第8話 技能が大事

 種族と職業が決まり、キャラクターメイキングも技能と外見を残すだけとなった。


「さて、これまでのことがリュカリュカさんというキャラクターのイメージや方向性を形作るものであったとするならば、これから行う技能選びは、それを具体的に叶えていくための力を得るということになります」


 技能は所持していることにより効果が増すものと、所持していることで初めて使用できるようになるもの、この二つに大きく分けることができる。

 これは言い換えると、リアルにも存在する技術――数値化されてもいなければ、目に見えたりするものではないけれど――か、そうでないものかということになるだろう。


 例えば、これまでも何度か例として登場してもらっている〔剣技〕は、リアルにも存在する――と言ってもいいはず!――のカテゴリーに入るものであり、所持していればボクのようなリアルでは木刀どころか竹刀にすら触ったことがないような人でも、適切に近い形で攻撃を繰り出すことができるようになる。


 反対に、所持していなかったとしても剣を用いての攻撃はできるし、リアルで剣道等の経験者であれば、十分に実戦――もちろん、ゲーム内の話――で通用したりもする。


 一方リアルに存在しないもの、例えば〔火属性魔法〕技能は所持していなければ使うことすらできない。

 使ったこともない上に、存在すらしないと思われているものを、ゲームの中、その元となる力――魔力のこと――を持っているとはいえ、使用するなんてことはできないということだね。


「確かに持っていなくても使えますが、それは所持しなくても良いということとイコールではありません。剣道やフェンシングなどの経験者が〔剣技〕を持てば、より早く鋭い理想的な一撃を放つことも可能となるのです」


 簡単にまとめると相乗効果が生まれる、ということのようだ。

 結論、技能は持っておいて損はない。


「しかし、残念ながら初期状態で持つことのできる技能は、十個までと定められているのです」


 しかもボクの場合、<テイマー>の専用技能である、〔調教〕を強制的に取得する必要があるので、実質的には残り九個しか選べないということになる。

 ここは慎重に慎重を重ねて、しっかりと吟味しなくては!


「まあ、ここで選択できる技能の大半は、ゲーム序盤から購入ないしは習得できるものばかりですけれど」

「そうなの!?」

「はい。ただ購入するにしてもそれなりに高価だったり、習得するにしてもかなりの時間が必要だったりはしますね」


 そういえば課金することでゲーム内通貨である『デナー』を買う事もできるんだっけ。

 ……うん?こっそりと課金に誘導されている?

 何にしても、お小遣いがギリギリだから今の段階では無理だけどね。ない袖は振れないのですよ……。


 それはともかく、ゲームを開始してからも技能を入手できるというのは朗報だ。

 最悪、ここで取得した十個だけで進めていかなくちゃいけないのかと思っていたからね。


「おすすめの技能ってありますか?」

「よく聞かれるのですが、プレイヤーの方一人一人の好みや方針などがありますので、具体的に答える事はできません」


 うみゅ、なかなか上手い逃げ方だね。


「ですが、物理攻撃ができる手段を一つ、魔法攻撃ができる手段を一つ、そして生産系の技能を一つ取っておけば、比較的身動きが取れなくなるという状態には陥り難いように思われます」


 ふむふむ。複数の攻撃手段を持てというのは、魔物との戦いになった時にいかようにでも動けるようにするため、ということかな。

 それに確か昔、一也兄さんがやっていたRPGにも特定の攻撃を無効化する魔物が登場していた気がする。状況によってはそんな相手と一人だけで戦わなくちゃいけないこともあるだろう。


「生産系技能をおすすめしたのは金策にも利用できるからです。ただし、ほとんどが専用のキットが必要であり、初期投資を行わなくてはいけない点に注意が必要です」


 それに素材となるアイテムもいるから、それを見つけ出して確保できるような技能も一緒に覚えておかなくちゃいけないだろう。


「とりあえずは技能の一覧から、これは、と思えるものはどんどんチェックしてみてはいかがでしょうか。その後、さらにそこから絞り込んでいけば、そうそうは必要ない技能を取ってしまうようなことはないかと思われます」


 ナイスアイデア!

 それなら、ゲーム開始してから次に取りたい技能も分かるし、一石二鳥だね!


 ということで第一段階の絞り込みとして、気になった物を次々にピックアップしていった。


「確かにどんどんチェックしろとは言いましたが……。これはいくらなんでも多すぎではないかと」


 一覧から抜き出した技能を見たウサギ耳にゃんこさんが苦笑している。

 うん、ボクもさすがに五十個を超えたのはやり過ぎだったと思ってます。だけどね、それほどにどの技能も魅力的だったんだよ!


「アウラロウラさん、このままだと絞り切れそうにないので、アドバイスをお願いします」

「……困りましたね。私の立場上、一人の方に肩入れするような真似はできないのです」

「そこをなんとか!」

「仕方ありません、少し待っていてください。今から上の者に確認を取って参ります」


 と言うと、掻き消えるように姿を消してしまった。


「こういうところを見ると、リアルじゃないんだっていうのを改めて実感する……」


 おっと、いくら彼女が親切でも頼りきりになるのは問題だろう。この間にもう一度見直してみることにしようっと。


「うーん……。物理攻撃の技能は……、魔物に近付き過ぎるのは怖いからリーチの長い物の方がいいよね」


 ちなみに弓矢という選択肢はない。

 一カ月ほど前にあった高校の部活動オリエンテーションで、アーチェリー部の弓を引かせてもらったことがあったのだけど……。

 担当してくれた先輩から「センスがないから怪我をしないうちに止めた方がいい」的な言葉をやんわりかけられたというブラックな過去があるからだ。


 そういえば、長刀部の先輩からは逆に「筋がいい」と言われていたっけ。

 まあ、勧誘のためのリップサービスの可能性が大だけど、こちらの方がまだマシかな。

 よし、物理攻撃の技能は〔槍技〕にしよう。他の候補は一旦消去して、と。


 うわー、まだ四十七個もあるよ。ボクってここまで優柔不断だったのか……。

 自分の知らなかった一面、しかも悪い方のものを突き付けられているみたいでちょっと凹む。


 種族と職業の時は、うまくアウラロウラさんが誘導してくれていたんだなと、彼女の存在をありがたく思ってしまうのでした。

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