第四一話 第二次日本海海戦
1945年4月7日、日本海。
「我が国の、アジアの荒廃この一戦にあり、各員奮励努力せよ!」
古賀の一声が、主力艦隊に響く。
その声に呼応して、マストにはZ旗と旭日旗、それから
青い下地は安定と大海を示し、昇る太陽は繁栄と活力、中心で縛られた稲はアジア各国の結束を示す。稲の旗は、大亜細亜同盟結成と同時に日本が作成した組織旗だ。
中華民国に領土を奪われているアジア諸国も、この旗のもとにアジアの平和を目指して、戦うことを宣言した。
「全艦! 抜錨!」
力強い号令に答えるように、巨大な黒鉄の城二つ、他空母2、重巡6、軽巡4、駆逐24の艦隊は、上陸部隊を乗せた輸送艦を後方に置き、弓のような陣形を敷く。
艦隊陣容
戦艦『超大型戦艦イ』『超大型戦艦ロ』
空母『翔鶴』『瑞鶴』
重巡『那智』『利根』『筑摩』『鈴谷』『伊吹』『鞍馬』
軽巡『矢矧』『能代』『川内』『大淀』
駆逐『秋雲』『嵐』『清霜』『高波』『時雨』『雪風』『宵月』『冬月』『北風』『東風』『西風』『島風』『時津風』『曙』『水無月』『山雲』『満潮』『五月雨』『風雲』『不知火』『野分』『舞風』『有明』『若葉』
対米戦が終結していた日本は、対米貿易を拡大、油くず鉄だけに留まらず、アメリカの造船技術や鋼鉄を輸入、艦隊を増強した。
そのおかげで、計画されていた艦たちが続々と就役し、誰が何と言おうと、日本の連合艦隊は世界最強の艦隊と化していた。
「偵察機、『瑞鶴』『翔鶴』より飛び立ちました」
「新鋭の『彩雲』だな、なんでも直線飛行は600キロを軽く超えるとか」
古賀の言葉に、『超大型戦艦イ』艦長、有賀幸作は頷く。
「はい、我が艦隊の目となる大きな戦力です。『彩雲』だけでなく、航空隊は全て新鋭機を揃えられていますから、期待大であります」
古賀も満足そうに頷いた。
今回、中華の主力艦隊を相手取るとして、かつての大国、清が保有した北洋艦隊を警戒するが如く、最大限の用意を持って行った。
五航戦『翔鶴』『瑞鶴』の艦載機には、山本元帥の勧めで三種の新型が選ばれた。
『特一号戦闘機海神』の設計を流用し、艦載機型へ仕上げた艦上戦闘機『神風一二型』。
一度水冷で考えたが、信頼性と設計のしやすさから空冷へと戻された艦上爆撃機『彗星三三型』。
欧州で猛威を振るった『天山』の量産開始とともに開発が始まり、日本機の欠点であったパイロットの生存性をグッと上げた『流星二二型』。
どれもレシプロ機ではあるが、1945年にふさわしい性能を持っていた。
「見落とすなよ、ここで敵さんを先に見つけりゃ、航空攻撃で数的不利を覆せるんだからな」
高度6000を飛行しながら、『彩雲』パイロットの和人は言う。
「分かってるってのだからこうして必死に……ああ!」
偵察席に座る健治が大声を上げて海面を凝視する。
「敵艦隊らしき影見える! まだ遠いな、もう少し北東に機体を進めてくれ」
「了解! 拓海! 後ろしっかり見張っておけよ!」
「あいよ!」
和人は機銃座に座る拓海に一声かけてから、機体を倒し、進路を北西に取る。艦種を確認しやすいよう、少し高度を落とす。
「見えるか?」
「見える! これより規模を打電する!」
健治は慌てて電信機に手をかけ、母艦『翔鶴』に打電を送る。
「『我、敵艦隊見ユ。空母三、重巡二、軽巡一、駆逐艦二四ヲ擁スル大艦隊ナリ。敵戦艦ノ姿ハ見エズ』よし、打電完了!」
健治の声にかぶせるように、拓海が叫ぶ。
「後方敵機!
