第4話 ウルとの買い物
仕事を共にしながら、皆の性格が分かる様になっていた。
デランは今『ジェムストーン』の中で一番の年長であるが、面倒見もよく他の二人からはお兄さん的に頼られシーラからの信頼も厚い人物だ。
執事としてもお客様を思っての細かい仕事などでリピーターも多く、現在の稼ぎ頭である。
オリックは、私以外のメイドであり仕事は少しムラがあったりするが、すぐ人の懐に入る会話術が凄く新規のお客さんからの満足度が高い。
特に男性客からの指名依頼が多く、固定客を作りつつある。
最後にウルは、まだ見習いであるが十六歳でもう働いているという点では十六歳の時に働いていなかった私からしたら凄い点である。
仕事に関しては、以前デランたちが言っていたが頑張ってはいるが、それが空回りしたりちょっと不器用な所が悪く出てしまう事があり失敗している。
だが、お客様の中にはそれを寛大に許して応援してくれる人もおりウルもそれに応えようと頑張っている。ちなみに、私もそんな頑張っている姿を応援している一人である。
「今日の依頼は一件だけだが、気難しい相手だからデランだけで行ってくれ。それとオリック、悪いが今日は店番してくれるか。行く所があるからな。で、残りは待機で」
シーラが本日の指示を出し終えるとバックを机に乗せ外出の準備を始め、デランは依頼書を受けより準備室へと向かった。
オリックはシーラに声を掛け、店番の話をしていた。
残った私とウルは、ひとまず上の寮に戻ろうかと私が声を掛け二階へと上がった。
「待機って言われたけど、どうすればいいんだろう? ウル知ってる?」
「そうか、イリナは待機初めてか。言葉の通り待ってるだけだよ。今日の依頼が入れば行く事になるけど、急にそんな仕事は入る事ないし休み見たいなもん」
「へぇ~そうなんだ」
「しかもシーラさんが外出してオリックが店番だし、シーラさんも仕事は来ないと思っているんだと思うよ」
「そう言えば、シーラさんどこ行くんだろうね? 何も言わなかったよね」
「そう言う時は大抵、新規のお客様との交渉とか派遣使用人協会からの呼び出しのどっちかだよ」
派遣使用人協会と言うのは、簡単に言うと派遣使用人を商売としている人たちを守る規律を作ったり、規律違反者を取り締まったりする組織だ。
シーラ曰く面倒な奴ららしい。
そんな会話をして二階のリビングに置いてある机の周囲に私たちは座った。
するとそこへオリックが駆け上がった来た。
「ねぇ、特に予定もないらな二人で買い物行って来てよ」
「買い物?」
「うん。ほら、食料が少なくなって来てるしその分買いたして欲しんだよね~。一応デランにも聞いてリストは作ったから、行って来てくれる?」
「分かったわ。ウルも行くでしょ」
「暇だし行くよ」
私はオリックから買い物リストを受け取ると、オリックは「よろしくね~」と言って一階へと降りて行った。
それから私とウルは仕度を整えてから買い物へと出かけた。
買い物リストはまあまあの量であったが、二人で来ていたのでそこまで大変ではなかった。
お店自体も込み合う前の時間に到着する事が出来た。結果、スムーズに買い物も行え思っていたよりすんなりと買い物は完了し互いに荷物を持って大通りを歩いていた。
「大丈夫かイリナ? もう一袋、俺が持つぞ」
「いや、大丈夫。今筋肉トレーニングしてるし、それの一環にもなると思うし」
「もう腕がプルプルしてるじゃねぇかよ。ほら、俺の方が先輩なんだら貸せって」
そう言ってウルは私の持っていた一袋を奪い取ると前を歩いて行く。
「ちょっとウル、勝手に奪わないでよ。持てるって言ってるじゃん! それに先輩って言うなら、私の方が人生の先輩なんだよ」
「歳でいえばだろ? 何て言うか、イリナは年上って感じがしないんだよね。同い年みないな?」
「ねぇ、それって馬鹿にしてるって事? 私ウルより六つは上なんですけど? 大人の女性なんですけど?」
「そう言う所だよ。俺に張り合う時点で、同レベルって事」
「それどう言う事よウル」
私はウルと変な言い合いをしながら歩き続ける。当然荷物を持ちながらの言い合いだったので、途中で互いに疲れてしまい休憩する事にした。
木陰のベンチに私たちは座り、荷物もベンチの空いているスペースに置き一息ついた。
