第38話 お師匠様御一行
緩やかな日常を過ごしていると、商業ギルドから手紙を渡された。
手紙は師匠からで、ユノミーに着いたので数日後には、俺の店を訪ねてくるというものだった。
どうやら、無事にこっちまでこれたようだな。
さぁ、おもてなしの準備だ!
俺は、手紙の差し出し日から来訪日を予想して、アイギスさんとイリアに師匠達が来ることを伝え、食材や客間と空き部屋の掃除、店の料理や家具の手配・設置などを済ませた。
来訪予想日。
店はお休みにして、畑の手入れ、錬金素材の採取をしていると、イリアから来客を告げられた。
店舗部分に向かうと、艶のある綺麗な銀髪ロングになったリゼ師匠と、赤髪の姉妹がいた。
姉はエスちゃん、鑑定のスキル持ち。
妹はメイちゃん、魔力向上のスキル持ち。
2人とも少し髪が伸びて、ガリガリだったのに、だいぶ健康的になってきたように見える。
「ようこそ! みんなお久しぶりです! 無事にこちらに着けて良かったです」
「久しぶりだね! お前さんも元気そうで何よりだよ!」
「お久しぶりですジョージさん! 立派なお店ですね!」
「お久しぶりです。お姉ちゃんの言う通り凄いお店で、しかもお嫁さんが2人も」
「ん? メイちゃんお嫁さんはいないよ?」
「なんだいお前さん。こんな美人2人を前に、手を出してないのかい?」
「師匠……そんな関係にはなってないですから! こちらのアイギスさんは、ここまで護衛してくれた人で、今ではこの店の警備や町の外の素材収集をお願いしています。そして、こちらのイリアは、獣人領で買って家事などをお願いしています」
「買ったって春を?」
「し、師匠! 奴隷だったところを買いました!」
「ハッハッハ! 分かっているさね! しかし、お前さんと丁度いい年頃じゃないのかい?」
「ま、まぁ、それはそうかもしれませんが……今のところ、店番と家の事をお願いしていますね。立ち位置としてはメイドさんが近い感じですね」
「へぇ……そっちのお嬢ちゃんはまだしも、こっちはまんざらでもなさそうだけどね」
イリアを見ると、俯き顔を赤くして、尻尾が大きく揺れていた。
アイギスさんは、苦笑いしていた。
「お姉ちゃん、こう言うのってなんて言うんだっけ?」
「うーん、確か……ヘタレじゃなかったかな?」
こっそり話している姉妹よ。
聞こえているよー。
ほら、師匠とアイギスさんが、笑い堪えてるみたいになってるからね。
「ま、まぁ長旅でお疲れでしょう! とりあえず部屋と風呂を準備してありますので、ゆっくりしてください。その後、美味しい料理揃えてありますので」
「至れり尽くせりだねぇ。じゃあ、そうさせてもらうさね」
「「ありがとうございます!」」
「わん!」
「あ、そうそう、この子が従魔のテマリって言います」
「「かわいい!」」
「へぇ、ウルフの子供かい? テイムのスキルなんて良く手に入れたね」
「まぁ、そこは神様の加護のおかげと、俺の体質というかのアレです」
「あぁ、そういうことかい。それにしても可愛いじゃないかい」
「えぇ! うちのアイドル……看板娘ですからね!」
こうして、こちらの紹介なども終わり、師匠達を部屋に案内して、しばらく後に夕食となった。
ダイニングキッチンにテーブルと椅子を増やして、みんなで食事が出来るようにしてある。
並べられた料理を見た姉妹は、目をキラキラさせて、揃って『わぁぁ』と声をあげていた。
「お前さん、太っ腹だねぇ。酒もあるじゃないか」
「もちろんですよ! 師匠との約束でしたからね!」
「律儀だねぇ。じゃ、ありがたく頂戴するよ」
「お酒は何にします? エール、ワイン、ウイスキー、ハイボールがありますけど」
「ならワインかね」
「了解です。エスちゃんメイちゃんは、果物のジュースでいいかな?」
「「はい!」」
そして食事会が始まった。
今日は、お店からテイクアウトしてきた鰻丼、俺が作ったお寿司、山菜や魚の天麩羅、ボアの肉を使った豚汁、デザートにカラメルプリンを準備しておいた。
師匠達は、イールレイクを通らないルートで商業の国まで来たようだ。
魚の刺身は、商業の国で食べたようで、寿司にも抵抗はなかった。
ただメイちゃんだけは、ワサビがダメだったみたい。
食事を楽しみながら、師匠達の旅の話を聞いた。
師匠達の旅は、ほとんどを乗合馬車を使ったようだ。
獣人領に入る頃には、勇者と大魔道士が行方不明になり、聖女が魔族領へ嫁ぐという情報を手に入れていたようで、そこからは、色々な町や都を観光しながら、こっちまで来たという。
商業の国の港町で、ゲテモノ食わされたという話になり、詳しくきいてみると、どうやら俺が宿の女将さんに教えたタコ料理のことだった。
見た目さえ気にしなければ、美味しかったと師匠達も言っていた。
デザートのプリンは、みんなに好評だった。
こうして、みんなと楽しく話をしながら食事をして、ゆったりした時間を過ごした。
次の日からは、畑を案内して、錬金術の素材についての話をしたり、馬のマロンを紹介したり、町をみんなで散策したりと、師匠達との色々は新鮮に感じた。
アイギスさんとイリアも、師匠達と仲良くなっていった。
師匠達と過ごす時間は、あっという間に数日が過ぎた。
そして、師匠と2人で晩酌をしていると、師匠が話し出した。
「この町も十分楽しませてもらったし、そろそろお暇するかね」
「師匠達は、ここに住んでもらっても良いんですよ? まだまだ教えてもらってないこともありますし」
「まぁ、それも良いだけどね。2人の錬金術師がいるには、この町は小さいさね。だから、あたしは、ヒノモトへ続く港町にでも店を構えるよ」
「そうですか……ここからだと半日くらいでしたっけ?」
「ま、そんなところじゃないかね。向こうに素材があるか分からないから、お前さんからの素材に頼らせてもらうかもね」
「えぇ、必要な時は、いつでも声をかけてください!」
「はは、頼もしくなったもんだねぇ。ま、商業ギルドを通じて情報交換はしていくつもりさね。作りたい物で行き詰まったら連絡してきな。あたしが知っていたら、手がかりになることくらい教えてあげるよ」
「そこはレシピを教えてくれても良いんですよ?」
「それじゃ、お前さんが成長しないじゃないかい。緊急じゃなければ、色々考え、試して、学んでいくのが錬金術師さね」
「錬金術師って、そういうもんなんですね」
「あぁ、そういうもんさね。それにあたしは、お前さんのお師匠様だからね!」
そう言って、師匠はウインクした。
「師匠……可愛いことも出来るんですね! イタッ」
「馬鹿言ってんじゃないよッ! まったく」
はたかれた頭をあげれば、師匠がグッとワインを飲むところだった。
綺麗な銀髪の隙間から、普段は隠れていた少し長い耳が、赤くなっているのが見えた。
こうして、数日後に師匠達は旅立っていった。
お別れの時、姉妹は泣いてしまい、アイギスさんとイリアも瞳をウルウルさせていた。
師匠達には、いつでも遊びに来てください、落ち着いたら手紙をください、俺たちも遊びに行かせてもらいますねと伝え、3人を見送った。
姉妹は、こちらが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
俺達も手を振りかえし、テマリは珍しく遠吠えをした。
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