第7話 テイマーになります

 アウラロウラさんから基本職について説明をしてもらっているところだけど、聞けば聞くほど<サモナー>と<テイマー>はデメリットばかりのように思えてしまう。


「なんだか、不利な点ばかりが目立ちますね」

「そうですね。実際、特にゲームに慣れるまでは苦労する方が多いようです。しかし、しかしです!そんなマイナス面を引っ繰り返してしまえるだけの魅力と性能を持っている職業でもあるのです!」


 いきなり拳を握り締めたかと思えば、力説し始めちゃったよ、このにゃんこさん!?


「なんといっても魔物を仲間にすることによって戦力アップが図ることができるので、格上の魔物の討伐などがし易くなります。当然ですが、一人で依頼をこなすことができればその依頼金を総取りすることができますので、その分強力な武器や防具、アイテムなどを購入しやすくなることでしょう」


 ゲーム内のNPCたちもそれぞれの生活リズムに従って行動しているので、毎回同じ人たちとパーティーを組めるとは限らないのだとか。

 完全に自分のペースのみで行動したいという人には都合がいいのかもしれない。


「運の要素は絡みますが、<サモナー>であれば、最初から強力な魔物が仲間になる可能性もあります」


 アウラロウラさんの言う運というのは、能力値の〈運〉ではなく、リアルラックの方です。

 そしてボクはリアルラックが超絶に微妙なので向いていないとも思われます。この手のゲームの物欲センサーは非常に優秀だと相場が決まっているし……。


 ちなみに里っちゃんはこのゲームを当てた以外にも、地元の商店街の福引で一等から三等までを独占したことがあるくらいリアルラックが高かったりする。

 と、この話はまた追々するということで。


「<サモナー>は、ということは<テイマー>にはそういう美味しい話はない?」

「残念ながらシステム的に優遇されている部分はありません。ただ、<サモナ>ーとは異なり、狙った魔物を仲間にすることができる、かもしれません」


 <サモナー>で〔召喚〕を行う場合、魔物の系統のような大まかな点しか設定することができないので、最終的に望んだ魔物が召喚されるかどうかは分からないのだとか。


 例えば、フェンリルというとても強い魔物を仲間にしたいのだけど、その時に設定できるのは『狼系の魔物』という一点のみだったりする。そのため、最下級のワイルドドッグという魔物が召喚される可能性もあったりするそうだ。

 その点テイマーは、ピンポイントで仲間にしたい魔物を選ぶことができるという訳だ。


「まあ、その魔物が生息している場所に行けて、なおかつ対象の魔物を納得させられるだけの力が必要となるのですけれどね」

「ぎゃふん!?」


 それ、難易度が高過ぎて絶対ダメになるやつだよね!?

 その上、敵対心を高めるような戦い方をしてしまった時には仲間にすることができなくなってしまうそうだ


「サモナーはともかく、テイマーの方はデメリットがきつ過ぎだと思う……」

「ですが、テイマーであれば、例えばこんな子たちを仲間にすることが可能ですよ」


 ウサギ耳のにゃんこさんがパチンと指を鳴らすと、なんと彼女の足元に、生後数か月くらいの子猫や子犬たちがわらわらと現れたのだった!


「うわー、うわー!!可愛い!!」


 思わず駆け寄りたくなるのを我慢するボク。実はうちの家系は動物アレルギー持ちが多く、ボクや里っちゃんも少しだけアレルギー反応があった。

 そのため、リアルでは動物を飼うどころか飼育委員にもなることができなかったという悲しい過去があったのです。


「リュカリュカさん?ここは既にゲーム内なのでリアルの体に影響はありませ――」

「うっひゃあ!!可愛い可愛いねえ!!」

「……今のリュカリュカさんは、ワタクシがご案内してきた新規プレイヤーの方々の中で、間違いなく最速でしたわ」


 アウラロウラさんが何か言っていたけれど、子猫ちゃんや子犬くんたちを愛でるのに忙しく、この時のボクには全く聞こえてはいなかったのでした。


「ふはー……。堪能致しました……」


 数十分後、大満足でボクはそう呟いていた。

 とはいえ、十匹以上いた子たちといっぺんにたわむれていたので、何気に駆け足気味になってしまったのは残念だったかな。

 当の子猫たちアンド子犬たちは、やり切ったお顔ですやすやと眠りについていた。


「まさかこの子たちが遊び疲れて眠ってしまうだなんて……」


 恐れおののいたように言っているけど、ボクはただ戯れて遊んでいただけです。


「そうそう、ゲーム内のダンジョンには、今のように子犬や子猫たちがじゃれついてきて動きを止めるという罠が実装されていますので注意してくださいね」

「それってすっごく凶悪!?」

「もちろん冗談ですけどね」

「冗談なの!?」


 うーん……。アウラロウラさんはにゃんこなお顔の上、アルカイックスマイル的な微笑みを浮かべているので、全く情報を読み取ることができない。

 ウサギ耳は伊達ではないということか!


「それと、拡張現実ARの技術を用いて仲間にした魔物たちとリアルでも触れ合えるような追加コンテンツを現在鋭意製作中です」

「なんですと!?」


 そ、それはボクみたいなアレルギー反応持ちでも、リアルで動物さんと触れ合えるということですか!?


「ただ……、想定以上に難易度が高く、当初よりも開発費がかかってしまったこともあって、課金制になってしまいそうだということです」

「世知辛い!」


 いや、ボランティア事業をしている訳じゃないから仕方がないことだとは思うんだけどね。

 間違いなく人気が出そう、つまりは集金能力が高そうだし。


 ただ、個人的にはこの『OAW』の月々の基本利用料金のことも考えると、このサービスを利用するのは難しそうだ。

 お小遣いを増やしてもらえるように、勉強を頑張ればなんとかなるかなあ……。


「ですが、携帯端末にダウンロードして連れ歩くとことなら無料でできるようになっていますので!」

「ほ、本当ですか!?」


 これはとても嬉しい機能かもしれない!

 ボクの中では、テイマーとサモナーの順位が一気に急上昇していた。


「確認なんですけど、この子たちみたいな子どもの魔物を仲間にできるのはテイマーだけということでいいですか?」


 眠っている子猫や子犬へと視線を向けながら尋ねる。暖を取っているのか、一塊になって眠っている姿が非常に可愛らしい。


「その通りです。サモナーの〔召喚〕では成体となった魔物しか現れることはありません」


 この回答でボクの心は決まった。


「職業はテイマーにします!」

「ご利用、ありがとうございます」


 その返しは色々とおかしいと思う。

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