【本編完結済】テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記

京高

第1話 優華と里香

 高校に入って初めての定期考査を終えた五月のある休日、ボクこと三峰優華みつみねゆうかは同い年で従姉妹いとこ三峰里香みつみねりかから急な呼び出しを受けていた。

 爽やかな五月晴れの青空の下、自転車をこいで行く。


 向かう先はつい最近出店してきたばかりの喫茶店。全国展開しているチェーン店だけど、田舎暮らしのボクからすれば十分に小洒落たものに感じてしまう。

 入るのに少しばかり躊躇してしまったのは内緒です。


 当の里香ちゃんはというと、待ち合わせの時間までまだ十分以上あるというのに、当然のようにやって来ていた。

 几帳面な彼女らしいなと思いながら、案内に出てきた店員さんに「待ち合わせ相手が来ているので」と断ってから席へと向かう。


「あ!優ちゃん、久しぶり!」

「里っちゃんもお久」


 ボクの姿を見つけた里香、里っちゃんが笑顔で迎えてくれる。うん、相変わらずの美少女ぶりにこちらも自然と笑顔がこぼれる。


 今の挨拶で気が付いた人もいるかと思うけど、実はボクと里っちゃんがこうして顔を合わせるのは久しぶりのことだった。

 具体的に言うと、一月半ぶりくらいかな。

 同じ町内ではあるけれど、ボクたちのお家は直線距離にして五キロほど離れている。加えて異なる進学先に進んだために、中学卒業後はめっきり顔を合わせる機会が減ってしまったという訳。


「ボクに相談事があるっている話だったけど、一体どうしたの?」


 ミルクたっぷりのカフェオレを注文し、さっそく呼び出された理由を聞いてみる。

 何をやってもそこそこなボクに比べて、里っちゃんは文武両道を地で行くとっても優秀な女の子なのだ。そんな彼女から相談があると言われたので、慌てて待ち合わせ場所へとやって来たのでした。


 勉強関係は……、あり得ないから部活とかサークル方面かな?

 それともまさか恋愛事!?

 むむむ……。里っちゃんと付き合いたいなら、ボクを倒してからじゃないと認めないよ!

 そんな考えが顔に出ていたのか、向かいの席で里っちゃんがクスクスと笑っていた。


「ごめんね、笑ったりして。優ちゃんがボクって言っているのを久しぶりに聞いて、なんだか懐かしくなっちゃって」

「にゃはははは……」


 なんとなく気恥ずかしくなってしまい、誤魔化し笑いを浮かべる。

 思春期に入って以降、意識的に「私」と言うようにしていたから、人前で口にすることはまずなくなっていたのだけれど、子どもの頃からの癖は抜けきってはいないようだ。

 まあ、里っちゃんのことを身内換算としているということもあるのだろうけれど。


「優ちゃんのその癖、一也かずや兄さんの影響だったよね?」

「うん。多分そうだと思う」


 一也兄さんというのは四歳年上の里っちゃんの実のお兄さんだ。

 小さい頃から良く面倒を見てもらっていて、ええと、その……、ボクの初恋の人でもある、かな。まあ、小学生の頃の話だけどさ。

 ちなみに今は県外の大学に進学しており、そちらで下宿生活をしているらしい。


「お待たせしました、ミルクたっぷりカフェオレです」


 ウェイトレスのお姉さんが注文した品を持ってきたくれたので、雑談を中断してさっそく一口頂く。たっぷりのミルクのお陰で砂糖なしでも飲めそう。

 一方、甘党の里っちゃんは既に手元にあったアメリカンコーヒーに五杯も砂糖を入れていた。


「相変わらずの甘党だね……」

「優ちゃん、コーヒーは甘いものなのよ」


 いや、それは違うでしょ。と思ってもそれを口にすることはない。

 それこそ何十回と繰り返してきたやり取りだから、お互いに聞き入れられることがないと分かっているのだ。

 それからしばらくの間は、コーヒーを飲みながら近況報告などの雑談に花を咲かせることになった。


「ところで、優ちゃんはゲームに興味はない?」


 ちょっぴり突然な感じで里っちゃんが話題を変更する。

 なんでもそつなくこなす彼女だけど、間違いなく一也兄さんの影響によるものだろう、なんとその趣味はゲームなのだ。しかも、ここでも持ち前の能力を十二分に発揮して、どんなジャンルでも対応可能という万能ぶりだった。

 それはともかく、どうやら本題に入るようだ。


「ゲームと言っても色々な種類があるよね?」


 居住まいを正しながらそう返事をすると、里っちゃんは小さく「あっ!」と叫んでいた。


「ごめんね。あれじゃあ説明になっていないよね」


 チロリと小さく舌を出しながら、コツンと片手で軽く自分の頭を叩く。わざとらしく演技過剰な動きだけれど、里っちゃんのような美少女がやると途端に絵になるのだからズルい。

 しかも彼女の場合、狙ってやっているのではなく素でこういうことをやってしまうのだから油断ならないのだ。


 ほら!周りの男どもが見惚れちゃってる!


 悪い虫が着いたりしないようにガルルと威嚇すると、各自バツが悪そうな顔で手元の端末へと視線を落としていた。


「えっとね、VRのゲームなんだけど……」


 そんな周囲の様子やボクの苦労には気が付かないまま、里っちゃんは話を進めていた。

 この子、こういうところだけはなぜか鈍いんだよね……。まあ、それは今に始まったことではないし、もう少し詳しく話を聞いてみようか。


「物作りや旅行体験なら興味はあるけど、FPSの戦争ものや格闘ものみたいな痛そうなやつはちょっと遠慮したいかな」


 この十年でVR、仮想現実の技術は加速度的に進歩しており、様々な場面で利用されるようになっている。

 特に娯楽関係への進出に関しては目を見張るものがある、と情報番組でどこかの偉い先生が言っていた。


「うーん……。RPGだから戦闘部分がなくはないかなあ」

「RPG?もしかしてMMO?それなら少しは興味があるよ」


 VRを利用したゲームで高い集客率や売り上げを誇っているのが、多人数同時参加型のものだ。

 その中でもRPGロールプレイングゲームは一等の人気で、いくつものタイトルが発表されていた。


「ごめん、RPGだけどMMOじゃないの」

「え?一人用のオフラインってこと?何か規制がされていた記憶があるんだけど……?」


 確か、物語性が強い一人用のゲームだと、その世界に没入し過ぎてしまう可能性があるとか言われていたような気がする。


「正解。でも去年の夏、その没入を防ぐための機能を取り入れることを条件に、規制が緩和されたのよ」


 去年の夏って……、受験勉強の真っ只中じゃない!?

 ボクには世間のニュースにまで気を配る余裕なんてまるでなかったんですけど。まさかそんな点ですら里っちゃんとの性能の違いを感じることになるとは思わなかったよ……。

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