シメナ

 食糧管理棟と住宅棟、工場棟を繋ぐ大玄関通路まで来た私たちは、そこそこ多い通行人の顔を見ながらシメナさんに会いに行く。

 大玄関通路の隅には飲食店を始めとした様々なサービスを提供している店が並んでいる。

 そして通行人の中にメリッサはもちろんのこと、あの猫人間キャヒュマンットの友達が居ないとも限らないので、目を光らせておいた。


「どなたか、メリッサという名前の娘を知りませんか? 私の娘がどこにいるか分かる方いらっしゃいませんか?」


 大玄関通路を歩いていると、先ほど聞いた台詞が数回程耳に入ってくる。

 シメナさんが往来していくフレシュランに住んでいる人たちに声をかけていた。

 彼女がまだここに残っていて入れ違いにならずに済んだこともそうだけど、まだ大声を出していて見つけやすい状況になっているのに安心する。


 エスランティが片手を上げて彼女に声をかけていく。


「シメナさん!」


 するとそれに気づいたシメナも呼びかけをいったん中断しエスランティに笑みを向けた。


「あっ、さっきの……エスランティさん! シエラさん!」


 私も片手を上げ、頭も下げて挨拶する。


「どうも、先ほどぶりです」


「お二人ともどうかされましたか? もしかして、メリッサはもう見つけられたのでしょうか!?」


 気が早すぎる。

 そんな簡単に見つけられたら情報を集める必要も無ければ私たちに頼む必要も無い。

 けど希望を抱いて期待してしまうのは仕方ないことだ。

 それだけ不安で心配だということなのだろう。


 エスランティは申し訳なさそうに硬い笑みを浮かべる。


「申し訳ありません。娘さん、メリッサちゃんは残念ながらまだ。というのも手がかりが非常に少ないものでして」


 メリッサ捜索には乗る気ではないけど、なんだか私も申し訳ない気持ちが湧いて来た。

 きっとエスランティに感化されたのだろう。


「ごめんなさい。メリッサちゃんのことを何とか見つけ出そうとしたのですが、情報が足りなくて行き詰ってしまいまして」


「そう、彼女の言う通り僕たちは今行き詰っている状態でして。その理由がメリッサちゃんの部屋を調べたときなんですけど、壁に何枚かの写真が貼られていました。そしてその写真の中に、猫人間キャヒュマンットのお友達と一緒に写っているものがありました。きっと彼女がきっとメリッサちゃんの居場所について何か知っているだろうと接触したいところなのですが、どこにいらっしゃるのか分からないもので」


 シメナは少し困った表情を浮かべる。


「そうなのですね。ですが申し訳ないんですけど、それは私にも分かりません。娘の友達のことも分かっていなくて……」


「そんな……」


 恐ろしいことになった。

 頼みの綱であるシメナが情報を持っていなかった。

 メリッサ捜索がここで途切れてしまう。


「困りました。もうこれ以上頼れる情報が無いです、どうしましょうか……」


 エスランティは顎を片手で握りながら難しい顔を作る。

 そして爽やかな笑みを浮かべていく。


「よし、僕たちも聞き込みをしよう。シメナさん、僕たちも少し離れた場所で情報集めをするので、よろしくお願いします」


 シメナは硬い笑みを浮かべながら軽く頭を下げていった。


「ありがとうございます。母親なのに力になれなくてすみません。ですが引き続きどうか私たちのことを、メリッサのことをよろしくお願いします」


「はい、なんとか見つけてみますよ! セフティスよりも早くね!」


 もうここまで手詰まりの状態ならセフティスに任せてもいいのではないか。

 私たちに出来ることはもうなにも無く、ここで手を引くのも一つの道だろう。

 諦めの気持ちが体の内に湧いてくる。


 私の気分とは反対のエスランティは意気揚々としながら、シメナから距離を取るように大玄関通路の隅に移動していった。


「さぁシエラ君、情報集めを開始するよ。また一から再スタートだ!」


「はぁ」


 どうしてそこまで元気になれるのだろうか。

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