萩市立地球防衛軍☆KAC2023その②【ぬいぐるみ編】

暗黒星雲

ブックフェアは厳重警戒中

 ここは萩市笠山の麓にある明神池である。海水で満たされたその池では、海の魚が優雅に泳ぐ様を見ることができる。その、明神池のほとりに小さな本屋があった。売り場は三畳ほどの広さしかなく、しかも取り扱っている書籍はミリタリー系のマニアックな物ばかり。故に、売り上げは極端に少ない。


 この状況を打破すべく、期間限定で某大手出版社との提携が実現した。店頭だけでなく店外にも平台が設置され、文芸書やラノベ、コミック本などが溢れるほど陳列されていた。もちろん、マスコットキャラクターはカクヨムサイトのマスコットであるトリだ。


 お買い上げ1000円以上でトリのぬいぐるみ(小)をプレゼント。5000円以上ならトリのぬいぐるみ(中)となり、10000円以上ならおしゃべり機能搭載型のスペシャルトリ(大)が進呈される。


 珍しく賑わっている店頭でせっせと働いているのは猫耳と猫の尻尾を付けているセーラー服の最上と、三毛猫の立体メイクを施した見た目三歳児椿であるが、とても手が足りないので二名手伝いに来ている。ぽっちゃり系白猫獣人のハウラ姫とピンク色の狐獣人ビアンカだ。ちなみにこの二人、通常では人間の姿をしているのだが、今日は素のまま、つまりもふもふ獣人の姿で動き回っている。


「はーい。ありがとうございました。お客様はこちらのおしゃべり機能付きスペシャルトリ(大)を差し上げまーす」


 ちなみに、このおしゃべり機能は綾瀬重工製アンドロイドと同等のAIを使用しており、デレデレ、ツンデレ、ツンツンなどの設定が可能だ。しかし、使用する単三電池二本は別売である。


「ねえねえ。ママ。あの奥にあるでっかいトリは?」

「あれは見本ですって。目がチカチカ光ってるのは不気味ね」

「うん。不気味」


 店の奥に置いてある身長約150cmの大きなトリ。このトリはももちろんぬいぐるみであるが、両目がチカチカと点滅しており他とは違う雰囲気を漂わせていた。


『28歳女……157cm……48kg……82……59……85……ナイスバディ……6歳男……スキャン省略』

『48歳男……独身……童貞……ミリオタ……』

『22歳女……162cm……55kg……92……62……90……非処女……経験人数……計測不可』

『18歳男……イケメン……リア充……攻撃許可申請……却下?……再申請……絶対却下?……対象除外』


 とまあ、こんな具合に来店客をスキャンして脅威判定を行い、その結果を防衛軍本部に送信している。ちなみに、書店で働いている人物をスキャンした場合はこんな風に判定する。


『89歳女……女……貧乳……データ取得不能……』

『1歳女……??……データ取得不能』

『17歳女……身長168cm……体重52kg……エラー……爆乳……エラー……重量値が特定不可』

『48歳女……』


 カシャリ。

 ビアンカがスカートの中から光剣を取り出し、特大トリに突き付ける。


「お前……余計な事をするなよ。切り刻むぞ」


 特大トリはもちろんぬいぐるみなので動くことはできない。目をチカチカと点滅させつつビアンカに服従の意思を示した。


「女子の年齢測定など下らん事を続けるなら本当に切り刻むからな。わかったか?」


 特大トリは再び目を点滅させビアンカに服従の意思を示した。


『不審者……警察官……男……漁協職員……女……体内にアルゴル反応……座標マーク』

『不審者……観光客……男女カップル……アルゴル反応……座標マーク』


 アルゴル反応……それは侵略宇宙人であるアルゴル族に操られている人物が示す反応。アルゴル族はミミズのような環形動物の集合体が人体に模して活動している。彼らはその構成要素の一部、即ちミミズを他者の体内に寄生させることで隷属させる能力を持っているのだ。


「黒猫さん。ララさん。対象を確保して」

「了解した」


 ミサキ総司令の指示に従い、ララと黒猫が対象人物を特定し確保した。彼らは付近にある県漁連会議室へと運ばれアルゴル除去の治療を施された。


「多いな。これで15人目だ」

「そうですね、ララ隊長」


 金髪で小柄なララと、黒人青年の黒猫が談話している。


「しかし、あのぬいぐるみ……」

「トリだ」

「そう、トリです。メチャ高性能ですね」

「うむ。綾瀬重工警備部の傑作らしい。体内のアルゴルを発見するためには全身をMRIでスキャンする必要があるのだが」

「光学と電磁波で見つけるって、どんな技術なんですかね」

「さあな。案外、霊感機能を搭載しているのかもしれん」

「霊感? ぬいぐるみのくせに生意気な機能ですね」

「そうだな」


 そして再び特大トリの目が激しく点滅した。


『明神池内にアルゴル反応多数……100……200……それ以上……計測不能……計測不能』


 特大トリの報告と同時に、池の中から何かが浮き上がった。それは青黒い色をした人型のものだが、全長は12メートル程の大きさがあった。


「何だ?」

「え? 魚の集合体?」


 本当に魚類が寄せ集まり、人型の化け物と化していた。その化け物は周囲に海水を撒き散らしながら陸上へと這い上がって来た。


「黒猫。貴様は避難誘導だ。アレは私がやる」


 ララの全身を雷が覆う。そして化け物へ雷撃を放とうとしたその時、店の奥から特大トリのぬいぐるみが飛び出して来た。


『書店防衛体勢……全トリに告ぐ……集結……合体』


 何と、トリのぬいぐるみ(大)(中)(小)が特大トリを中心に合体し、超特大トリへと進化した。


 見た目はトリのまま。身長は5mほどだ。


『ゴッドバード・アタック!』


 12mの魚の集合体へ5mのトリが突進した。眩い光が弾け……トリは個々のぬいぐるみへと分解してしまった。しかし、魚の集合体は健在である。


「役に立たんな。でやああ!」


 ララが右腕を突き出し、魚の集合体へと雷撃を放った。その化け物を構成している魚の全てが感電し、痙攣しつつ四散した。


「もう一発、喰らえ!」


 今度はララの左腕から雷撃が放たれ、路上をピチピチと跳ね回っている魚類を舐めまわした。再び雷に撃たれた魚類は全て黒焦げになってしまった。そしてバラバラになったトリのぬいぐるみ(大)(中)(小)も同じく黒焦げとなり煙を吹いていた。


 その惨事を見つめる少女が一人。竜王学園の制服を着たミサキ総司令だ。


「あーあ。真っ黒。もったいないわね」

「もったいない? まさかアルゴル入りの魚を食べるのですか?」

「そうよ。ララさん。アルゴルは主に脳と内臓に寄生します。お刺身にしたら関係ないの」

「いや、だからと言って食べるのは躊躇しますが」

「白身のお刺身って、白ワインに合うのよね」


 飲んだくれる事しか考えていないミサキ総司令だった。


 全滅したトリのぬいぐるみだが、中核の特大トリは再生され再び書店内に配置された。


『17歳女……171cm……59kg……88……58……90……モデル並超美形……14歳男……童貞……スキャン省略……』


 両目が光る不気味なトリのぬいぐるみは、今日も地球を守るため不審人物のスキャンを続けている。尚、特大トリの内部には非モテカクヨム作家の怨念が封印されているという噂だが、その真偽は定かではない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

萩市立地球防衛軍☆KAC2023その②【ぬいぐるみ編】 暗黒星雲 @darknebula

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