第3話 二人は恋人関係!?
(さて、どうするかな……)
俺は取り調べから作戦会議用に変わった机に頬杖を突きながら、早速、脳内でストーカー被害への解決策を考え始める。
人通りが多い場所では、ストーカーも迂闊に行動することはできないに違いない。
だから、学校やこうした人で賑わう店舗、人通りの多い道などは安全だろう。
問題は、彼女の生活圏の全てにおいて、これらが当てはまるわけではないということだ。
「……なぁ河野、通学に使う道は人通りが多いか?」
「えっと、大通りまで出ればそれなりには……でも、家の近くは普通の住宅街って感じ」
「そうか……普段行く店とかは人少ないか?」
「一応、あんまり家から出ないようにはして、お店も人が多い所を選んでる」
彼女もストーカーが自分に危害を及ぼすかもしれない、危険な存在だと認識できているようで少しだけ安心する。
「なら、問題は登下校だけだな」
「…………問題って?」
「河野が一人になる状況。河野以外の人の目があれば、ストーカーへの抑止力になるし、もし何かあっても誰か助けてくれるだろ?」
俺が疑問に答えると、河野はまるで難しいことを考えているかのように両手で握る飲み物をじっと見つめる。
水族館では、自分のストーカー被害をどこか他人事のように話していた彼女。
そんな彼女もが、今まさに真剣に考えてくれている。
俺の存在が彼女の力になれたかのように感じて、少しだけ嬉しいと思ってしまった。
しかし、その嬉しさはすぐに台無しにされてしまう。
「――ならさ、付き合おうよ、高宮」
「……………………は?」
「――付き合おうよ、私と」
「いや、聞こえなかったわけじゃないけど」
付き合おう、ってあれだよな。
男女交際ってことだよな……。
先ほどまで、一緒にストーカー被害への対応策を考えてくれていると思ったのに、何を言い出したんだろうか、彼女は。
俺は本日二度目の頭を抱えることになった。
「真剣なんだけど、私」
俺の態度がよっぽど不服だったのか、どこか拗ねた子供のような言い方をする河野。
「いや、悪い……その”付き合おう”ってのは、恋人になろうってやつか?」
彼女が真剣に言っているなら、俺の思う「付き合う」じゃないんだろうと思い、項垂れていた頭を上げて彼女に向き直る。
(そうだよな、「付き合う」って何処かに付いてきて欲しいっていうベタな勘違いだったよな、そうだと言ってくれ……っ!)
「うん」
俺の問いかけに対して、彼女は肯定した。
彼女の提案は、恋人になろうという意味で間違いなかった。
俺は彼女の返答に対して、大きなため息を吐いてしまった。
「はぁ……一応聞くけど、理由を教えてくれるか?」
「高宮って、普通に失礼なとこあるよね……まぁいいけど」
再度、俺の態度に納得いかない表情を浮かべる河野。
しかし、そんな俺の態度を諦めたのか、手に持っていたカップを机に置くと、しっかりと俺と視線を合わせる。
「誰かに見られているって感じるのは登下校だと、下校中だけ。だから、下校中、高宮が一緒にいてくれたら人の目を確保できる」
「俺にボディーガードになれって?」
「まぁそんな感じ……あ、でも私が帰った後、高宮が危険?」
今更、俺の心配をされても。
彼女の発言に、内心少し呆れてしまう。
彼女は天然なんだろう。
折角、眼鏡をかけてちょっと頭良さそうに見えるのに、中身がこれじゃ全然意味ない。
そう思うと、クスクスとした笑いがこみあげてきてしまった。
「…………やっぱり失礼だと思う、高宮は」
「悪い悪い、思いっ切り面倒事に巻き込んだ張本人が、変な心配するものだなって思って」
「む…………」
今日何度目かの謝罪をしながらも、きちんと彼女の矛盾点を指摘する。
なんで俺を巻き込んだのか、全然分からないけど。
(元々いい案もなかったし、俺の安全のためにもこれが最適化もな……)
そんなことを考えながら、俺はガサツな手つきで、彼女の頭を撫でる。
「いいよ」
「いいよ、って……?」
俺の言葉を繰り返し、上目づかいで俺を見つめる彼女。
その顔では、彼女の整った顔立ちには不釣り合いの黒縁眼鏡がしっかりと主張している。
そして、その奥には何処か期待を寄せているような表情があった。
俺はそんな彼女が、少しだけ可愛らしと感じだ。
「恋人になろう…………偽の!」
俺は彼女に勘違いしていないことをしっかりと伝えるため、偽の恋人関係であることを理解していると強調して伝えた。
俺はきちんと分かっている、そうアピールした……つもりだった。
「………………………………」
「………………あの、河野?」
俺の発言に、河野はめちゃくちゃ不服そうな表情を浮かべていた。
彼女の眼つきは、俺を睨んでいるのではないかと感じるくらい鋭いもので、体中から冷汗が湧き出ているのを感じる。
「……いいよ、やろっか、偽の恋人」
しばらくして、ようやく口を開いた河野はどこか拗ねた様子でそのように吐き捨てるように発した。
しかし、彼女の表情はまったく和らいでおらず、時間が経つにつれて増々不機嫌になっているのではないかと感じる。
「あのー、なんか、怒ってますか?」
「………………………………べつに」
恐る恐る問いかけるが、相変わらず拗ねたような口調でぼそりと呟く。
店を退転する少し前まで、彼女はずっと不機嫌な表情を浮かべたままだった。
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