶対に突っ込まざるを得ないだろうというものを付けて待っていたのです」
うん、前半はまあ、理解できなくはないね。ボクだって本格的なVRゲームは初めてだから、それなりに緊張してしまっていた。
でも後半のそれって、要するにボクが無反応だったからリベンジしようとしていただけだよね!?
……こんな不可思議な面を持たせるくらいなら、もっとアドバイス等をしてくれるような機能を充実させてくれればよかったのに、と思ってしまうのはボクがVR初心者だからでせうか?
「それではさっそく、残るキャラクターの外見を決めてしまいましょうか」
はあ……。本当に人工知能なの?と疑いたくなるほど、いい性格をしているよ。
そして十数分後、外見は完成した。
「外見の決定には何時間もかかる人が多いのですが、リュカリュカさんはあっという間でしたね」
顔だけでも輪郭から始まって、目や鼻などの各パーツの位置まで自由に決められるから、こだわってしまう人が多いのだとか。
それもあって、昨日は外見作りに進む前にログアウトさせられたということのようだ。
「まあ、リアルの外見からそれほど変化させていないしね」
髪の毛を青や緑といったアニメ色に染めてみること等、大胆な変化も考えてみたのだけれど、自分だと思えなくなりそうだったので、簡単にリアルが特定できない程度の変化に留めたのだった。
「それでは以上でキャラクターの作成を完了して、データを正式に『OAW』に登録してもよろしいですか?」
「お願いします」
そして現れる『にゃう・ろーでぃんぐ』の言葉。しかもご丁寧に周囲には猫の足跡マークまで散りばめられていた。
妙なところで芸が細かい。
「……登録が完了しました。このまままっすぐ進みますと『OAW』の世界へと行くことができます。あなたの冒険が素晴らしいものになりますように」
「ありがとう」
お礼を告げて、彼女が作り出した一本道へと足を向ける。
さあ、ここからが始まりだ。
この先にどんな世界が待ち構えているのか。
沸き上がる高揚感を胸に、ボクは一歩一歩足を踏み出して行った。
◇ 初期ステータス ◇
名 前 : リュカリュカ・ミミル
種 族 : ヒューマン
職 業 : テイマー
レベル : 1
HP 50
MP 30
〈筋力〉 5 +1(装備品攻撃力)
〈体力〉 5 +3(装備品防御力)
〈敏捷〉 6
〈知性〉 6
〈魔力〉 6
〈運〉 5
物理攻撃力 6 物理防御力 8
魔法攻撃力 6 魔法防御力 6
〇技能
〔調教〕〔槍技〕〔水属性魔法〕〔風属性魔法〕〔調薬〕
〔生活魔法〕〔鑑定〕〔警戒〕〔気配遮断〕〔軽業〕
〇装備 手
・初心者用ナイフ(耐久値無限) : 物理攻撃力+1
備考…売買不可。野草の採取から倒した魔物の解体までできる多機能ナイフ。
〇装備 防具
・初心者の服 上(耐久値無限) : 物理防御力+1
備考…売買不可。上半身の装備品が破壊された時には、強制的に着替えさせられる。
・初心者の服 下(耐久値無限) : 物理防御力+1
備考…売買不可。下半身の装備品が破壊された時には、強制的に着替えさせられる。
・初心者の靴(耐久値無限) : 物理防御力+1
備考…売買不可。脚部装備品が破壊された時には、強制的に着替えさせられる。
〇アイテム
・初心者用回復薬 ×5 HPを50回復。ただし6レベル以上は10に激減する。
・安物ビスケット ×3 空腹度を30減少させる。どちらかというと不味い。
・初心者用武器交換チケット ×1 名前に初心者用と付いた武器と交換できる。
〇所持金
・1500 デナー
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