第17話 誕生日プレゼント
僕は噴き出すように息を吐いた。
「と、突然どうしたの?」
「だって、沙織ちゃんの誕生日って再来週の半ばなんでしょ? 丁度いいタイミングじゃん」
「え…いや…そうだけど……告白⁉」
その言葉は頭の片隅にはちらついていた。が、実際にとなるとどこか現実味がなく深く考えてなかったのだ。このように、なまじ意識していたこともあって、僕は動揺してしまった。
「その日も遊ぶ約束してるんだよね」
「う……うん」
「誕生日一緒に過ごすってもうほとんど恋人だって! それにもうそろそろ夏休みでしょ。夏祭りとか海とか彼氏欲しくなる時期だよ。もう向こうも告白してほしいと思ってるんじゃない?」
「えっ、そうなんだ⁉」
「そうだよ。もう、告白しちゃいなよ~。絶対いけるって! プレゼントを渡すのと一緒に告白したら?」
「え…一旦ちょっと待って…頭が追い付かない……」
急に告白することが現実味を増してきたことで僕の頭は軽くフリーズ状態になる。まだ、このままの関係がずっと続くような気がしていて。それでも満足していた僕は、何もしなくてもいつかそんな告白するタイミングが訪れるからその時でもいいや、程度に考えている節があった。
「向こうは待ってくれないよ! 絶対にいけるって! 私が断言する」
桃谷はそう言って胸を叩く。
「え……ほんと?」
本気で言っているか分からない、それでも心強い一言だった。
「余りにも何もなかったら向こうも脈なしと思って冷めちゃうかもよ」
「え……ほんと?」
それはずっとこんな関係が続くと思っていた僕に焦りを生み出す。
「本当だって。もう告白しちゃいな」
桃谷は考える隙すら与えず僕を急かしてくる。
「え…………うん……」
桃谷の勢いにのまれて僕はつい了承してしまった。
「うわ~! 楽しみにしとこ~!」
桃谷は単色的な笑顔を強くする。この時だけは僕は気持ち悪さより気恥ずかしさが勝って、思わず立ち上がった。
「じ、じゃあ、相談に乗ってくれてありがとう。プレゼント買いに行ってくるよ」
そう早口で言って鞄を背負う。
桃谷はそんな僕の心を見抜いたのか笑みを強くして、「あ~私も彼氏欲しいな~」とぼやくようにつぶやいた。
ここ最近桃谷の口癖だ。相談を終えると毎回思い出したようにつぶやくのだ。
桃谷であればすぐにでもできそうなのに……。まぁ、それも拡張現実での付き合いだから分かるわけもないが……。
そんなことを思いながら僕は教室を後にした。
学校を後にすると僕は二十分ほど歩き、少し郊外に出た場所に佇む店に来ていた。
ここの店は今では珍しいリアルに装着するイヤリングなど装飾品を取り扱っているお店らしい。
CAREの作り出す拡張現実によっていつでも自由に好きな装飾品をつけていると見せることができる時代。わざわざ現物を付ける意味がないと一気に廃れていったのだ。
桃谷曰く、最近そういったレトロなグッズが流行っているらしく、イヤリングは使いやすいし誕生日のプレゼントとしてどうかと言われたのだ。
現実世界に行く僕たちにとってもいいプレゼントだと思った僕は迷わずそれに決めた。
店に入ると棚にびっしりとイヤリング、バングル、ネックレスなどが飾っている。
それに、桃谷の言う通り流行っているらしく、街の中心からは離れているのに中学生や高校生といった女子学生が十人ほどいた。
店も広くはなく、なんだか場違い感がすごい。すぐに居心地が悪くなってしまう。しかし、それを抑え込んで僕は探し、いくつかの候補を選んだ。
その候補を写真を撮って桃谷にどれがいいか尋ねる。
ラインの文章を作りながら、不意に三浦たちの中で初めて個人的な内容のメッセージを送ったことに気づいた。
その後は僕の選んだ候補を悉くダメ出しされ、結局、棚の写真を撮り桃谷からのウケが良かった、沢山の大小のリングが複雑に絡み合っているイヤリングを買った。
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