第5話:忘れられた旋律(5)
その夜、カテリナは夜勤の休憩中、事務室に引きこもっていた。
患者の入院名簿、カルテ。ファイリングされた書類の山を片っ端から探していた。
————やっぱりあった。
一時間かけてようやく目的の名前を見つけることができた。
ノア・ロスマリヌス・ダルドヴェール。
まるで貴族のように長い名前だ。
ピアノ弾きの彼と手紙の受取人が同じ。これは偶然とは思えない。
退院した患者はその名簿から名前を消していくものだが、彼の名前は残っている。
つまり入院中ということになる。しかし彼はパブでピアノを弾いているが、病院で寝泊まりしているような様子はなかった。
翌朝。カテリナは大部屋の患者に聞き込みをした。すっかり回復しているのだが、兵士であることをいいことに長居をしている五人の男たちだ。今は賭けをしながらトランプに興じている。
同じ戦地からの帰還兵なら事情も知っているに違いない。しかし問い詰めても彼らは互いに目を合わせて言い渋っている。
「本当に知らないんですか?」
「お嬢ちゃん。悪いけど、俺たちは………」
「知っているんですね」
「———ああ、こりゃあ参ったな」
元兵士たちは顔を見合わせた。
「俺たちは口留めされてんだ」
「誰に?」
「ダルドヴェールだよ、わかるだろ?」
「分かりません」
「北の辺境伯だ。軍貴族のダルドヴェール家。双子の死神の片割れだよ。あいつらに関わるとロクなことが起こらない」
「どうして口留めなんか」
「俺たちが知るかよ、死神の考えることなんざ。なあ、お嬢ちゃん頼むからこのことは口外しないでくれよ」
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