第二十六話

 誰だコイツは? 何処かで見たことある様な無いような……。


「誰だお前は」


「私は黒、よろしくね」


「白の話とは一体なんだ?」


「それは…………秘密!」


「ふざけるな」


「まあまあ落ち着いて、とりあえず座ったらどう?」


「断る」


「ふうん……そういう態度取るんだ。いいけどさ、でも後悔しても知らないから」


「どういう意味だよ」


「知りたいなら私と勝負しようよ」


「何でそんな事しなくちゃならないんだよ」


「もし私が勝ったら巻君は私のものになるの」


「俺が勝った時は?」


「その時は巻君の好きにして良いよ」


 訳がわからない


 何を企んでいるのか、この女は何者なのか、目的はなんなのか


 だがここで戦わなければ白の身が危ないかもしれない


 ここは相手の要求を飲むしかないだろう



「わかった、その勝負受けよう」


「やっとやる気になってきたみたいだね」


「その代わり俺が勝てば二度と白に近づくんじゃねぇぞ」


「約束はするけど、私負けないよ」


「随分と自信家な奴だな」


「じゃあ早速始めましょう……まずはこれを見てもらおうかな」


 黒はポケットの中から白い粉の入った小瓶を取り出した



「これは何だと思う?」


「知るかよ、ただの薬にしか見えないが……」


「正解。これは媚薬です!」


「それがどうかしたのか?まさかそれを飲めとか言うつもりじゃないだろうな」


「わかってるじゃん。流石巻くんだね」


「正気か……?」


「勿論。だってこれ使わなかったら面白くないし」


「……」


「別に嫌なら無理して飲む必要は無いと思うけど。それでもいいんならね。私はどっちかと言うと飲んでくれた方が嬉しいんだけど。ほら、早く飲みなよ」


 これを飲んでしまえば取り返しのつかないことになってしまう気がする


 だが白を助ける為なら



「やるよ。今すぐだ」


「そうこなくっちゃ!じゃあはいどうぞ」


「ああ」


 俺は震えながら白い錠剤を飲み込んだ、身体中が熱くなる


 心臓の鼓動が速くなっていき、息が苦しい


 全身の血管を巡る血液が沸騰しているようだ


 脳髄まで蕩けてしまいそうな感覚に襲われる



「う……ぐぅ……」


 頭がクラクラする、視界がぼやけて意識が飛びそうだ


 俺の理性がどんどん削られていくのを感じる


 このままでは自分が自分でなくなってしまう



「……おっ、効き始めたみたいだね」


「なんなんだお前……」


「あれ、まだ自我を保てるなんて意外と精神力あるんだね。でもいつまで続くかな」


「ふざけんな……。こんなもんで俺をどうにかできると思ってんじゃねぇ……」


「思ってないよそんな事」


「だったらどうして俺なんかの為にここまでするんだよ」


「好きだからだよ」


「えっ……」


「君が好きだから。愛してるから。君のためになることをしてあげたいし君の為になる事をしたいの。それくらいわかるでしょ?」


「わかんねえよ」


「ふーん、そっか。まあいいや。とりあえずそれは置いといてさ、君は私以外の女と話す必要はないよね?だって私がいれば他の女はいらないでしょ。必要ないでしょ。私以外を見る必要もない。私以外に触られる必要も無い。私だけを見て私だけに話しかけてくれればいいの。そうすればもう辛い思いをすることもないし寂しい思いもしなくて済む。それに私は君のことならなんでも知ってるし全部受け止めてあげられる。ずっとそばにいる事ができる。誰にも邪魔されない。永遠に二人っきりで過ごせる。ねぇ、幸せでしょ?これって最高だと思わない?」


「思うかバカ」


「酷いなぁ。せっかく人が幸せな気分にしてあげようとしてるのに」


「余計なお世話だ」


「あはは!確かにこれはお節介だね!」


「何がおかしい」


「おかしくはないけど。ただ嬉しくはあったかな。ほら、私ってあんまり友達いないから。こういう風に誰かと仲良くなれたらいいなってずぅっと前から考えてたの」


「俺はお前のおもちゃじゃねぇぞ」


「わかってるよ。ちゃんと大切に扱わせてもらうつもりだし。傷つけたり壊したりするつもりは無いよ。むしろ逆かも」


「どういう意味だ」


「そのまんまの意味だけど。そうだな……わかりやすく言うと『飼う』みたいな感じ」


「なんだそりゃ」


「ペットみたいに可愛がってあげるってことだよ。犬とか猫を撫でたり抱きしめたりするアレと同じ」


「ふざけんな」


「ふざてるわけじゃないんだけどな〜。でも安心して。性的なことはしないから。キスもしないしお風呂に入ったりする時以外は基本部屋からは出さないようにするだけだから。」

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