第3話 『ジェムストーン』の従業員たち
「シーラさん、この子が新人のイリナさんですか?」
「へぇ~結構可愛いじゃん」
「おっしゃー! 遂に俺より下の新人来たー!」
「お前ら、勝手にしゃべりだすな。イリナが混乱してるだろ。特にウル、うるさいぞ」
そして皆が黙るとシーラが改めて話し出す。
「今日からうちに入ったから、他の奴らも紹介しようと思ってな。これで全員ではないが、これからは一緒に仕事してもらう事もあるから仲良くな」
「は、はい! え~と、初めまして今日からシーラさんに雇って頂いたイリナ・カディナです。歳は二十二で、まだメイドとしては半人前なので足らない所はご指導お願いします!」
簡単に自己紹介を済ませ頭を下げると、灰色の髪色をし右もみ上げを三つ編みしている男性が最初に口を開いた。
「僕はデラン・カリバン、デランと呼んでくれ。歳はイリナさんより上の二十七歳。シーラさんの店は三年目で、長い方だから困った事があったら何でも聞いて。これからよろしくね、イリナさん」
「よろしくお願いします、デランさん」
デランの次に話し出したのは、紺色の綺麗なサラサラ長髪で片耳に羽の形をしたイヤリングをしていた女性だった。
「私はオリック・パリッツ。歳は二十三だから、ため口でいいよ~。少ない女子同士仲良くやろうね~イリナ」
「よろしく、オリック……さん。ごめんなさい、呼び捨てって慣れてなくて」
「いいって、いいって。慣れてってくれたらそれでいいよ~」
そう優しく言ってくれたオリックの後に、最後に口を開いたのは金髪の男子だった。デランより身長は少し低く、オリックや私と同じくらいの背で右目尻にほくろがあるのが特徴的だった。
「俺はウル・オリオン、歳はこの店で一番下だがあんたより先輩だかな。そこだけはしっかり覚えてくれよ」
「な~に十六歳のくせに生意気な事言ってるのよウル。執事としても全然見習いだし、イリナより技術的にも下でしょ」
「口を途中で挟まないでよオリック! これで俺も晴れて下っ端卒業、あ~なんてすがすがしいんだ~」
そこにシーラは座り片足を組み、銜えたばこをした状態で割り込んで来た。
「いや、イリナが入ってもまだお前下っ端だから」
「えっ!? ど、どう言う事ですかシーラさん!」
「そりゃそうだろ、イリナは今日一人で仕事して来たんだからな。まぁ、結果はさっき話した通りだが十分にうちの店ではお前より戦力だ」
「シーラさん、俺だってもうここに来て半年。もう一人で仕事できますって言ってるのにシーラさんが任せてくれないからじゃないですか!」
「いや、失敗ばかりしているお前にはまだ無理だって毎回言ってるだろ」
するとウルとシーラの話し合いがヒートアップしていく。
私はどうしていいのか分からずにいるとオリックが近付いて来た。
「気になくしていいよ~あれ、いつもの事だし」
「ウルも頑張っているのは分かるんだが、変な所で失敗して怒られる事が多くてね」
「そうなんですか」
「そんなドジウルの事よりも、イリナも上の寮に住むんでしょ?」
「寮?」
と、私が首を傾げているとデランは何かを察しシーラへと一度視線を向けた。
未だにウルの相手をしているのを目にすると、再び私へと視線を戻し代わりに説明をし始める。
シーラが経営する店の二階は、雇用者内の希望者であれば空き部屋を使える事が出来る事になっているらしい。
そのため基本的に雇われた皆は、お得なので店の上にある寮に住み込みで働いている。だが、その分家賃として給金から少し引かれるのだ。
それでも他の派遣使用人を雇っている店ではあり得ない事だとデオンは説明してくれた。
現状の私は、物凄く安く住める場所を借りていた。
しかしその話を聞き、そこよりもここで住み込みで働いた方がいいと思い直ぐに住み込みの希望を伝えた。
そこでタイミングよくシーラのチョップがウルに入った事で言い合いが終わった。
デオンがすぐさま住み込みの希望をシーラへと伝える。
「そうか。部屋はまだ空いているし問題ないぞ。細かいルールとかはデオンやオリックに訊いとけ」
「はい、ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」
「そうだ、もし今住んでる所から荷物取って来るならこのウルでも使え。これでも男手だし、役に立つだろ」
「ちょっと待って下さいよ! 何で俺が新人の荷物運びの手伝いしなきゃいけないんですか?」
「あれれ~ウルは今日からイリナの先輩なんだよね? だったら、先輩は後輩の面倒を見ないとね~」
「そう言うならオリックも手伝ってよ。俺の時は手伝ってくれませんでしたよね、セ・ン・パ・イ?」
「そんな昔の事覚えてませ~ん」
「それじゃ、今日はイリナの歓迎会ってことで外食でも行くか」
「いいですね歓迎会! どこにしますかシーラさん?」
「私、最近人気のあの店がいい! ほら、あの並んでる店!」
「おい、まだ俺の話終わってないんだけど!?」
と、皆は賑やかなに騒ぎ続けた。
その光景を見て私にはただの雇う人と雇われる側の関係ではなく、友達とかの家族の感覚に近い様に感じた。
今日は失業から始まって命の危機もあったりと最悪だと思ってたけど、シーラさんたちに会えたしアーク様にも会えてし全然嫌な日じゃなくなった。
これから大変かもしれないけど、とても賑やかで楽しい職場だし、頑張っていけそうな気がする。
よ~しここから私の第二のメイド人生スタートだ! エイ・エイ・オー!
「何してるのイリナ? 置いてっちゃうよ~」
「あ、今行きますから置いてかないでください」
そうして次の日から、私の派遣使用人としての仕事の日々が始まった。
店の『ジェムストーン』には物凄く仕事が入って来る訳ではないが、毎日二件程の依頼が入るのでその日勤務の者からシーラが選び仕事へと行かせる。
基本的に仕事はソロもしくはペアで行う事がある。
ソロはシーラが認めた者しか行かせないと決まっているらしい。
初日に私がソロで行かされたのは、これまでの経験から仕事内容的に問題と判断した為であった。
あれ以来事件の事もありまだソロ仕事はなく、基本的にはデオンかオリックどちらかとペアを組んで仕事をしている。たまに、ウルと同じペアになり二人のどちらかに付いて行き仕事をする事もあった。
現在の『ジェムストーン』には私を含め四人しかいないが、本当は後三人いると教えてもらった。
その三人は道具収集マニア、服作製マニア、そして金眼鏡と呼ばれる人たちであった。
シーラ曰く、道具収集マニアと服作製マニアはペアで別国に仕事に行っている為不在で、金眼鏡は休暇申請を残して何処かに行っているらしい。
三人とも長期不在で直ぐに会える事はないが、仕事に対しては凄く優秀らしいが、変な趣味や思考などあるのでそれだけで判断しない様にとシーラには言われた。
そうして日々仕事をしながら皆と過ごして、一か月が経過した。
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