それから私は近くの飲み物屋が目に止まり、ウルに「ちょっと待ってて」と言って一度ベンチを離れる。私の突然の行動にウルは軽く首を傾げていた。
そして店で飲み物を二つ買って、休んでいるウルに一つ渡した。
「ウルも喉渇いてるでしょ?」
「そうだけど、イリナが買って来たんだから自分で飲めばいいだろ」
「いいから、ほら受け取る。私二つも飲めないしウルの為に買って来たんだからほら」
私が強引にウルに渡すと、渋々ウルは受取り「ありがとう」と小さく呟き飲み物を口にした。
そうして冷たい飲み物を飲みながら休憩していると、一枚の新聞が風に乗って私の足に引っかかった。
私はそれを取り上げ内容に目を通す。そこには第三騎士団の活躍について特集された内容であり騎士団長のアークの写真も写っていた。
目を輝かせながらその新聞を読んでいると、ウルは何を読んでいるのかと思い覗き込んで来た。
「ねぇ、ウルは第三騎士団長の事知ってる?」
「……あぁ、知ってるよ」
そこで突然声のトーンが下がったウルが少し気になったが、私は続けて問いかけた。
「凄いよね~アーク様に私も命の危機を救ってもらったんだ。それと仕事頑張ってくださいってまで言われちゃってさ~もう、最高なんだよね」
「ふ~ん、そいつが好きなんだイリナは。俺は好きくないけど、そいつ」
「ま、まぁ好きっちゃ好きだけど……ていうか、ウルはどうして嫌いなの? 凄い人なのに」
「何か気取ってるし、かっこつけすぎだし、個人的に気に入らないだけ」
「それって、嫉妬的な?」
「んなわけねぇだろ。ちげぇわ、あいつに嫉妬なんかするかよ。嫌いなだけだよ」
「え~いい人なのに。ほら、よく見たらいい人だよ、ほらほら」
「やめろって」
私はウルにアークに対する気持ちを変えようと、そこでアークの凄さを語ったがただ嫌がられて終わるのだった。
その後、私たちは店へと帰り買った物を倉庫などに入れ終わり二階へと戻る。結果的にその日は仕事も入る事無く待機しながらオリックと話したり、店番をしてみたりして一日が終わるのだった。
そして次の日、この日は仕事が三件あった。
一件はオリック指名で、二件目はデオンとウルペアでの仕事となり、三件目は私ソロでの仕事と言う割り振りになった。
シーラからは新規のお客様と聞き、仕事内容も屋敷の掃除や食事の仕事などお客様のサポートがメインであった。
「イリナ、今回のお客様はあんたの仕事ぶりで継続するかどうか決めるらしいから、頑張って来な」
「え、それって凄く重要じゃないですか。私よりもデランとかオリックの方がいいんじゃ」
「デランの方は執事を指定しているし、オリックも指名だからお前なんだよ。それに仕方なくじゃなくて、お前なら出来ると安心して指名してるんだ」
「シーラさん」
「分かったらさっさと準備して行って来い」
私はシーラに背中を押してもらい、直ぐに準備を整えて依頼してくれたお客様の屋敷へと向かった。
指定された屋敷前に到着すると、そこは物凄い大豪邸ではなくこじんまりしていて落ち着ける屋敷であった。
場所も住宅街の奥にあり新築というより、少し古びていい味を出している屋敷と言う感じであった。
「二階建てか、感じて気は家族で住みそうだけどどうなんだろ? 依頼者の情報あまり書いてないんだよね」
私は門が閉まっている屋敷の前に立ち、中を覗くが明りもついておらず雰囲気的に誰もいない感じであった。
呼びベルもなく、少し声を張って呼び掛けたが返事はなかった。
んん~? あれ? 場所間違えた? いや、でも地図はここで合ってるはずなんだけど……
私は依頼書に書かれた地図をにらめっこしていると、そこへ誰かやって来て声を掛けて来た。
「もしかして、今日依頼を出した派遣使用人かい?」
「! はい。『ジェムストーン』からやって来ました、イリナ・カディナと申します」
咄嗟に私は声を掛けて来た依頼人と思われるお客様に挨拶をした。
「イリナ・カディナ……もしかして、貴方あの時の派遣使用人ですか?」
「え?」
そこで私が顔を上げて目の前にいた人物に私は目を疑った。
声を掛けて来ていたのは、王国軍第三騎士団長のアーク・クォークだったのだ。
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