第40話 冒険者からのお悩み相談

 串焼きをやってから数日、普段の日常が戻ってきた。

 朝、俺とアイギスさんは、畑で作業をして、イリアは店番をしていた。


 しばらく作業をしていると、イリアが畑までやってきた。


「ご主人様、お客さんから相談があるそうです」


「へぇ、珍しいね。どんな人?」


「20代後半くらいで男性の冒険者の方です」


「え、イリア、その人って金髪のツンツン頭だった?」


 何か思い当たる人がいるのか、アイギスさんがイリアに質問した。


「はい、そんな感じの髪型の人ですね」


「そう……」


「アイギスさんの知り合い?」


「え? うーん、知り合いというか何というか……」


 困った様子で、うんうん唸っているアイギスさん。

 

「その人って、もしかして、アイギスさんが気になる人だったり?」


「え!? 違う違う! そうじゃないけど……」


「けど?」


「あー、うぅ、えっと、ね。この前、町で声を掛けてきた人だと思う」


「そうなんだ? あ、ナンパ、じゃ伝わらないか。うーん、あ、言い寄られた?」


「……うん」


「それなら、アイギスさんは、ここにいれば大丈夫だと思うけど」


「そう、なんだけどね? あのね、あんまりしつこいから、もう相手がいるって言っちゃったのよね」


「そうなんだ。それでも、うちまで来るって、なかなかだねぇ」


「いや、うーん……その後も相手は誰なんだぁ?ってしつこくてね。それで……そのぉ、ジョージさんって言っちゃったの」


「へ? 俺?」


「うん、それでうちまで来ちゃったのかなぁと……ごめんなさい!」


「いやいや、別にアイギスさん悪く無いから。えっと、じゃあ、もしその話だったら、お付き合いしているって感じで話を合わせればいい?」


「う、うん。お願い」


「……了解です!」


 必殺の上目遣いをここでお見舞いしてくるとはッ!

 思わずビシッと敬礼しそうになったわ。


 アイギスさんの必殺技にドキッとしながら、俺は店舗部分に向かった。

 アイギスさんも、相手から見られない位置で様子をみることにしたようだ。


 イリアを先頭に店舗まで来ると、カウンターのところに、金髪ツンツン頭の細マッチョのイケメンがいた。

 服装は冒険者風で、腰には、ロングソードを帯びている。


「お客様、ご主人様をお呼び致しました」


「おう。すまんな。アンタがジョージさんか」


「え、えぇ。自分がジョージですが、どのようなご用件で?」


 男は、俺をジッと見てくる。

 それこそ全身をじっくり見てくるものだから、鳥肌が立ってしまった。


「あ、あの、そんなに見られても困るのですが」


「え、あぁ、すまん。あんな美人が選んだ相手ってことで、しっかり見過ぎたわ」


「はぁ」


「それに、店番してる娘も美人だしよ。なぁ、ジョージさんとやら……」


 男は、タメを作り何かを言おうとしている。


 俺は、いったい何を言われるんだ?

 アイギスさんを賭けて勝負だ!とか言われるのか?


 俺が内心ドキドキしていると男が……



「頼む! 俺にモテる方法を教えてくれ!!」


 と叫ぶように頼み込まれた。


「えッ!?」


「俺も、もう良い歳なんだ! そろそろ相手を見つけたい! だからよ、必死になって、声をかけてみても、誰も振り向いてくれねぇんだ!」


「は、はぁ」


「声をかけた中で、1番美人だったあの娘の相手がジョージさんだった訳よ! だから、頼む! 俺に秘訣を教えてくれ!」


 ……何を言っているのでしょう。俺なんて、ただのアラフォーおじさんだよ?

