010 森を抜けて

 森を抜けると晴れ晴れとした青空を見上げる。


「いやぁ、なんか気分がいいな」


 普通に考えたら森の中の方が森林浴とかいうくらいだし空気がいいはずなんだけど、森を抜けた途端に気が楽になった。

 にしても、森が終わると急に草原っていうのがやっぱりファンタジー世界だなぁって感じだ。普通はなんか、もうちょっと木がまばらなエリアが緩衝地帯として広がっていそうな感じがしそうものだが。


「気を付けてくださいね。草原に多少は魔物がいますから。とくに、フォークバードは上空から急に襲ってきますから」


 ……フォークバードか。警戒しておこう。嘴がきっとフォークみたいに鋭いのだろう。いや、決めつけはよくないな。どういう魔物かちゃんと聞いておこう。


「フォークバードは翼を広げると……このくらいの大きさです」


 そう言ってマリーは胴体に肘をつけたまま腕を水平に広げる1メートル前後くらいだろうか。ハトとかカラスみたいな大きさだろうか。


「嘴が三つ又に分かれている様が食器のフォークに似ているのが由来です」


 わりと予想通りだった。とはいえ嘴による攻撃は十分に脅威らしい。気を付けないと。


「あとはコボルトですね。森から離れてもけっこう出るので注意です!」


 遠目にコボルトを発見し、俺とマリーは剣を抜く。森ではついぞ遭遇しなかったが、いよいよ出くわしてしまった。

 ゴブリンより少し大きくて、なによりもその尖った爪が目につく。


「せやぁ!!」


 俺が振り下ろした剣がコボルトの爪に受け止められる。けっこうな勢いで振り下ろしたというのに、なんて固い爪なんだ。俺は裏拳の要領でコボルトを俺から見て左に押しやる。


「いきます!!」


 体勢を崩されたコボルトの脳天をマリーの正確な刺突が襲う。これでコボルトは完全にこと切れた。ライトノベルでよく見るような、モンスターは魔石を持っていて魔石を砕けば霧散するような、そんなシステムはこの世界にはない。魔物を倒してもその肉体は全て残る。だからこそ、冒険者は魔物を解体して使える素材を剥ぐのだ。


「もう一匹は逃げていきますね。……コボルトは警戒心の強い魔物なので、取り敢えずはこのコボルトを解体しましょう」

「おう」


 マリーは慣れた様子でナイフを操り、コボルトの爪と牙を剥ぐ。血まみれだが、その表情に嫌悪感は見られない。できるだけ早く、マイホームを成長させて、せめてシャワーを浴びられるようにしてあげたいものだ。


「うん、牙はいい感じです。爪はレックスさんの剣で傷ついちゃってますけど、大きいので値がつくと思います」

「お、おう。ありがとう。……こういう素材って買い取ってもらった後、どう加工されるんだ?」

「武具に加工されるものも多いですが、錬金術師さんが素材としていろんなものに加工する場合もあるそうですよ」


 この世界には錬金術師がいるのか。興味はあるが、マリーも流石に会ったことはまだないらしい。


「スタル村までもうすぐです! 頑張りましょうね」


 村は森にも流れていた川の上流にあり、木製の柵が建てられているのが見えてきた。あんな木の柵だけで魔物の侵入を防げるのかはだいぶ疑問だし、件のフォークバードなら柵だって関係なく襲ってきそうだが。

 そんなことをマリーに尋ねてみる。


「フォークバードは臆病なので、こうして少人数で動く人間を狙いがちなんです」


 そう言いながらマリーは剣を抜きつつ振り上げる。


「うぉ、マジか!」


 俺も慌てて剣を抜きながら、もう一匹? 一羽? のフォークバードを斬る。急に襲ってきたってのに、マリーはよく反応できたな。


「ひぇ、びっくりしたぜ」

「一羽一羽の危険性は低いので、落ち着いて対処すれば大丈夫です」

「そうみたいだな」


 それから何度かの戦闘を経て、俺とマリーはやっとスタル村に辿り着いたのだった。

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