第16話 迫る沙織の誕生日

プチン

 

 あたりの景色は変わり、もとの取調室の景色に戻る。


 見終わった時、この時の気持ちが蘇ってきて……。だからこそ余計に胸が痛くなった。



 その感情を出来るだけ頭の片隅に追いやって説明を始める。



「この時、ようやく断言できたんです。拡張現実の中で人とどれだけ仲良くしようとしても無駄だって……。だって全部嘘に覆うことだってできるし、相手が何を考えているか分からないし。諦めがついたんです」



『相手が何を考えているか分からない』と言った時、頭に浮かんだのは三浦よりも沙織の方だった。そう思っていたのに、今は自信をもって言い切れない自分がいる。



 すると、八木さんは唸って……。



「……三浦のことか」



 八木さんは悲しそうに言った。その言葉はダブルミーニングだ。



「……そうですね。三浦がいい例です。僕には三浦が何故あんなことをしたのか、あいつが何を思っているか全く分からなかったですし、この先も分かろうともしないです。一生、分からないままだと思います」



 八木さんは漂わす哀愁を強くして、



「つまり、現実世界だと相手のことを分かることができるってことか……?」



「……そうだと思っています」



 僕はそれを言うまで少し時間がかかった。それを聞いて八木さんは深いため息を吐くと、



「現実世界に過度な期待をしすぎだよ」



 そう言い残して八木さんは部屋を後にした。



 八木さんはどういう意図をもってその言葉を選んだのかは分からない。でも、今の僕にはやけにその言葉が胸に刺さった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~



 時の進みとは早いもので、沙織と出会ってから三カ月ほどが過ぎていた。



 季節は春から夏へと移り変わり、それに従って制服も長袖から半袖仕様に変わり、そうしてついに明日からは長期休みに入るという日まで来ていた。



 この時期になるとほとんどの時間を沙織と一緒にいるようになっていた。



 沙織が飽きたのか授業中に抜け出すことはなくなったが、休み時間などでも一緒にいるようになり、休日になると街に二人で出かけるようになった。遠出をして日帰り旅行も行った。



 しかし、七月に入ってから何かしら理解しがたい事情があるらしく現実世界に行く機会がだんだんと減っていき今では週に一回程度になっていた。



 沙織にもっと行ってみたいと提言しているものの、何かしら規制のようなものが強くなっているらしくて、中々上手くいかないようだ。



 他には三浦たちとは自ら近付かなくなったこともありめっきりと話すことが減った。これは自分の中でものすごく大きかった。



 言っておくが、僕から一方的に喋らなくなったというわけではない。無理に距離を取ろうとしたわけでもない。全然、今でも話すときは話す。



 でも、今までと違い、気を遣わないようになったのだ。周りなんてどうでもいいと思えるようになった。だから、もう三浦たちには嫌われても、もうグループにも入れてもらえなくてもいいと考える余裕が出来た。もっと大切なものが出来たから、どうでもいいと思って。



 しかし、三浦たちは沙織といい感じになっていると勘違いしているらしく、逆に沙織のところに行けと応援までしてくれるようになっていた。まぁ、それが本心か分からないが。



 その中で桃谷だけは特になのだが、僕と沙織の関係に興味を持ったのか、近況を聞いてくるようになった。



 初めは話すのも面倒で言葉を濁していたが、桃谷は諦めることなくガツガツと尋ねてくる。流石に無下に追い返すことも、無視するほど僕の度胸はない。結局根負けし少しだけ近況を話してしまった。それも最近遊びに行ったことをちょろっとだけ。しかし、桃谷は一層興味を持ってしまい、それからというもの、より尋ねてくるようになってしまった。更に、次第にアドバイスすらしてくるようになったのだ。



 初めは気にも留めていなかった。しかし、アドバイスはどれも的確で思わぬ形で助かったことがあった。



 そんなこともあり、どうせ向こうから聞いてくるんだから、それなら自分だけが情報を渡すんじゃなくて、こちらも情報をもうおうという、少しだけでもこちらのメリットになることをしよう精神で、ちょくちょく桃谷の意見を仰ぐようになった。



 この日も桃谷に近々迎える沙織の誕生日のプレゼントについて意見を仰いでいた。



「そういえば告白しないの?」



 話している最中、桃谷が確信めいた様子で言った。


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