第10話 陀・牝・蛇・化
その後私はシンプルな麻衣を着せられた。上下の二つのパーツと帯から成るシンプルな構造で(下はスカートではなく足を通すズボンになっている)、生地は麻ではあるが細かい繊維によって織られており通気性が担保されている一方で十分に砂粒や日光を遮ってくれる。砂漠の耐え難い暑さを耐え抜くには適した服装だ。自分のスーツと時計は狐目のグランピーに奪われた。
「俺たちの拠点に連れていけ」
さっき時計を鑑定したぼさぼさ髪の青年が指示を出すと、私と揃いの麻衣を着た少年二人が私を両脇から抱えた。私たちは一階のフロアから階段を昇ることになった。しかし三階まで昇ったところで私を抱えていた少年たちはヘロヘロになってしまい、今度は別の隊員たちに両脇から抱えられた。私は建物の五階まで運ばれる。
気づいたことがある。ここにいる隊員たちは、皆若い。ただ独り、顔の半分が麻痺していたあの老人を除いて。私は自分が場違いな感じがした。
五階まで運んでもらうと寝床に寝かされ、少年に水を含ませたガーゼで右目を拭いてもらい、眼帯を当ててもらった。右目にほとんど感覚はない。それは私の体の一部とはとても思えない。単なる分厚い肉の塊が顔の上に置かれているようにしか思えなかった。
それから私はサメ頭のような尖った髪型をした青年に身体を起された。何かをスプーンで飲ませてもらった。それから舌が痺れるほどに熱い粥であった。
「ゆっくり飲みこむんだぜ。これ、炊事処の奴らに作ってもらったんだ。あんたの体内でまだ暴れてる、烏羽玉の毒に効く薬草を煮たててある。これを飲めば、次の小便で毒は排泄される」
彼のサメ頭みたいな髪型は特徴的だ。長い間短髪で過ごしていた者の性として毛流れが直立しており、特に前髪は中央に向かって毛が集まり、そのせいで尖っているのように見える。肌は弱いと見えて、アトピー気味である。
彼は私の頭を支え、ゆっくりと口の中にそれを流し込んでいく。先ほどあの老人に無理やり飲まされたのとは違う、優しいやり方であった。これなら麻痺した喉でも十分に飲める。
その後、私は横にされてしばらく放置されたが、尿意はすぐにはやってこなかった。さっきスープを飲ませてくれた青年によると、排尿するまで私の身体は麻痺したままらしい。私が相も変わらずぐったりと横たわっていると、例の鑑定人、スノウという青年が枕もとにやってきて、あらぬ方向を見ながらぼそぼそと言った。
「僕たちはあんたを客人として迎え入れなければならない……全く以て面倒だが」
私は眼球を動かしてスノウの方を見る。初めて彼の顔が良く見えた。彼は顔色が悪く、痩せている。両目の下には隈が染みついていて、右目の下には黒子がある。その表情や言動から、彼の人間嫌いな性格がありありと滲みだしている。
「客人としての期限は一週間。あんたはその間に自分を思い出さなければならない。『花の国』に居たころの過去の自分を思い出し、自分が一人の『リュタンの戦士』たりうることを証明するんだ。」
彼はそう言ったあと、さっさと元の仕事に戻ろうと立ち上がり、去ろうとする。しかしそんな彼をサメ頭の青年が止める。
「スノウ、不親切だぜ。もう少し詳しく教えてやろうぜ。」
「面倒臭いな」
「まぁ、まぁ。俺の質問に答えて、それをこのおっさんに聞かせてあげるだけでいいからさ。なにも面倒はないよ……まず客人ってのは何だっけ?」
「『根の国』に来たばかりの奴らが、この国での役割を振られる前の暫定的な身分だ。」
「『リュタンの戦士たち』ってのは何だ?」
「『老』の下に集った俺たち、彼の光の意思を実現する戦士たちだ。皆試験を通して自分の価値を証明し、それによって各々が最も貢献できる部署に配属されてきた」
「戦士たち、というからには戦わなければならないのか?」
「その通りだ。しかし、血と肉と鉄ばかりが戦いじゃない。現に俺たちは歴史家の集まりだ。過去から有益な情報を掘り起こし、未来に向かって『老』の光の歴史を遺す、それが俺たちの戦いだ。他にも政治、宣伝、技術特化の隊、いろいろある。それぞれが何らかの技術でリュタンに貢献し、それをもって戦士に任じられている……なぁバッシュ、もういいだろ?」
「あぁ。編纂に戻っていい。ありがとう、隊長」
どうやらスノウは隊長と呼ばれているらしい。私ははっきり言って、陰気でいけ好かない印象を彼に抱いている。全く、先行きが思いやられる。
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