第2話 七つの不幸と遭遇した黒猫さん【中編】

 帝都防衛騎士団の定員は24名。エリート中のエリートである。そしてその下部組織である帝都防衛軍への配属も名誉な事とされていた。転属であれば栄転として、新任であればエリートへの登竜門として認識されている。


 士官学校を卒業したばかりの黒猫が帝都防衛軍に配属されたのだ。これは黒猫の能力の高さを物語っているのだが、それでも名誉であり幸運である事に変わりはない。


 しかし、不幸ごとは突然襲ってくる。


 黒猫の師とも言うべきクロイツ大尉が不貞を問われ降格・左遷されたのだ。帝国最強と謳われるクロイツ大尉が何故そのような処遇をされるのか。不貞とは誰と誰が為した事か。全ての情報は不開示とされ帝都防衛軍にも詳細は知らされなかった。しかし、多くの軍人がこの件に抗議をした。黒猫もその一人だった。


 しかし、それらの抗議が受け取られる事はなかった。そして、抗議活動をした者は全て左遷された。


 黒猫が左遷された部署は皇帝警護親衛隊だった。本来、親衛隊なら帝都防衛騎士団と並び称されるエリート組織であるが、黒猫の配属先は親衛隊広報部だったのだ。


 彼の上官はミハル・ジュドー中尉。赤毛でグラマーな女性なのだが、黒猫の好みではない。そして、広報部の主な業務は何と、帝都中心部にそびえる宮殿の観光ガイドだった。


 何故、観光ガイドを親衛隊が引き受けているのか。黒猫の疑念は絶えなかった。しかし、上司のミハル中尉は嬉々としてその仕事に従事しており、黒猫も不本意ながら観光ガイドをこなしていた。黒猫の黒猫獣人という珍しい容姿が観光客にウケていたのは事実である。しかし、事件は発生する。

 

 ある時、身体障がい者の団体が観光に訪れたが、それはテロ組織の偽装だった。義手や義足に武器を隠し持ち、そしてその中の一人には小型の核兵器が埋め込まれていたのだ。もちろん、ミハル中尉と黒猫、そして近衛兵団のレイダー・グラブロ軍曹の活躍により核爆発の危機を回避する事が出来た。しかし、聖教会の礼拝堂は破壊されて瓦礫の山となり、その責を問われたミハル、黒猫、レイダーの三名は左遷されてしまう。


 レイダーと黒猫は連合宇宙軍突撃降下部隊、いわゆる海兵隊へと配属された。レイダーは犬系の獣人でクロイツと幼馴染。その縁もあり黒猫とレイダーは夜の繁華街へと繰り出すことが多くなった。この、レイダーという男は酒癖が悪く、しょっちゅう喧嘩をしていた。しかし、図抜けた体格と格闘センスを持つ彼は連戦連勝、無敵無敗を誇っていた。軍関係者だけでなく、反社組織といがみ合う事も多かった。つまり、麻薬の密売や不法売春、人身売買などの違法行為を重ねる極悪非道の輩を片っ端からぶっ飛ばしていたのだ。

 これだけなら英雄的行為として称えても良かろう。しかし、所詮は酔っ払いの喧嘩である。そして運が悪い事に、とある組織の背後にいる某貴族をぶん殴ってしまった。


 もちろん問題となった。夜の街で海兵隊の狂犬と勇名を馳せていたレイダー軍曹は再び左遷され、第七艦隊の研究開発部へと押し付けられた。そして黒猫は鋼鉄人形操縦士ドールマスターであるにもかかわらず、空母機動部隊の戦闘機パイロットとして艦隊勤務を命じられた。


 これらは面目丸つぶれな貴族から二人を遠ざける配慮から為されたものであるが、エリート街道を進むはずの黒猫にとっては不幸以外の何物でもなかった。


【続く】

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