第6-3話 捜索③

「……たしかに……それならあのときのあれも辻褄が合うかも……!」


「言っても、証拠はないけどね。なんとなくそう感じただけだし……って、話してたら喉乾いちゃった。ちょっと飲み物買って来るわ」


 麻美はそう言って近くの自販機に向かう。

 おそらく麻美の推理というか直感は当たっている。ならば、私もずっと気になっていたことのウラを取ろう。私は麻美が飲み物を買いに行っている間に、携帯電話を取り出し着信履歴から発信する。電話をかけた先は妹の杏だ。さすがにこの時間にもなれば、部活から帰ってきてひと段落している頃だろう。


「…………もしもし、アニキ? どうしたの? 今日は白秋のさくら祭行ってたんじゃなかったの?」


「ああ、それはそうなんだけど、ちょっと杏に確認してほしいことがあって……ちょっと俺の部屋入って机の下の段ボール見てほしいんだけど」


「え、だってアニキ勝手に部屋に入ると怒るクセに」


「いいんだよ今は。だいたい本人が依頼してるのに勝手もなにもないだろ」


「はいはい。んで、なんだっけ? 机の下の段ボール? ちょっと待って……」


 電話の向こう側で杏が家の中を移動しているであろう音が聞こえる。やがて足音と思われる音が止まり、ガサゴソと物を漁る音が聞こえてくる。


「えぇと、机の下……あ、あったあった」


 その段ボールには、私が比較的幼い頃に買った漫画やゲームの攻略本等、今ではあまり読まなくなった本が収納されていた。


「そしたら、青くてギラギラした表紙カバーの……1cmくらいの厚さの本があると思うんだけど、ちょっとそれ開いてみて」


「うーんと、青くてギラギラ……あ、あった。うわ、懐かし! あったねーこんな本!」


 杏の大きな声が耳を劈く。


「それで……たぶん最初の方のカラーのページに『関東の狩人ハンター』がどうのこうのって書かれた記事があると思うんだけど……」


「最初の方のカラーページ……? あ、これか! え、なにこのキャッチフレーズやばくない? どんなセンス……?」


「センスがアレなのはおいといて……そこに書いてある名前読んでみて」


 杏がある個人名を読み上げる。やはり思ったとおりだ。飲み物を買って来た麻美が戻って来たのを見て、私は杏に礼を言って電話を切る。


「どこから?」


「あぁ、家からだよ」


「帰りの時間とか? ルナんち割と緩いイメージだったけど……って今度は私だ……聡子?」


 麻美の携帯電話に着信があった。どうやら聡子から電話がかかってきたようだ。


「もしもし、聡子……? うん……うん……え!? どういうこと? うん……わかった、そっち向かうわ」


 電話越しの内容までは聞き取れなかったが、麻美の反応から聡子からなにか重大な報せが届いたのがわかる。


「聡子、なんだって?」


「……千景、見つかったって!」


 嬉しそうな表情をして言う麻美。自分といたときに迷子になったこともあって、少なからず責任も感じていたのだろう。表情だけでなく、彼女の周囲の空気が弛緩するのを感じた。


「よかった……! でもどこに?」


「それが……聡子も『説明するの難しいから中央広場に来て』って……」


 どういうことだろうとは思ったが、なんにせよ千景が見つかったのであれば一安心だ。


「なんだろうね? とりあえず中央広場に向かおうか……っとあの人らにも伝えておかないとね」


 さすがに手伝ってもらった手前、黙って行くわけにもいかないだろう。それに、彼女たちには聞きたいことがまだある。




 私たちが真由美ら四人と別れた公園北側入口。そこに見覚えのある一人の人影があった。


「あれ、美幸さん? あっち側探しに行ったんじゃ……」


 私の声に美幸が振り返る。


「ああ、そう思ったんだけどね。誰かここにいて司令塔になってた方がいいかなって。ほら、ポイントガード的なね? あっちは今越高が一人で探してるとこ」


 美幸はバスケ部なのだろうか。バスケのポジションに例えて言うのは良いが、伝わりにくい気がする。私は妹の杏の部活の影響で知っているから良いとしても、麻美はなんのことだか良くわからないといった表情をしている。


「あ、そうそう。千景だけど、中央広場の方で見つかったらしいの」


「ほんと!? よかったぁ。それじゃ、私が真由美たちに伝えとくから、すぐに中央広場の方に行ってあげなよ」


「うん、ありがとう! ……と、その前に一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」


「? いいけど……なに?」


 私は周りを見渡し、ほかの三人がいないことを確認してから、小声で彼女に尋ねる。


「えっ……うん、それはそうだけど……どうしてそれを……?」


 驚きの表情となぜそのようなことを聞くのかという不可解さが入り混じった表情をしている。


「ううん、ちょっと気になっただけ。それじゃ、あの三人にもよろしくね!」


 そう言い残し、私と麻美は美幸に背を向けると中央広場へ向かった。今の美幸の反応から、やはり麻美の直感は当たっていたと言えるだろう。



 それから少しして、人でごった返す中央広場へ辿り着く。間もなくメインステージの奉納演舞が始まろうとする頃で、観客の熱気はひとしおであった。提灯のぼんやりとした灯りが幾重にも並び、笛や太鼓の音はしきりに鳴り響く。


「聡子、本部のテントにいるって言ってたけど……広場の北側にある三つ並んだテントって……あ、あれだ!」


 麻美が聡子から伝えられた情報から、本部と思われる白いテントを見つける。そちらの方へ近づいてみると、向かって右側のテントの中から聡子が手を振っているのが見えた。


「よかった、無事に合流できて!」


 私と麻美がそのテントに入ると、聡子はそう言って出迎えた。


「それで聡子、千景が見つかったっていうのは……」


 麻美が早速本題を切り出す。すると、聡子はテントの外へ出たと思ったら、こちらを向いて手招きをした。連れられるままにテントの横へ10mほど進むと、聡子は立ち止まって前方を指差す。そこからはちょうどステージ前にいる観客の頭を飛び越えて向こう側が見えた。そして同時に私と麻美は驚きの声を上げる。

 私たちの目に飛び込んで来たのは、ステージ横の演者控え用テントで、奉納演舞に参加する演者に混じって待機している千景の姿だった。

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