第25話 キミは孤独だった
早川の彼女が河野かもしれない。
そんなわけがない。
普段から自分を偽ろうとしてて、素の自分が嫌いなんだ。
約一か月、ほとんど俺と一緒にいたんだ。
それなのに。
「…………優斗?」
急に黙り込んでしまった俺に声をかけ、北条は心配そうな表情を浮かべる。
その声で俺は自分の世界から現実へと引き戻された。
そして、今すぐに俺のやるべきことを行動に起こす。
「――一緒に来てくれ」
「え、ちょ、何急に!?」
俺は北条の手首をつかんで、教室を出る。
目的地までの道中、彼女が何かを言っていた気がしたが、俺の耳には一切届いていなかった。
『次の日、学校に行くと何故か私が告白したことになってて、それも複数人に……みんながその話を信じてて、男子からは腫物扱い、女子からは陰口どころか直接悪口をぶつけられた、みんなに寄って集って酷いことを言われた』
先日知った、河野澪の傷。
彼女の言葉通りなら、今の彼女は……。
たった十数歩で、俺たちは目的の場所へとたどり着く。
隣のクラスの後ろの扉から教室内の様子を確認する。
「わざわざ手を掴んで連れてきたのは、隣の教室?」
俺の隣から北条のそんな悪態が聞こえてくるが、無視する。
それよりも、十人弱が集まっている人だかりの方が重要だったから。
「北条」
「なによ」
「あそこに行って、河野を連れ出してくれ」
「はぁ?」
突然の俺からの申し出に、戸惑いと呆れを含んだような声色で返答する北条。
「ならいい、俺が行く」
事細かに詳細を話せば、友達思いの彼女はきっと動いてくれるだろう。
けれど、今はその時間すら惜しかった。
だから、すぐに俺の意図が伝わらないなら、自分自身で動くしかなかったのだ。
そのくらい、俺はいてもたってもいられなかった。
「――お前は駄目だ」
たった一歩。
隣のクラスの敷居を跨いだところで、そんな声と共に一人の男子が進行を妨げる。
「――神崎」
俺の目の前には、鋭い目つきで睨む神崎が立っていた。
「お前は近づくな……あれは
「何言って――」
「中学時代からあの女は隼人の彼女だ」
まるで冗談かと思う発言に、俺は言葉を失ってしまう。
だって、神崎は本気でそう言っていたのだから。
(――そういうことかもしれない)
ここにきて、一気に謎が晴れていく。
神崎が俺を睨んで敵視していた理由。
彼は早川と友達で、友人の彼女に近づく蠅を叩き潰そうとしていた。
きっと、ただそれだけなのだ。
「俺が河野のストーカーって、早川からそう聞いてたんだろ?」
「えっ!?」
「……自覚があるとはな」
俺の後ろで驚く北条を無視して、神崎は俺の言葉を肯定する。
きっと、彼の中では全部が逆なのだ。
早川によって、そういう見方をさせられているのだろう。
「お前、河野が今どんな様子か知ってるか?」
「興味ないな……もし困っているなら隼人にでも連絡するだろう」
「そうかよ」
人だかりに視線を向けて、少しでも彼女の様子を確認しようと思い、そんな問いかけをするが、神崎には一切通じない。
本当に俺をストーカーだと思って、俺の言葉に一切耳を傾ける気がない。
でも、俺はこの先に行かなければならない。
神崎に暴力をふるって強引に突破しても、誰かに止められてしまうだろう。
だからといって、ここで引き返すなんて選択肢はない。
(……俺はどうすれば)
弱くて嫌いな自分の一面が顔を覗かしてきたとき、脳内に彼女の言葉が思い出される。
『……やっぱり、高宮はいいね』
『だからね、全部後悔なんだ……彼ら一緒に笑いあったことも、友達になったことも』
『――私はね、高宮とはまったく反対の考え』
『人生は、今日っていうものは、後悔の積み重ねにしか過ぎないって……そう思ってる』
『こんなこと、家族には言えないし…………友達なんていない』
時系列も関連性もまるでバラバラ。
だけど、彼女の言葉で一つだけ妥協案が思いつく。
「俺以外の人間なら、河野に近寄っていいのか?」
「お前の共犯者でないならな」
共犯って……神崎の中では俺は完全に犯罪者のようだ。
だけど、いくらそう思っていても、俺も神崎もここではただの学生に過ぎない。
「なら、俺がストーカーってことに驚いてたそこの女子なら良いんだな?」
「えっ、わたしっ!?」
先ほどから俺と神崎の口論を黙って見ていることしかできなかった北条を事態に巻き込む。
「ふん、駄目だな……その女子が共犯でない証拠がない」
「なら、今からの会話で判断してくれ」
神崎にそう告げ、彼の返事を待つまでもなく俺は北条へと振り返る。
「詳しい事情は後で話す、だから河野の様子を見てきて欲しい……もし困ってないなら声もかけずに戻っていい」
「え……」
「だけど、明らかに困っている様子なら保健室にでも連れて行ってくれ」
俺は一方的に自分の要件を北条に告げて、歩いて彼女とすれ違う。
俺ができるのはここまでで、これ以上俺がいると面倒事になるだろうから。
そう思って、俺は自分の教室へと戻った。
そして、間もなく朝のホームルームが始まることとなったが、北条は教室へと戻ってこなかった。
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