 縁あって、一緒に住んではいるけどさ。

 秘訣も何も無いんだが……。


 その後、アイギスさんを追ってきた訳ではなかったので、隠れて見ていたアイギスさんに出てきてもらい、男性と話し合うことにした。

 アイギスさんは呆れた顔をしていたが。


 とりあえず、俺はそんなモテる訳じゃないこと、アイギスさんもしつこかったから俺の名前を出したことなどを、正直に打ち明けた。

 すると、男性は項垂れてしまった。



「そんな……俺はいったいどうすれば……」


「そこまで? うーん、イリアとアイギスさん何か知らない? 出会いの場や方法みたいな」


「あ、私は奴隷になるまで、良い相手はいませんでしたので……」


「そうだったね……ごめんね、変な事聞いちゃって」


「いえいえ! もう過去のことでございますから」


 そう言って微笑んでくれた。

 アイギスさんは空気を読んで、話題を戻してくれた。


「えっと、私もそういう相手は居た事ないけど……酒場ではよく言い寄られたわね」


「あー、出会いの場としては酒場なのかな。お客さんどうです?」


「いや、酒場でダメだったから町中で探したんだ。何をやっても上手くいかねぇもんなんだな……」


「うーん……誰かに紹介してもらったりとかは?」


「いや、そんなに仲の良い奴は、この近くにいねぇな。俺は大陸から1人で来たからよ。こっちじゃ、そこまでの奴はいねぇんだ」


「それなら大陸に帰れば良いじゃない」


 辛辣アイギスさん。


「あ、いや、そう、なんだけどよ。向こうでちょいと大きな依頼達成して大金を稼いじまってな。言い寄ってくる女は、みんな金目当てでよ……俺のことを知らない場所なら、良い人が見つかるかもと思ってな」


「うーん……なら合コンや婚活パーティーみたいなのってないのかな?」


「なんだそれ?」


「私も聞いたことがありませんね」


「私もよ」


 内容を3人に説明したが、そんなものは無いと言われた。

 なるほど、こっちにはそう言ったものがないのか。

 これは、商業ギルド案件では?

 独身で相手を探している人を集めて、参加費もらって、知り合う場を提供する感じで。

 お付き合いするか、友達から始めるのか、その辺は当人達にお任せでさ。


 よし、とりあえず商業ギルドだな。


 俺はギルドに提案するために、男性を連れて商業ギルドへ向かった。

 現場の声って大事だからね。

 受付で婚活パーティーの話をすると、個室へ通され、そこで詳しく話をすることになった。

 その後は、トントン拍子に話が進み、数日後には婚活パーティーが開催されることになった。

 募集をかけて、集まり次第開催するとのことだったが、あっという間に定員が集まったらしい。

 司会進行役は、ギルドの女性職員(サラさん)と、企画者ということで俺になった。

 日本のテレビでみた婚活番組を参考に、サラさんと一緒になって、参加者をまわり、気になる人や、趣味などをコッソリ聞き出し同じ趣味の人へ伝えたり、参加者で1人になってしまう状況を無くしたりと、なかなか大変だったが、サラさんの見事な進行やフォローのおかげでいい感じのパーティーになった。


 第一回商業ギルド主催の婚活パーティー結果。

 参加者

 男性20名

 女性20名


 お付き合い10組

 友達から5組

 残りの男女10名は、知り合えたことで縁が出来たと今後も皆んなで仲を深めていくらしい。


 各ギルドと町長は、この結果をみて、今後も定期的に開催することにしたようだ。


 イケメン金髪ツンツン頭くんも、見事お相手をみつけ、お付き合いを始めたようだ。

 それからは、たまにうちの店にやってきて、彼女へのプレゼントの相談などをしていくようになった。

 ま、その時は、ハーブティーやポーションも買ってくれるからいいんだけどね。





 後に、このユノミーの婚活パーティーは、発祥がユノミーであることから、湯呑みパーティー、転じて、茶飲みパーティーと名前を変え、全国へと広がっていった。

 そして、異性に言い寄る時の定番文句『ねぇねぇ、お茶しない?』が定着したとかしないとか……。



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