変わってしまった日常
第24話 動き出してしまった日
河野と出かけた土曜日も一昨日の出来事となってしまった月曜日。
俺はいつものように学校へと登校していた。
「………………?」
登校中、一部の周囲の生徒たちから、いつもとは違う空気を感じた。
それは違和感というもので、でもそれが何なのか。
俺には言葉にすることができなかった。
そんな違和感は学校の敷地内に入ると、確信に変わる。
「…………なんだ?」
昇降口へと入ると、俺たち一年生のあたりだけざわついていて、皆スマホを片手に学友と思しき人たちと何やら話をしている。
今朝からそんな話題になったニュースがあったのだろうか。
そんなことを思いながら、内履きに履き替え、スマホ片手に教室を目指す。
左手に持ったスマホで、ニュースアプリを開く。
そして、各ジャンルのトップタイトルに目を通すが、何も話題になるような出来事はなく、いつものような一般的なニュースばかりだった。
「………………わからん」
足を進めるごとにざわめきと戸惑いに溢れた空気が濃くなってきて、つい、そんなことを呟いてしまう。
俺以外の人たちが何に心動かされているのか、分からない。
色々考えてみたけれど、結局答えにはたどり着けず。
俺は自分の教室の扉をいつものように開ける。
――――バッ
「っ!?」
その瞬間、クラスメイト達の視線が俺に向けられ、俺は一歩たじろいてしまう。
しかし、次の瞬間にはその視線はすべて消え、皆自分の時間に戻っていく。
おかしい、明らかに変だ。
何かがこの週末に起こっていたに違いないが、俺には皆目見当がつかない。
俺は自分の席に鞄だけ置き、既に登校していた隣の席の女子に問う。
「北条」
「……………ん?」
俺が声をかけても、手に持っていたスマホでよっぽど面白い何かがあるのか彼女の返事を聞くのに三秒以上かかった。
これもきっとその何かのせいだと睨んだ俺は彼女に問う。
「なんかみんなの様子が変だけど、何かあったのか?」
「え……………もしかして優斗知らないの?」
俺の発言に彼女は暫しの間絶句して、俺に詰め寄ってくる。
「顔近いって」
「あ、ごめん」
彼女の詰め寄り方は普通ではなく、俺は彼女の両肩を掴み、顔を離す。
そして、肩を掴んだ手を離すことなく、今度は俺が両手に軽く力を入れた。
「それで、俺は何を知らないんだ?」
「ちょ……はぁ、話すからとりあえず手を放して」
俺の行動に恥ずかしさと呆れを含んだ顔でため息を吐く彼女。
俺たちは互いの席に腰を下ろして、顔だけ向き合う形になる。
そして、北条は自身の手に持ったスマホを軽く揺らして告げた。
「日曜日に早川くんに彼女がいるって噂が拡散されたのよ、SNSで」
「はー……なるほど、SNSをほとんどやってない俺には無縁な話だったわけか……それにしても」
「そっか、優斗はメッセージアプリ以外はSNSやらなかったね……まぁそんなわけで、これがその投稿」
そう言って、北条は俺の方に身を乗り出して、スマホを差し出す。
そこには、どこかの店内で七分の白シャツと黒スキニーに身を包んだ男と、ベージュのパーカーに白いロングスカートを履いた女性が手を繋いでいる後ろ姿があり、その写真はあたかも盗撮しましたといった具合だった。
「……早川に彼女がいるなんて知らなかったな」
「いや、私も知らなかったし、みんな知らなかったんじゃない?」
「あ――でもこれ、顔隠してあるけど?」
見せてもらった写真の顔の部分は、絵文字のスタンプで隠されており、人物を特定するのは難しそうな写真だった。
「ああ、それはね……ええっと、これ」
北条は俺にスマホを見せながら、手際よく画面を操作して、早川のアカウントと思われる画面を表示する。
そこには、先ほどの写真と同じ七分の白シャツと黒スキニーを着て全身鏡の前で撮ったと思われる早川の自撮りが上がっていた。
「ひぃー……なるほどな」
俺はそれを見て、納得する。
早川はクラスで一番、学年で二番目のイケメンだ。
そういう事情に疎い俺だって、今日までにたくさんの女子に呼び出される姿を見てきたし、彼がモテる理由も肌で感じたつもりだ。
だからだろう。
女子はイケメンが誰と付き合ったのか、好奇心と嫉妬心で。
男子は早川ほどの男をどんな女性が射止めたのか、無邪気な探求心で。
今日、皆の様子がおかしかったことを俺は完全に理解することができた。
「まぁ早川なら上手に乗り切れそうだけど、相手の女子が大変だろうな」
早川はみんなから好かれてるし、これまでの信頼とか人気もあって、大したことはないだろうけど、女子は顔がバレたら他の人からの詮索と嫉妬で大変なことになりそう。
そんなことを冗談めかして俺は口にした。
「それがね、割れちゃってて……なんと、うちの学校の女子!」
「ふーん……」
「なんか他の人の投稿で女の人が映りこんでてね……なんとなんと、その子は同じ一年生!」
「へー……」
「なんとなんとなんと、隣のクラス!」
「ほー……」
俺は早川が誰かと付き合っていようが、どうでも良かった。
そんなの当人同士の問題で、出来事だから。
外野の一般人がどうこうする話じゃないと思っているから。
そんな気持ちの一方で、俺の頭には少し気になることがあった。
そんな、まさか、とでも言いたくなるような、突拍子もない、くだらないこと。
もしそれが本当に起こっていることなら、推理小説の探偵役になれるだろう。
いや、本当はもっと前から気づくことができて、俺はそれを見ないふりをしていただけかもしれない。
「それでね、早川くんの彼女ってのが――」
「――河野だろ、
「え……………」
「長い黒髪で、眼鏡をかけてる地味な女子……違ったか?」
「え、いや、合ってるんだけど…………え、なに知ってたの?」
知るわけがない。
何もかも分からないことだらけだ。
もし、知っていたら、こんな冷静に問いを投げかけられない。
ただ、ひとつ分かったことは、最悪な状況になろうとしているかもしれないってことだけだった。
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