第5-1話 閉会①
観客や出演者らからどことなくそわそわとした空気を感じる。
全ての出演者のパフォーマンスが終わり、結果発表の時間が訪れたのだ。あまり意識していなかったというか、私としてはステージでのパフォーマンスが成功した時点で既にお腹いっぱいであったが、このイベントも一応コンテストという形式をとっているので、パフォーマンスにランク付けをする必要があるようだ。
司会が書類を手に名前を読み上げる。
「優秀賞……『Violet Strawberry』!」
観客の視線が一気に隣にいる二人に寄せられる。紫帆は目を丸くし、一果は手で口元を覆っている。
「すごーい! やったじゃん、おめでとう!」
口をついて祝福の言葉が出る。
全ての出演者のパフォーマンスを見たわけではないが、私としては彼らが選ばれることになんの疑問も感じていなかったため、喜びはあっても驚きはそれほどなかった。
「それでは、壇上にお上がりください」
司会が二人に登壇を促す。二人が壇上に上がると、盾のようなものを手渡した。
「代表者の方、なにか一言お願いします」
司会がそう言うと、二人は一瞬目配せして一果がマイクを受け取る。
「えぇと……すみません、まさか選ばれると思ってなくて、なにも考えてないんですけど……こんな素晴らしい賞をありがとうございます。『Violet Strawberry』として立ったこのステージは本当に楽しくて……とてもいい思い出になりました!」
そういって一礼し、観客からの拍手に包まれる。私は拍手をしながらも、彼女の言葉にどこか違和感を覚える。それが何故だかはわからなかったが。
「おめでとう、紫帆、一果さん」
ステージから降りて客席に戻って来た二人に改めて声をかける。笑って礼を言う二人だったが、やはりその表情にもどこか違和感があった。
「……どうしたの? 最優秀賞じゃないと納得いかないとか?」
その言葉に二人は驚いた表情をする。紫帆は少し声のボリュームを落として答える。
「ふふ……やっぱりルナは鋭いね。最優秀賞は別にいいんだ。ああいうのは実力もそうだけど、中の人らとのコネとかスポンサーの意向とかもあるから、僕たちとしてはこれ以上の賞はないと思ってる」
「だったらどうして……?」
すると、紫帆は一果と顔を見合わせた後、やはり少し囁き気味に語り出した。
「ルナには話しておいた方がいいだろうね。実は、『Violet Strawberry』としてのステージはこれが最後なんだ」
唐突な衝撃的告白に思わず驚きの声を上げる。
「え!? 解散ってこと?」
「正確には無期限活動休止かな。もしかしたら思いがけないタイミングで動画を投稿するくらいはあるかもしれないけど、当面はその予定もないし、こういったイベントに出るつもりもない」
「それは……どうして?」
そう尋ねる私の表情が深刻そうだったからか、紫帆は少し笑って軽いトーンで続ける。
「単純な話だよ。姉さんが大学生になって他県で一人暮らしを始めて、二人のスケジュール調整が難しくなったんだ。今回のイベントだって、当日の日程は確保できたけど、二人で合わせる練習時間が全然なくて……恥ずかしい話だけど、クリスマスのときと同じ曲だったのはそういう理由もあるんだ」
「私からしたら、前回出れなかったリベンジマッチ的なとこもあるけどねー。それに、来年は紫帆も受験勉強でそれどころじゃないだろうし、紫帆もどこか他県の大学に行ったら尚更スケジュール調整難しそうだし……」
“受験勉強”というワードに身が引き締まる。来年は自分も他人事ではないのだ。紫帆でさえ活動を一つ諦めるという事実に絶望感が押し寄せる。
そんな私の気持ちを察したかのように紫帆が言う。
「あ……でも、個人的に細々と活動は続けていくつもりだよ。と言うのも、何年か二人で一緒に活動しているうちに、お互いが本当にやりたい方向性っていうのが見えてきたんだ。ほらよく聞くでしょ、バンドとかが『方向性の違いで解散』って。ああいうのって内部で色々揉めたりして起こるものだと思ってたんだけど、実際当事者になってみると、思ったより穏やかで前向きなんだなって。もちろんグループによって色んなパターンがあるんだろうけど……」
それはどのような方向性なのか、個人としての活動の今後の展望はだとか、それこそ紫帆の言う解散するバンドへのインタビュアーになったかのように、聞きたいことが次々と浮かんでくる。少し戸惑ったように受け答えする紫帆は新鮮だった。
「一果さんもなにか別の活動を始めるんですか?」
「うん、私は大学の方で新しくサークルを立ち上げようと思ってるんだ! って言ってもまだなにも決まってないんだけどねー。やりたいことがいっぱいあって整理しきれてないっていうか……」
大学生活というのは今の私にはあまりイメージが湧かないが、それでも新たにサークルを創設することが容易ではないだろうということは想像に難くない。それをこんなに簡単に家族にも他人にも宣言してしまえるのは、紫帆の言うように彼女のバイタリティあってのものなのだろう。
私がそう思っていたところに同調するように、紫帆は「ほらね」と言いたげな表情をこちらに向ける。
「あー! ちょっと、また二人だけでわかり合ってる感出してるー! 私なんか変なこと言ったー?」
そう言って膨れる彼女を紫帆と私は笑いながら宥めた。
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