第13話 目愛迷雷
「おい、起きるんだ!」
「朝飯だぞ!」
「起きろってば!」
泥のような眠りの底から、その声が意識を引き揚げる。身体が怠く、頭の中には砂嵐が吹き荒れている。どう考えたって寝足りない。しかし、カン!カン!カン!金属が打ち鳴らされる音が鼓膜をつんざく。
私は呻き、身体を丸める。頼むから放っておいてくれ!一人にしておいてくれ!私は絡みついてくる覚醒の手を振り払おうとする。しかし残念なことに、私を起そうとする手や声というのは、観念的な世界の問題ではない。非常にソリッドなものとして私を揺さぶり、耳から侵入し、絶対に無視させてくれない。少しずつ目が覚めて行くのを感じ、それでも心地よい眠りの中に再び潜り込もうと試みる。しかしやがて覚醒が私を陸地の上に釣り上げてしまう。
目を薄く開くと、そこにいたのは昨日の世話焼きのサメ頭の少年であった。アトピーで赤くなった皮膚、乱雑に刈り上げられてチクチクとしている髪型、薄い眉、それになによりも彼を特徴づけている茶目っ気のある目つき。
「うぅ……おはよう」
私がもごもごと言うと、彼は呆れたような目で私を見て言った。
「オッサン、あんたどんだけ朝弱いんだ。俺あんたを起こすのだけでくたびれっちまったよ」
そんなに私の寝起きが悪かったのだろうか?そうだとするなら申し訳ないとはぼんやり思うが、それよりもまだ眠りたい。
バッシュは右手にお玉を、左手にフライパンを持ち、それを打ち鳴らして隊士をを起してまわっているようだ。彼は私だけの担当という訳ではなく、ここでは全体の世話焼き役らしい。私が目覚めたのを確認すると、バッシュはせかせかと次の部屋に回っていった。
バッシュが去った後、私は突如として奇妙な感覚にとらわれた。それはぽっかりと心に穴が開いたような寂しさであった。自分は場違いで、ここに居るべきではないのだという思いが寝起きの喉の内側をチクチクと突き刺し、塩っ辛い味がして、なぜか泣きたいような気分になったのだ。それを言い表し得る六文字を思い出すのには随分時間が要ったが、つまるところ、私が感じていたのはホームシックであった。昨日のようにもし飢えや渇きといった生命に対する闘争を挑まれていたならば、こんな湿っぽいものを感じることはなかっただろう。私は寝床から自分の身体を引きずり出す。
スノウ部隊の皆は五階で円座を汲み、既に朝食を食べ始めていた。朝食は雑穀パンと、目玉焼きであった。雑穀パンは焚火の周りに並べられ、あぶり焼きされている。そこからみんな好きなものを取って食べるのだ。蜂蜜を混ぜて甘くしたものもあれば、何か緑の野菜のペーストを塗りこんであるものもある。世話焼き副隊長のバッシュが目玉焼きを焼いてくれた。ここのコロニーでは養鶏が盛んにおこなわれているらしく、いつでも新鮮な卵を食べられるらしい。パンと目玉焼きの朝食、十分に満たされた朝食だ。だが、実は私はそこにどこか何か物足りなさを感じた。(スノウ部隊には失礼かもしれないが)ここに足りないもの、それは私にとって重要なものだったはずだが、それがこのテーブルの上に乗っていないので思い出しようがない。私は何を思い出したかったのだろう?
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