第四〇話 第二次日中戦争
1945年2月14日。
日本の設立した『大亜細亜同盟』へ加盟国が揃ったこの日、日本は中国に対して、最後通牒、通称『幣原手記』を突きつけた。
日付も相まって、バレンタインプレゼントなどと揶揄されることとなるこの手記は、以下のような内容になっていた。
『幣原手記』
1.中華民国は軍閥以外の国家を解放する
2.二度と侵略戦争を行わない。
3.日本の北陸を返還する
4.健全な民主主義を実行し、各国へ向けて謝罪を行う
以上のことを約束する返答を、3月5日0:00分までに我が国に送らない場合、日本は武力を持って、貴国の行動に制限をかけるだろう。
1945年3月4日、首相官邸。
「……あと何分だ?」
日本国首相、片山哲が聞く。
「後8分です」
幣原は、ならない電話を見つめる。
そんな様子を、固唾を呑んで見守る他閣僚たち。
「これが鳴らなければ、我々は戦争へ踏み切らなくてはならない……」
内務大臣の吉田茂は、そう呟く。
内務大臣なだけあって、吉田は国内の事情をよく分かっていた。
内戦の反動を回復したとは言え、未だ軍への恐怖感はぬぐい切れず、またファシズム的思考を持つ者は少なくない。
そんな状況で新たな戦争を引き起こせば、それらが勢いづくことも想像できる。
「後……2分」
片山は腕時計を見つめ、首を振る。
「こない、か……」
閣僚たちは肩を落とす。
「現在、3月5日0時1分……返答期限を過ぎました」
沈黙。閣僚たちは、次のフェーズに移らなくてはならない。
だが、望んでその第一歩を踏みだそうとする者はいない。
「後、30分待ちましょうか」
その空気を読んで、片山はそう小さく言った。
その後、その電話が鳴ることは、無かった。
1945年3月20日。
連絡が来なかったことを、最後通牒の受諾と受け取り、日本は中華民国へ宣戦布告。国外にも対中戦を開始することを発表した。
全ての準備が終わった後、待機していた日本国軍に作戦開始命令が下された。
二度目の北陸への進撃、今回もあっという間に国境に張り付いていた警備隊と言う名の中華民国軍を駆逐した。
その後、陸軍は日本海側の港に集結、朝鮮半島への上陸作戦の準備を開始した。海軍も、制海権確保のために現在日本にいる主力艦隊を広島へ集結させた。
同じころ、大陸では日本が仕組んでいた大波乱が発生していた。
新疆ウイグル地区、チベット、インドシナ半島、他中華民国に不満を持つ元軍閥達、それらは秘密裏に日本と接触し、今日この日のために反乱の準備を整えていた。それらが、日本へと強襲上陸の準備をしていた中華民国内で反乱を始めた。
混乱が瞬く間に広がり、中華民国は日本本土へ向けていた爆撃隊や上陸部隊を内地へ回さなくてはならず、日本本土の安全は保つことに成功した。
1945年4月2日。
強襲上陸の第一波を、朝鮮半島へと差し向けた日本軍だったが、思いもよらない刺客が、その上陸を妨害してきた。
「護衛艦隊旗艦『矢矧』より入電! 左弦前方に艦影!」
「上陸を妨害しに来たか!」
船団護衛艦隊に所属していた駆逐艦『皐月』は、旗艦からの報告を受けて、砲撃戦の用意を進めるが、続く電報で、艦内は凍り付いた。
「追加入電! 敵艦隊、戦艦級の大型艦を含む大艦隊! 戦艦一、巡洋艦三、駆逐艦八!」
それを聞いた甲板乗員たちは一瞬ピタリと動きが止まった。
「戦艦級……? 今、戦艦って言ったか!?」
「志那の連中、戦艦なんて持ってなかったよな!? それどころか、重巡すらいなかったはずだぞ!?」
日本海軍の驚きは最もであった。
1940年以前、つまり第一次日中戦争中、中華民国はロクな艦隊を擁しておらず、数隻の軽巡、駆逐艦だけの海軍だった。
それが今や、日本の『金剛』や『長門』に並ぶような近代的な戦艦を装備している。
「砲撃来るぞ!」
小さな『皐月』を揺さぶる迫真の飛翔音。数秒後には、『皐月』の手前に巨大な水柱を形成した。
「まずい、まずい、まずい!」
「こちとら軽巡1隻のほかは駆逐艦だぞ! それに、6隻のうち半数は『睦月』型だ、上陸隊の護衛どころか、自分の身すら危ういぞ!」
騒いでいる間に、再び飛翔音。今度は『皐月』を飛び越え、輪形陣の内側にいた輸送船の側へ着弾した。
「敵艦隊目視! 小型艦艇接近!」
中華民国の小型艦たちが、戦艦の砲撃の援護を受け、輸送船団に肉薄してくる。
「クッソ! 小型艦たちも見るからに近代的、なんだったらうちの『陽炎型』といい勝負しそうだぞあいつら!」
やけくそ気味な罵声と共に発射される12センチ砲弾は、敵小型艦の周囲に着弾する。
「『矢矧』より電報! 各艦180度回頭、全速で撤退! 繰り返す、全艦撤退!」
号令と共に、輸送船含む全艦艇が回頭を開始、海域の離脱を開始した。
なんとか日本へと帰投した船団だったが、輸送船団にも損害は出ており、護衛艦隊に至っては、『矢矧』『皐月』『巻雲』の三隻のみの帰投となった。
この現状を見た連合艦隊司令長官の山本五十六元帥は、主力艦隊による上陸部隊の援護を決定。
欧州に行っていた艦たちの修理が終わっていない、本土近海の防衛用の戦力保持、貿易輸送船の護衛、という観点から主力艦隊総出の全力出撃とはいかなかったが、戦艦2、空母2、重巡6、軽巡4、駆逐24隻の艦を日本海へと向かわせた。
あえてその艦隊が移動している姿を中華民国の偵察機に発見させ、その存在が日本海にいることをアピール。敵の主力艦隊を誘った。
この情報を見た中華民国海軍は、日本海側から日本軍の主力が朝鮮半島に上陸すると予測。日本の思う通り、主力艦隊を日本海に向かわせた。
1945年4月6日。
「舞台は用意されている。明日は、是非その力を奮ってくれ」
一人の男が、巨大な砲塔に手を当てながらそう呟く。
「こんな艦の指揮を取れるだなんて、大艦巨砲主義の私からしたら、夢のようだよ、まったく」
この男は、対中国決戦用艦隊の司令に任命された、古賀峰一海軍大将。
そして、この男が乗っている艦は……。
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