第2話 王国軍第三騎士団長
「あ、あの~これ、何ですか?」
「いいから、お前は派遣使用人なんだからこっちの言う通りさっさ運べ!」
「は、はい……」
私の初仕事先は豪勢な屋敷であったが、出て来たのは少し怖い感じのお兄さんたちであった。
そのまま私は言われるがまま作業を言い渡された。
作業は、屋敷の地下から袋に入った何かを外に待機させている馬車へと運ぶものだった。
持った感じ結構な重量で感覚的には本? 紙? の様な物が沢山入っている感じがした。
「あっ」
その時私は足がもたついてしまい、持っていた袋から手を離して膝を付いて倒れてしまう。
「ごめんなさい! 直ぐに拾いま――えっ」
私は直ぐに顔を上げて地面に落としてしまった袋を拾おうとしたが、視界に入って来たのは大量の通貨や宝石であった。
何これ……どうしてこんな物を袋に詰めていたの?
そこで私の動きは止まってしまうと、後ろから男たちが急いでやって来て袋から出た物をしまい始めた。
「てめぇ! 何してんだ!」
「いや、あの、あれはどういう事なんですか?」
「そんなのてめぇに関係ねぇだろうが! いいからさっさと運べ!」
「これって、何か危ない事になってませんか? 私変な事に巻き込まれていませんか?」
「あ~うだうだうるせぇし、使えねぇ派遣使用人だな!」
「どうなんですか! 答えてくだ」
と、私が言いかけた直後問いかけていた男に頬を叩かれてしまう。
突然の事に私は何が起きたのか理解出来ずにいると、叩いた男が私に近付いて来て胸ぐらを掴んで来た。
「いいから、俺たちの言う事聞いてればいいんだよ。こっちは金も払ってるんだから、お前は俺たちの言う事聞く奴隷みたいなもんだろうが」
「……違います……私は、私は使用人です」
「あ?」
「奴隷なんかではありません」
「へぇ~口答えするのかよ」
そこで叩いて来た男は私から手を離した。
私は使用人を奴隷と言われた事に耐えられずに、つい勢いで反論してしまっていた。その結果、私の体の震えは増す一方となる。
すると男は近くにいた別の男の懐から剣を取り出して私に突きつけて来た。
「中身も見られたし、反抗されそうだしここで始末しとくか」
「え」
男が手に持った剣を振り上げて、私目掛けて振り下ろされる。
その瞬間、勝手に私の頭の中では今までの出来事が目まぐるしく思い出され始めた。
その時にこれが走馬灯か……と、感じていた。
これで死んじゃうのか。
何もない人生だったんだ。
夢も叶えられないし、嫌な事続きで終わるとか最悪だ……いや、最後にシーラさんに会えて拾ってもらえたのは幸運だったかな。
剣が振り下ろされることから目を背け、ギュッと目を閉じた直後。
金属音が何かにぶつかった音が間近で聞こえた。
咄嗟に目を開けると、そこには見知らぬフードを被った人物が私を庇う様に剣で相手の剣を防いでいたのだ。
直後、私を庇った人物は剣を持った男を押しのけると声を上げた。
「今だ! 全員捕縛しろ!」
その声と共に突然周囲から兵士たちが現れ、男たちを一斉に捕らえ始める。しかし、当然の様に一部抵抗する者たちもいた。
兵士たちは、そんな抵抗にひるむことなく立ち向かい制圧していく。
だが一人の男が包囲から抜け出し私目掛けて突っ込んで来る。
「てめぇ、王国軍騎士団員だったのか! 俺たちをだましてやがったな!」
「!?」
私は男が何を言っているのか分からず混乱したまま動けずにいた。
そこへ私を庇ってくれた人物が、再び私を守る様に立ち塞がると優しく声を掛けて来た。
「巻き込んでしまってすまない。だが、君には傷一つ負わせはしない」
そう言うと被っていたフードを勢いよく脱いだ。
綺麗な銀髪が一番最初に目に入ったが、次にその人が羽織っていたマントに王家を護る剣と盾の紋章でその人物が誰だかすぐに理解した。
「死ねぇー!」
男は突撃しながら両手に炎を纏わせ放って来た。
しかし、私を守ってくれる人物は剣で切り裂くと、男に向かい捕縛する魔法を放ち完全に動きを止めたのだった。
その後私を雇った男たちは全員が兵士たちに捕縛され、連行されて行った。
私は別の兵士に保護され、事情を教えてもらった。
どうやら私は犯罪者たちの屋敷に来ていたらしく、その犯罪者たちは一般人に紛れ込み悪事を働き金品を隠し持っていたらしい。
そいつらはよくアジトの場所を変えており、その際には必ず派遣使用人を雇っているという情報があったと兵士は語った。
あははは……私って相当仕事運悪いんじゃ……
そんな風に思い込んでしまい落ち込んでいると、私を助けてくれた銀髪の人がやって来た。
「お怪我はありませんか?」
「え、あ、はい。大丈夫です。助けて頂きありがとうございます、王国軍騎士団長様」
そう、私を命の危機から救ってくれた人物はこの国王都を守護する騎士団長の一人である。
ここ王都には七つの騎士団が存在し、それぞれ大きな役割がある。
王国の防衛や外交に治安維持など各騎士団ごとに大きな役割があり、私を助けてくれたのは王国軍第三騎士団の団長様だ。