報告と同時に、後部座席に付けられた和製ブローニング、七粍一二式機関銃の発射音が響く。
「見つかってたか! 飛ばすぞ!」
機体を左右に振って機銃を交わしていた和人は、エンジンスロットルを全開にして、やや降下ぎみな姿勢を取る。
すると一気に機体は加速していき、後方から追いすがる二機は遠のいていく。
「健治! 本艦に打電! 『我二追イ付ク敵機無シ』だ!」
「了解!」
ぐんぐん加速する『彩雲』は、上機嫌にエンジンを唸らせながら、『翔鶴』へと帰還して行った。
一方、敵艦隊発見の報告を受けた母艦は、攻撃隊を発艦させていた。
「『瑞鶴』雷撃隊、『翔鶴』隊に負けないよう、気合を入れていけ!」
「おいおい淳、戦果は取り合いは辞めようぜ? 味方に被害が増えるだけだぞ?」
「お? 『翔鶴』隊の真二隊長さまはビビってるみたいだぞ」
「たっく、『翔鶴』雷撃隊、無理せず戦果を上げるぞ」
『翔鶴』雷撃隊を率いる堀内真二と『瑞鶴』雷撃隊を率いる堀内淳は兄弟であり、凄腕の雷撃機乗りだった。
『翔鶴』と『瑞鶴』が姉妹艦と言うこともあり、この二人は注目される存在になっている。
4月7日、正午、戦闘開始。
「敵艦隊を目視! これより攻撃に移る!」
後方で戦闘機たちが交戦する中、淳がそう叫び、隊を引き連れて降下していく。
「やれやれ、血の気が多いこった。『翔鶴』隊、続くぞ!」
それを追うように、爆撃隊は高度を上げ、雷撃隊が続いていく。
後方で戦う敵戦闘機は、その動きを追うことが出来ない。
「やっぱいい機体だなぁこいつは!」
「そりゃそうだろ、こいつは
中華民国が使用する戦闘機『殲二型』は、中華民国が独ソの航空技術を輸入し習得することで成立した中華中央航空で作成された艦上戦闘機。
1944年完成の新鋭機だが、作成したのは所詮中華民国、これまでろくに航空機を作成したことの無かった国の戦闘機など、『神風一二型』の相手にならなかった。
戦闘機隊が『殲二型』をほぼ全滅させる頃、攻撃隊も各々の攻撃を完了していた。
「よしよし、順調に魚雷は走行中……3、2、1、どうだ!」
淳の声と同時に、巨大な水柱が立ち上る。
「よーし! 空母に命中だ!」
中央に陣取る3隻のうち2隻に巨大な水柱が四本立ちあがる。それぞれ淳と真二が率いる雷撃隊の攻撃の成果だ。
他にも、周囲を囲う護衛艦たちにも火が上がる。
対して、攻撃隊に煙を吹く機体はあれど、落ちた機体は一機もいない。
「損害は0だな。第一次攻撃は完璧だ、後は後続に任せよう。俺たちは退くぞ」
「了解」
真二の言葉を淳は承諾し、針路を母艦の方へ取った。
その後二度目の航空隊攻撃が行われ、あっけなく敵機動艦隊は壊滅に近い損害を受けた。一方日本の艦隊は、『那智』中破、戦闘機1機、攻撃隊2機撃墜の被害に留まった。
しかし、襲ったのはあくまで機動艦隊であり、戦艦たちは無傷であるため、二隻の『超大型戦艦イ』『ロ』は動き出した。
「護衛艦隊は退避せよ、主砲の爆風に煽られることになる」
古賀の命令で、戦艦二隻を囲んでいた巡洋艦、駆逐艦は戦艦の後方へ退避していく。
「観測機発進! 弾着観測に備えよ!」
有賀の指示で、『イ』『ロ』の後ろに付くカタパルトから『零式観測機』が空へと上がっていく。
「さあ、いよいよこの二隻の本領発揮だ。水平線からの弾着観測射撃」
古賀は呟く様にこの二隻の名前を呟く。
「頼むぞ、『大和』『武蔵』」
大和型戦艦、『大和』『武蔵』。
その恐るべき性能が今、ベールを脱ぐ。
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