第5話 赤と黒

 太陽は際限ない熱量をこの砂漠の上に打ち下ろしている

 獣のすがたはいつまで経っても動かない。

 ここには大きな死に取りつかれた静寂がある。

 砂原の上を、どこまでもその静寂が駆けていく。

 獣と私が互いに見合ったまま、どれほどの時間が経ったろう?

 十秒?

 二十秒?

 いずれにしてもそれほど長い時間ではなかったように思われる

 その時、目の中の脂溶性の靄の奥で、認識が揺らいだ。

 獣のかたちはただじっとこちらを見ているだけで、威嚇する様子もない。

 私は曖昧なな中に更に微細な観察しようと、ぼやけた目を凝らす。

 呼吸の際のわずかな肩の揺れさえも観察されない。

 あれは獣ではないかもしれない、

 そうだよく考えてみれば、獲物の草食獣が滅多にいないのだから、砂漠に大型の肉食獣が住んでいるはずはない。

 私は冷静さを欠いている自分を恥じる。

 目のかゆみはますます強くなっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る