蛇腹剣同好会

タヌキング

変幻自在の剣捌き

「部活どうしようかな?」

俺こと高校一年生の荒屋あばらや 連一れんいちはもう6月になったというのに、どの部活に入るのか決めあぐねていた。

高校に入る際に中学の友達と別れて知り合いが一人も居らず、昔から目付きが悪い三白眼なので初対面の人を威圧してしまい、友達もまだ出来ていない。このまま一匹狼を決め込んで、孤独な高校生活をするのも悪くないかもしれないが、それも何だか違う気もする。うーむ。

悩み多き高校生男子の俺が廊下を歩いていると、廊下に紙切れが落ちているのを発見。ひょいとそれを拾い上げ、書かれていることを読んでみると、どうやら部活動の勧誘のビラのようだ。

ビラにはこう書かれていた。

【蛇腹剣同好会 仲間求む】

太字の文字にストレートな文面、それが俺のハートがビビッと来てしまった。

これだ、きっとこれこそが俺の青春の居場所なのである。なんとなくそう思う。

蛇腹剣って何だか分からんが、とりあえずこの同好会の門を叩いてみることにしよう。

ビラの下の方に部室は職員棟の3階、科学準備室と書かれていたので早速行ってみることにした。


「ここか。」

科学準備室の前に来たが、二階の吹奏楽部の演奏が遠くに聞こえるだけで、科学準備室からは一切の音が聞こえてこない。本当にこんな所に【蛇腹剣同好会】の人達が居るのだろうか?そもそも蛇腹剣なんて代物が分かっていないのに、本当にどうして俺はこんな所に立っているのかよく分からなくなっていた。

「ええい、ままよ。」

こうなったらヤケクソだと思い、科学準備室の引き戸を思いっきり開けると、そこには科学準備室の名前に違わぬ、ビーカーやフラスコ、顕微鏡などが置いてあるだけで人の姿なんて一人も見当たらなかった。

これは謀られた。あのビラは嘘だったのだと思い、ムカムカした俺はその場を去ろうとしたが、微かに聞こえるスピーッという声が耳に入ってきた。

音の出処を探るように科学準備室に入って辺りを探索すると、一番奥の通路の床に一人の少女が布団の上に横になって寝ていた。

「ムニャムニャ…スピーッ。」

その堂々たる寝姿はアッパレである。身長は140センチに満たないだろうか?黒髪のオカッパ頭は日本人形を彷彿とさせるが、顔は整っており美少女といって当たり障りないだろう。身長的には小学生に見えるのだが、ウチの女子の制服を着ているので、信じられないが女子高生なのだろう。

さて、どうしたものか?おそらくこの子が【蛇腹剣同好会】のメンバーなのだろうが、こんなに熟睡している子供を起こすのは気が引ける。とはいえ、ここで起きてもらわないと、メタな話になるが物語の進行に差し障るではないか。

