第39話 センチメンタルと娯楽と肉

 師匠達が旅立ってから数日。

 騒がしくも賑やかな日々が過ぎさり、なんとなくセンチメンタルな俺達だったが、師匠達が落ち着いて、連絡が来たら遊びに行こうと話し合い、日常に復帰した。


 さてさて、そんな日常に戻ったわけだが、この世界……暇つぶし、娯楽が少ない。

 リバーシ、トランプ、将棋、チェス、ダーツ、ビリヤードといったものは過去の勇者が教えたらしいからあるのだが。


 ま、その辺は定番だからね。

 

 しかしながら、テレビもねぇ、ラジオもねぇ、そもそも車も走ってねぇってことで、日常を過ごし『ながら』の娯楽が普及していない。


 獣人領での闘技場や、吟遊詩人なんかは、娯楽の1つなんだと思うけど、『ながら』ではないよな。


 吟遊詩人がいるなら、落語や歌舞伎、能もあってもいいと思うのだが、そういった芸能もない。


 劇は、普及しているようだが、題材は勇者の物語が主だ。


 せめて、ラジオのような形で、歌や演奏の音楽を流せればいいなぁと思い立った。

 

 思い立ったものの、電波なんて無いし、電波の作り方なんて知らない。

 この世界の魔力に期待したいものだが、過去の勇者が遠距離通信を可能としていたとしても、軍事機密扱いになっているのは間違いない。


 この件に関しては、師匠が落ち着いたら遊びに行ったついでに聞いてみようと思う。

 上手くいけば、ラジオでの音の配信や、映像の配信も出来るかもしれない。


 ということで、今は特に何か手を出すことは出来ないので、テマリを撫で回して、甘噛みされている。

 所謂、今ココってやつだね。


「テマリぃ〜、成長してるねぇ……ちょっと痛いぞー」


「グルルぅ」


 威嚇されてるような唸り声を出されたけど、尻尾はブンブンだから大丈夫……なはず。


 アイギスさんとイリアは、こんな俺とテマリのやりとりも見て、呆れたように微笑んでいるが、やっぱり賑やかな日々が急に静かになったことで、少し寂しい気持ちになっているんじゃないかと俺は愚考する。


 そこで!


 日本にいた時に、テレビか何かで知った鶏肉を食べると、幸せな気持ちになれるという情報を活かそうと思った。


 確か、親子丼が1番良いらしいみたいな情報だった気がするけど。


 そんな気がするんだけど……。

 俺は焼き鳥を食べたい!


 こんな事を考えてるなんて知れたら、頭叩かれそうだけどね。


 向こうにいる時は、炭火で牛串や豚バラ串、焼き鳥焼いて、発泡酒飲んでたなぁ。


 2人を元気付けたい!

 鶏肉には幸せな気持ちになれる。

 でも、俺が焼き鳥食べたい!……ってなかなか自分勝手な行動だな。

 

 俺はテマリに甘噛みされながら、苦笑いを浮かべた。



 そして、その日のうちに、テマリを散歩するという理由をつけて、牛肉(レッドブル)とオーク肉、鳥の魔物肉、少量のホルモン系、野菜、タレの材料や竹串を買って、帰宅し、牛肉を1口大に切り、ホルモン系も、それぞれタレを作り漬け込んだ。


 次の日になり、竹串を水につけて数時間後、ホルモン系以外を串に刺して準備完了。

 ホルモン系は、好き嫌いがあると思って、俺がひっそり網を使用し遠火でじっくり焼きながら楽しもうと思っている。


 家の裏の畑の片隅で、バーベキューセットで炭火をおこして、網を使って豚バラ(オーク肉)の串焼きを焼き始める。


 アイギスさんとイリアには、少ししたら畑の方で肉を焼くから来てくれと伝えてある。



 うーん、やはり、オーク肉は脂が滴り、火が強くなるな。


 俺は、頻繁に裏返し焦げ過ぎないように肉を焼く。


 良い感じに焼けたところで、塩をふり、試食。


 

 うまっ!


 やっぱオーク肉って美味いんだな!

 俺は、氷魔法で冷やしておいたエールを一口飲む。

 くぅ〜美味い!

 口の中の脂をサッパリと押し流すエール。

 何本でも食べれそうな気になるな!


 オーク肉の串焼きを1本食べ終わる頃に、アイギスさんとイリア、テマリがやってきた。


「美味しそうね!」


「そうでございますね!」


「わん!」


「うん! めっちゃ美味い! ちょっと待ってね!」


 俺は、オーク肉の串を焼きながら、2人に冷えたエールを渡し乾杯をした。


 焼き上がった串に、塩をふり、2人とテマリに渡す。


 2人は、ふぅふぅと息を吹きかけ、串焼きを頬張る。

 テマリには、俺がフーフーしてから串から外してあげた。


 2人とも。『うーんッ!!』と唸りながらエールを飲んだ。

 その後の笑顔を見れば、美味しいかどうかなんて聞く必要がないね。

 テマリも、ハグハグ食べながら尻尾をブンブンしていた。


 その後、鳥肉を焼いた時。

 脂が炭火に落ちて、ジュッと音がして香りが広がる時なんか、2人は目を閉じて匂いを吸い込み、一口エールを飲んでいたからね。

 テマリは、早く欲しいと催促するように、俺の脚に両手をついて、舌を出しながらハッハッ言っていた。


 分かるよぉ!

 この香りだけでも飲めちゃうよねぇ!

 早く食べたいよねぇ!

 でも、まだなんだよぉ!


 そう口にしながら俺も一口飲んだ。


 肉が焼き上がり、脂がフツフツとしているところに、塩をふって、2人に渡す。

 フーフーと息を吹きかけていても、口に入れるとハフハフしちゃうよね。

 そのままエール飲むのも分かるわぁ!


 2人とテマリも、美味しそうに食べてくれるから、俺も焼きがいがあるな。


 そして、タレに漬け込んだ牛串とホルモン系も、2人とテマリは美味しそうに食べてくれた。

 この日、小さい樽で買ったエールは空になった。

 小さいと言っても何リットルもあったんだけどね。


 2人の笑顔と可愛いテマリが見れたことで、俺も元気出た。




 こうして、寝る間際に、あれ?俺の方が元気もらってない?と思いながら意識が夢の世界へと旅立つ俺だった。

 


 

 

 


 

 



 






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