第3話 七つの不幸と遭遇した黒猫さん【後編】
艦隊勤務といえども、時には地上に降りて休暇を楽しむこともある。黒猫はクロイツ大尉やレイダー軍曹と飲み歩いた日々を思い出しながら一人で飲む事が多かった。その黒猫はとある居酒屋で独身の女性と同席する事になる。店が込み合っていた事による不可抗力なのだが、その女性が豊満な体形だった事が災いした。
彼女の名はキキ・アトラ。帝都の北方サナートの出身であるという。その豊満体形の女性に黒猫は一目惚れしてしまった。デブ専ならでは……である。
それ以降、黒猫とキキは休日には必ずデートするようになる。キキは占いが得意で、黒猫には出所の怪しい占いグッズをプレゼントしていた。その中の一つである幸福の腕輪に問題があった。
「それはね、幸福の腕輪なの。私と一緒にいると幸運を呼び寄せる。私と離れてしまうと不幸を呼んでしまうから気を付けてね」
黒猫はそんなキキの言葉を真剣に聞いていなかった。不幸なんてそうそう呼び寄せる事なんて無い。黒猫はそう思っていたのだが、お前は不幸体質じゃんって突っ込む人物は彼の近辺にはいなかった。
或る日、黒猫は艦隊の演習で帝都を離れた。およそ二ヶ月の演習だったのだが、帝都を離れた事で幸福の腕輪が不幸の腕輪として発動した。
空母機動部隊の演習の中に、ワープカタパルトを使用して艦載機を一気に数光年先へと出撃させる訓練があった。
黒猫が搭乗したのはブーメラン型の無尾翼機バートラス。ワープカタパルトに接続されたその機体は数光年ではなく150光年も跳躍してしまう。ワープカタパルトの誤作動だったのだが、このありえない誤作動に艦隊は大混乱を起こす。演習を中止し全艦艇で黒猫の捜索を実施したのだが発見できなかった。その黒猫を救出したのはミサキ皇女だった。
母艦から150光年も離れてしまい絶望していた黒猫を救ったのがミサキ皇女である。ミサキ皇女と共に地球へと訪れた黒猫は、ララ皇女、皇帝警護親衛隊隊長に現地採用された。つまり、帝国のエリートである親衛隊の一員となり、予備機である式典用の鋼鉄人形が地球に配備されることになった。
偶然ではあるが、黒猫が本来のまっとうすべき職務へと戻った訳だ。しかし黒猫は、サリスタスで救助された恩があるミサキ皇女に下僕同然として扱われる事となる。萩市の高校へ通い始めたミサキのボディーガードを始め、毎夜の飲み会への随伴、食料品だけでなく生理用品や避妊具などの買い出し、そして、日々の課題や夏休みの宿題の肩代わりなど黒猫の義務は多岐に応じた。そして防衛軍ではビアンカの部下として配属されたのである。
黒猫の不幸は主に七つ。一つ目は子ぎつねフェイスの不吉な予言が的中した事。二つ目は敬愛しているクロイツ大尉の左遷と、それに連動した処分の対象になった事。三つめはミハル中尉の下で観光ガイドをさせられ、テロリスト撃退を完全に成しえずその責を問われた事。四つ目はレイダー軍曹との交流で更に左遷された事。五つ目はデブ専が災いし、怪しい魔導士キキと付き合ってしまった事。六つ目は何やかやでミサキ総司令の下僕となってしまった事。そして七つ目がビアンカの部下となってしまい、自分の愛機、式典用の美しい機体が汚され傷だらけにされてしまった事。
黒猫は自機の無残な姿を眺めつつ、自分の運の悪さを痛感している。そして深くため息をついた。
【続く】
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