そして第三騎士団の役割は街の治安維持の役割がある。
具体的には、街での犯罪や事件などを大きく担当している所だ。
うわ~本物の騎士団長様だ~噂通りイケメンだな~
私が騎士団長に見惚れていると、騎士団長はほっと胸をなでおろした。
「それは良かった。貴方を事件に巻き込む予定ではありませんでしたが、このような事になってしまい申し訳ありませんでした」
「いや、謝らないで下さい。助けてもらいましたし、私の仕事運が悪いだけです」
「仕事運ですか……そう言えば、貴方は派遣使用人でしたよね?」
「そうですけど、え~と今日からシーラさんの所で……あ、店の名前は『ジェムストーン』です」
「なるほど『ジェムストーン』と言う店ですか。今回の一件に関しては、彼らが勝手に選び店側に依頼している内容でしたので、貴方の勤め先の関与はないので安心してください」
「そうなんですね。よかった……シーラさんに騙された訳じゃないんですね」
「はい。ですが、最近派遣使用人に対して依頼内容と異なった事をさせる事件も増えているので注意して下さい」
するとそこへ別の兵士がやって来て騎士団長に耳打ちをする。
「すいません、急用で私はここで失礼させていただきます。他の兵士に店まで送らせますので安心してください」
そう言って離れて行く騎士団長に私は改めてお礼を伝えた。
「騎士団長様、助けていただき本当にありがとうございました。私イリナ・カディナは、一生この恩を忘れません! ……あっ」
私はつい勢いで自分の名まで名乗ってしまった事に気付き、恥ずかしくなってしまい俯いた。
何してるのよ私! 別に名前を言う必要なかったじゃん! あ~恥ずかしい……
すると騎士団長は足を止めて、振り返ったのだった。
「いえ、市民の皆様をお守りするのが我が騎士団の使命。名乗り遅れましたが、改めて私は王国軍第三騎士団長のアーク・クォークと申します。騎士団はイリナさん方、市民の味方ですので困った事があればいつでも頼って下さい」
「はい。……第三騎士団長アーク様か、名前もカッコいいわ~」
私がアークの後ろ姿に見惚れているとアークが何か言い忘れたのか、再び振り返って来て口を開いた。
「ではイリナさん、これからもお仕事頑張ってください」
「え」
と、アークは優しい笑顔を突然向けて来て私は顔から煙が出るくらい熱くなり、咄嗟に両手で顔を隠した。
そんな不意打ちずるいし! ずるすぎるよー!
私がその場でジタバタしているのを、近くにいた兵士はいつもの事の様に軽く肩をすくめるのだった。
その後、私は兵士の方に店まで送ってもらいシーラの店『ジェムストーン』に辿り着く。
突然兵士と一緒に帰った来た私にシーラは驚いてしまう。が、兵士が事情を全て説明してくれた。
その間私は上の空でぼーっと店内で直立しておりシーラと兵士の話は聞こえなかった。話が終わると兵士も帰って行きシーラが声を掛けて来る。
「まさか、初仕事で悪い仕事に当たるとは不運だったなイリナ」
「……」
「ん? 聞いてるのか、イリナっ!」
そう言ってシーラは私のおでこ目掛けて強烈なデコピンを叩き込んで来た。
私は強烈な痛みに目が覚め、額を抑えながらシーラに視線を向ける。
「いっったぁ~~何するんですか、シーラさん」
「あんたがぼーっとしてるからだ。で、本当に怪我はないんだな?」
「え、はい。大丈夫です。一瞬本当に命の危機でしたけど、アーク様に救ってもらいました! あ~カッコよかったなあの時のアーク様」
「アーク様? あ~さっきの兵士よく思い出したら第三騎士団の奴か。イリナ『悪魔の騎士』に惚れたのか?」
シーラがうっすら笑いながら言った聞きなれない言葉に、私は聞き直した。
「『悪魔の騎士』って何ですか?」
「知らないのか? 王国軍第三騎士団長のアーク・クォークは一部では『悪魔の騎士』って呼ばれてるんだよ。仕事は完璧、王都の平和を護るためなら、冷徹な指示もするって噂さ」
「それ本当ですか? そんな風には見えませんでしたよ。噂通りカッコよかったくらいですけど」
「本当かどうかなんて知らないよ。後聞いた噂では、女性を滅茶苦茶泣かせたとか、隠し子がいるとか、使用人は全員美女とか、名前が悪魔っぽいから悪魔って呼ばれてるってのも聞いたな。ほら、アークって短くすると悪って言えるしな」
「え~何かいっぱい噂あり過ぎじゃないですか? 最後のは何かこじつけ過ぎな気もしますけど……」
「私に言うな。あくまで噂だよ、噂」
そう言ってシーラは私にとりあえず道具や服を元に戻すように言い渡す。
そして、最初に面接した部屋に来る様に告げて店の奥へと入って行く。
私は言われた通りに借りた服と道具を元の部屋に戻し、更衣室で私服に着替え呼ばれた部屋の扉をノックする。
すると部屋の中らかシーラが返事が来る。
私が扉を開けると部屋にはシーラ以外に知らない三人がいた。
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