エピローグ



「じゃあ、アニー、三年後まで、首位をキープして待ってて。」


「首位である必要ある?!」


 夜半の寄宿舎の半地下の食糧庫に笑い声が響く。


「アニーのおかげで、劇団と一緒にレノミアへ出発できたこと、感謝してるよ。アニーはいい家族がいるね… 羨ましかった。」

 アーチーがアニーとシードルで乾杯する。


「母ちゃんからの手紙に、アーチーを婿さんにしろって書いてあったよ。アーチー、気に入られたね?」


「おいおい… アーチーはアニーにあげないよ… 」

 ジェームズがアニーを小突く。

「もう、アーチーの婚約者じゃないじゃない。ケチ!」


 アニーが、一呼吸置いた。

「私はね、劇団のみんなが道中のアーチーのおもしろ話を手紙で送ってくれたのを元に、アーチーの冒険を戯曲にするつもり。私の処女作になる予定よ。」


「それって…僕の将来に何か不都合出ないようにしてよ…もう他人にがんじがらめにされる人生はこりごりなんだから…」

 アーチーがアニーを睨みつける。


「まあ、人生はさ、良くも悪くも人と人が影響し合うもんなんだから。僕も、アニーに手紙を送るよ。王太子の成長物語もよろしく。こっちは、王宮の検閲入るけどね!」


 三人の笑い声が食糧庫に響いた。


「でも、アーチーはアーチーね。みんなが、アーチーは旅の間にリーダーシップを発揮して大人になったって言ってたのに、全然変わらないじゃない。」


「この食糧庫はね、ウジウジしていいの。ここから出る度に、成長して帰ってくるから。」

 アーチーがシードルを飲み干した。




 その時、食糧庫の外の廊下に足音がした。


「あ、まずい… 誰か来る!」

 ジェームズとアーチーは急いで立ち上がる。


「じゃあね、アニー、また、三年後に!」


 アーチーが外に繋がる勝手口を開けると、月明かりと生暖かい空気が食糧庫に入ってくる。



「行ってきます!」


 アーチーとジェームズは、アニーに手を挙げると、軽やかに出発した。




▽△▽△▽△▽△▽△▽△



 アーチーは隣国で三年の留学をすることを決めた。今のアーチーの立場で、国内の社交界に出入りするのは、得策ではないからだ。


 アーチーの留学が決まると、ジェームズとキャスパーも行くといい、それぞれが両親を説得した。


 アーチーは、ロイジー公爵家の長男として正式にアーチーと名乗ることとなった。アーチーの父も回復し始め、あと半年もせずに、貴族院での仕事を再開できる見込みだ。しかし、この十五年の空白期間を埋めるには、相当な努力が必要となるだろう。


 旅芸人になるとか、修道院で暮らすとか、誰も知らない土地へ行くとか、様々な選択肢が浮かんでは消えた二か月だったが、国王の言う通り、アーチー自身も、受けた教育を無駄にしたくなかった。



 声変わりしたら、どうしよう…

 背が伸びたら、どうしよう…


 当たり前に起きる自分の身体の成長に怯えていた。


 嘘に巻き込まれて、自分にも他人にも嘘を吐かせた。



 そんなステファニーと決別した。



 一緒に嘘を吐きながら、もがいてくれた大親友と、出会ったばかりの自分より背の大きな弟と、これから新しい生活が始まる。

 



 馬車と船を乗り継ぎ、アーチーは新天地に向かった。



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僕の色を取り戻す冒険 細波ゆらり @yurarisazanami

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