第2話 VR型RPG

「正確に言うと、完全なオフラインって訳じゃないんだけどね」


 里っちゃんの説明によると、作成したゲーム用キャラアバターの姿のまま他のプレイヤーと交流したり、アイテム等の売り買いをしたりできる専用の町があるのだそうだ。

 加えて、ログイン状況を管理するためにネットへの接続が必須となっているのだとか。例の「没入を防ぐための機能」の一つということらしい。


「そもそも、このゲームはあるVR型のMMORPGを元にしているのよ。ほら、ああいうゲームって、一度しか発生しないタイプのイベントも多くて、参加できなかった人たちから不満の声が上がっていたの」


 他にも、イベント進行中にNPCが死んでしまった時や、選択を間違えてしまった時などはやり直すことができるように変更されているのだとか。

 要するに、一人用のゲームにすることで納得できる結末になるまでやり込むことができるようになっている、ということらしい。


「リアリティをウリにしていたMMOの作品に比べると、よりゲームらしさを前面に押し出してきた形ってことになるかな。その分、NPCの言動には不自然に感じられるところが出てきているそうだけど」


 比較対象がないのでボクには上手く想像できなかったけれど、ゲーマーである里っちゃんがそう言うのであれば、その通りなのだろうと思う。


「ここまでの話はまあ、大体は分かったけど、それと今日の呼び出しとどう関係があるの?一人用なんだから、一緒にそのゲームを遊ぼうっていうお誘いじゃないよね?」


 本題へと入ってはいるのだろうけれど、いまいち核心の部分が見えてこない。

 明朗で活発な里っちゃんにしては珍しいということもあって、こちらから切り込むことにした。


「やっぱり、優ちゃんには敵わないなあ……」


 そういう里っちゃんの顔は、ほっとしているようでいて、それでいてどことなく拗ねているようにも見えた。

 相手がボクだから良かったものの、そうでなければ確実にお持ち帰りされているだろう可愛さです。本当にありがとうございました。


 などという場をわきまえないおバカな感想はどこか遠くに投げ捨てるとして、核心部分について話してもらうことにしよう。


「あ、カツ丼とかあった方が雰囲気が出るかな?」

「優ちゃん、さすがにこのお店ではカツ丼は置いていないと思うわ。カツサンドならあったはずだけど」

「じゃあ、それで!」


 いや、もうすぐお昼だから、小腹が空いてしまったのですよ。

 里っちゃんと半分こしたカツサンドはそれでもボリューム満点でした。


「お腹もいっぱいになったところで、キリキリ白状してもらいましょうか!」

「あ、そのネタまだ続くんだ」

「その方が話しやすいかなと思って」

「うーん……、微妙?」

「なんですと!?ってまあ、いいや。とにかく続きをお願い」


 すっかりグダグダになってしまっていたけど、二人で悪乗りしている時はだいたいこんなものだったり。


「えっとね、その一人用RPGを私の代わりにやってくれないかな」

「ボクが!?」


 おおう!まさかの急展開!?


「もしかして里っちゃん、そのゲームを持っているの!?」

「イエス」


 短く答えた彼女が取りだしたのは、VRダイブ用の簡易式ヘッドギアだった。


「わわっ!?これって最新式のモデル!?」


 VR以外のネットダイブにも使用できるため、この手の簡易式ヘッドギアは持ち運びの便利さと相まって常に品薄状態が続いていた。

 しかもその最新モデルともなると、どこからともなく「無理矢理にでも奪い取る!」という傍迷惑はためいわく極まりない人が湧いてきそうなほどの人気商品なのだ。


「どうしたの、これ?」

「抽選で当たったの」


 里っちゃんは件のゲームの元になったという、MMORPGの方をプレイしていたのだそうだ。


「受験が終わってから久しぶりにログインしたら、ちょうどカムバックキャンペーンをやっていて、何気なく応募したら当選しちゃってたの」


 なんというリアルラック!

 だけど、それに見合うだけの努力を彼女が続けてきたこともボクは知っているから、妬む気持ちにはなれなかった。

 ……ちょっとだけ羨ましくは思ったけれどね。


「でも、それなら里っちゃんがやれば良いんじゃないの?」

「それがねー……。私、学校で学生会の役員に指名されちゃったから、時間が取れそうもないのよ……」


 うわー、それはなんというかご愁傷様な展開だ。

 まあ、白羽の矢が立ったことそれ自体は不思議でも何でもないけど。なにせ中学時代にも生徒会役員に選ばれていて、三年の時には会長も務めていたことがあるからだ。


「お父さんからもお母さんからも、将来有利になるからやっておけって言われているし」


 里っちゃんの通う高校は、ボクたちが住む県内でもトップクラスの進学校として有名な学校だから、おじさんたちがそう言うのも理解できる話だ。

 え、ボク?……家から近くて通うのが楽なことが一番の利点という、中の下程度な学力レベルの学校ですがなにか?


「里っちゃんは学生会に入ることはどうなの?」


 それはともかくとして、こういうことは本人の意思というものが大切だ。いくら進学の際などに有利になるとはいえ、嫌々では本人にも周囲にも負担にしかならない。

 彼女が優秀だということは子ども頃から常に比較され続けてきたボクが一番良く知っている。

 でも、優秀だからこそ抱え込んでしまうということもあるのだ。


「大変そうだけど、高校の学生会がどんなことをしているのか、ちょっと興味はあるよ」


 ボクの質問の意図が分かったのだろう、苦笑いを浮かべながらも彼女ははっきりとそう口にした。

 うーん……。この様子なら無理矢理重荷を背負わされて潰れてしまうということはなさそうかな?

 だけど、状況が変わるかもしれないから、注意をしておく必要はあるかも。おばさんには後でそれとなく伝えておこうっと。


「やっぱり、優ちゃんには敵わないなあ……」


 そんなことを考えていると、またもや里っちゃんがそんなことを呟いていた。ボクなんかよりよっぽど彼女の方が凄いと思うんだけどね。

 これはもう、自分にはない部分に憧れるといった感情の働きなのかもしれない。


 その後は再び他愛もない話となり、結局夕方まで里っちゃんとお喋りを続けることになったのでした。

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