「ムニャ…うぅん。」

ホッ、良かった。どうやら目を覚ましたようである。少女は目を擦りながら起き上がり、背伸びをし始めた。

「あれ?…君誰?」

俺を見るなり不思議そうな顔でジーッと見つめてくる少女。そんな汚れを知らないキレイな眼で見られると、ドギマギしちゃうじゃないか。

「あ、あの…このビラを見て来たんだけど。」

ポケットから廊下で拾った【蛇腹剣同好会】のビラを見せると、少女は両手をポンと叩いた。

「あぁ、もしかして入部希望者の人?凄い、割と嬉しい。何年生?」

「一年生の荒屋 連一です。」

「ふむ、私は二年生の草刈くさかり あん。ガリアン、もしくはジョジョと呼んでくれても構わないよ。」

二年生?この見た目で俺より歳上なのか?それにガリアン??ジョジョって一文字も名前と関係ないではないか。

「君も蛇腹剣好きなの?何が好き?名前的には蛇尾丸って感じだけどさ♪」

目をキラキラさせながら蛇腹剣トークを開始している草刈先輩だが、まず蛇腹剣のジャの字も知らない俺である。

「すいません、実は蛇腹剣ってよく知らないんですよ。ただの興味本位で来たもので。」

「えぇ!?知らないの蛇腹剣?世界一イカした武器だと、その界隈では有名なのに!!」

どの界隈だろう?とりあえず草刈先輩は蛇腹剣に対して熱烈的な想いがあることだけは分かった。

「仕方ない、説明するより見てもらったほうが早いよね。今から体育館裏に行こう。」

「えっ、体育館裏?」

なんだろう?イメージ的には体育館裏って、あんまり良いイメージがしないんだけど、とりあえず草刈先輩に付いていくことにした。



「着いたよ。」

体育館裏に着いた俺と草刈先輩。体育館裏は雑草がボーボーに生えており、ジメジメしていて、あとは用途不明の丸太の杭が一本刺さっていた。

草刈先輩はここに来るにあたり、科学準備室からとある物を持ち出していた。

それは大きな弦楽器のケースであり、先輩に聞いたところによるとコントラバスのケースらしい。

小柄な草刈先輩が背丈よりも大きなコントラバスのケースを持つのは非常にシュールな光景だった。

それにしても蛇腹剣というのは楽器なのだろうか?

「ヨイショ。」

コントラバスのケースを地面にドシンと落とす草刈先輩。そうしてパチパチと留め金を外して、パカッとケースの蓋を開けた。すると中にはなんと一太刀の剣が入っていた。

西洋の騎士が持ってそうな刃が広めの剣。一つだけ言えることは、これが本物なら銃刀法違反に引っかかるということだけである。

「せ、先輩。それって本物じゃ無いですよね。」

俺の背筋に汗が伝う。嫌な予感が半端じゃ無かったが、先輩はテヘッと言って舌を出した。

「ほ、本物なんですかぁ!!」

「落ち着いて、この秘密を知ったからには君だって同罪なんだからさ。騒ぐとどうなるか分かるよね。」

草刈先輩はニヤッと笑って剣を手に取った。刀身が日光を反射して鈍く光ったのを見て、俺はもう逃げられないことを悟った。

「じゃあ、今から蛇腹剣の実演するから見ててね♪あの丸太を狙います。」

…じゃあって何だろう?本物の剣を目の当たりにして放心状態気味の俺にこれ以上何を見せるというのだろう?

第一、草刈先輩は剣を構えているが、丸太から先輩までの距離は、ゆうに五メートルは離れている。そんな位置から丸太を狙うとはどういう意味だ?まさか漫画やアニメみたいに剣撃を飛ばすワケじゃないよな?

まじまじと僕が見つめていると、草刈先輩はフフッと鼻で笑った。

「初心者の君に見せるから、少し遅く動かすね。ていっ!!」

掛け声とともに剣を振るう草刈先輩。すると不思議なことが起こった。

なんと剣の刃が伸びて、遠くの丸太にビシッと当たったのである。

「えっ!?」

俺は何が起こったのか分からなかったが、よく剣を見ると、刃がバラバラになって、それが一本のワイヤーの様な物で数珠繋ぎになっており、それで刃が伸びたように見えたのである。

「更にこう!!」

先輩が柄をくいっと動かすと数珠繋ぎになった刃がジャラジャラと音を立ててしなり、鞭のように丸太を何度も何度もビシッビシッと傷つけていく。

草刈先輩は実に涼しい顔をして剣を操っており、まさに神技というべきなのだろう。だが、これって物理法則とか無視してないか?……っとそんなことを考えるのは野暮かもしれない。

「フィニッシュ行くよ!!」

そう言うと先輩は刃を丸太に巻き付け、次の瞬間……。

"パァン!!"

とあろうことか丸太が原型を留めずに砕け散ってしまったのである。これには流石に驚きというか恐怖を覚えてしまった。

ガタガタと震える俺を見ながら、これまた鮮やかな操作で蛇腹剣を元の剣の形に戻す草刈先輩。そうして俺にニッコリと無邪気に微笑みかけて、こんなことを言うのだ。

「どう?蛇腹剣に興味持った?ちなみに同好会は今私一人だからマンツーマンで教えてあげられるよ♪」

うーん、正直これを教わって将来に何の役も立たないし、履歴書にも書きづらいことこの上無い。その上銃刀法違反のリスクまで背負わないといけないのだから、メリットなんて欠片も無い。なので俺の答えは決まっていた。

「入ります。」

とても良い顔で俺はそう答えた。俺は蛇に絡め取られる様に、蛇腹剣という存在に魅了されてしまったのであった。

「返事が遅い!!…でも良い顔してるから許す♪」

こうして俺の蛇腹剣使いとしての青春が始まったのだが、今はその道…いや蛇の道に幸があらんことを祈るのみである。






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