萩市立地球防衛軍☆KAC2023その⑤【筋肉編】

暗黒星雲

二刀流のドールマスター

 ここは萩市沖の櫃島ひつしまである。面積が1平方キロメートルにも満たないこの小さな島で、今まさに人型機動兵器同士の死闘が繰り広げられている。実剣を二本振り回している青い鋼鉄人形が剣を打ち込む。


「実剣が弾かれた。空間防御か」

「支援が必要か?」

「御冗談を」


 青く細身の機体は鋼鉄人形インスパイア。ビアンカの専用機だ。鋼鉄人形とはアルマ帝国の決戦兵器であり、その戦闘力は操縦者ドールマスターの霊力に比例する。つまり、操縦者ドールマスターの能力次第で鋼鉄人形は無限の戦闘力を発揮する。その瞬発力は光速を越え、どのような防御をも突き破る突破力を持つ。


 ウーサル・ビアンカ。ピンク色の体毛を持つ狐系獣人。獣人の国ラメル王国を代表するドールマスターである。青い旋風の異名を持つ彼女は宗主国であるアルマ帝国を始め、多くの国家からの招聘しょうへいを断り地球へと赴任したのだ。


 それほど地球が魅力的だったのだろうか。

 ビアンカを防衛軍に誘ったのはミサキ総司令であるが、彼女の言葉……彼氏を紹介してあげる……この一言が決め手になったようだ。


 ラメルの青い旋風が手こずっている相手は、ワームホールを通りぬけて出現した未知の機体である。その構成はおよそ30パーセントが生身であり、残りの70パーセントが金属製だった。


「やああ!」


 青い鋼鉄人形インスパイアの額が輝き、黄金色のビームが敵の装甲を貫く。その高熱により、生身の部分の水分が蒸発ししぼんでしまう。しかし、その体から伸びている幾本もの管が海水を吸い上げ、瞬く間に復活した。


 その様を見つめるビアンカがぼそりと呟いた。


「あれ、二足歩行してるけど、人型じゃなくてイカ型だよな。イカ型機動兵器? イカロボ?」

「それでは、今後奴の事はイカロボと呼称する。本当に手助けは不要か?」

「不要です。ララ隊長」

「海水で何度でも復活するぞ?」

「復活する前に切り刻む」


 イカロボの八本の触手が伸びビアンカのインスパイアに迫る。しかし、その全てをビアンカは切り落としていた。しかし、触手は直ぐに再生し再び彼女に迫っていく。しかし、ビアンカの双剣はそれらを切り刻んでいく。


「こりゃねばねばだな。あれ? 剣が……溶ける?」


 ビアンカの抱えていた二本の長剣はその刃がボロボロと溶解していく。


「ははは。こりゃ参ったね」

「ナパーム弾で援護するぞ」

「焼き尽くすって? そりゃいいね。今から必殺技を出すからそれが失敗してからね」


 二本の実剣を溶かされて丸腰になったビアンカであるが、まだまだ余裕があった。


 櫃島ひつしまの周囲には最上の艦載機である九四式艦上爆撃機がナパーム弾を抱えて周回していたし、その後方には重巡最上が三式弾を発射せんとその砲口を向けていた。三式弾とは小型の焼夷弾子を多数詰め込んだ対空用の砲弾であるが、地上攻撃においても絶大な効果を発揮する。


 再生した八本の触手が再びビアンカのインスパイアを襲う。低く構えたインスパイアは姿が消え、そして次の瞬間にはゼロ距離に詰め、右腕をイカロボの腹部に叩き込んでいた。


「絶対無敵の光速パンチだ。光速の運動エネルギーを全て熱エネルギーに変換した。こっちも右腕一本いかれちまうが……効くぞ」


 三歩ほど下がったインスパイアの右腕が黄金色の粒子と化して消失していく。そしてイカロボの金属部分も黒い結晶となってから空気中へと消えた。生身の部分、ほぼイカなのだが、それは一気に燃え上がった後に炭化した。


「へへへ。ざっとこんなもんよ」


 ……一時間後、防衛軍本部である。デスクで両腕を組んでいるララは渋い顔をしている。デスクの前に立たされているのはビアンカだ。


「ビアンカ。よくやったと言いたいところだが」

「……」

「あの、人型機動兵器……いや、イカロボはナパーム弾や焼夷弾などの高熱を発する兵器で倒せたのだが」

「……」


 ビアンカは知らん顔をしてそっぽを向いている。


「わざわざ光速まで加速しなくても」

「……」

「右腕一本で済んだと?」

「え? 他にも壊れていたのですか?」

「整備からの報告書だ」


 ララが数枚の書類をデスク上に並べた。それを食い入るように見つめるビアンカだが……急にそっぽを向いて口笛を吹き始めた。


「知っていると思うが、鋼鉄人形の駆動系は主に筋肉に該当する繊維質のバーツだ」

「……」

「これを酷使すると繊維がズタズタに切れてしまい、再生するのに時間がかかる。場合によっては交換しなくてはいけないのだが、今回は全て交換すべきとの結論のようだ。そして骨格、フレームだな。こちらもガタガタ。修理するより新規に制作した方が早い」

「全損……ですか?」

「ああ。だが心配するな。元通りに直してやる」

「ありがとうございます。ララ隊長」

「本国からパーツ一式届くのに二ヶ月。組み立てと修理に四ヶ月ほど要するだろう」

「半年……ですか。それまで私は?」

「不本意だろうが三式戦車に乗れ。九四式艦上爆撃機でもいいぞ」

「わかりました」


 がっくりとうなだれるビアンカであった。


 今回の戦闘でビアンカは鋼鉄人形を酷使し、その駆動系である〝筋肉〟を全損してしまった。しかし、彼女の愛機である青いインスパイアが地球を救ったことは間違いがない事実である。筋肉が地球をすくったのである。


 その後、ビアンカは何度も部下の黒猫の機体、純白のゼクローザスをかっぱらって出撃していたのだが、その話はまた別の機会に譲ろう。






 





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