第19話 獣人領、大森林近くの町へ

 結局、次の日もウナギを手に入れて、アイギスさんとテマリに振る舞うことになった。


 アイギスさん曰く、これは一度食べたら神に逆らっても食べたくなる食べ物だってさ。

 まぁ分かるけどね。

 地球でも、完全養殖出来なくて、天然物は獲れる量が減るくらいまで食べてた訳だし。


 アイギスさんもテマリもまた食べたい様子だったが、たぶん東の島国にもあると思うという話をすると、なら楽しみにしてると言われた。


 次の日にはイールレイク西の町を出発した。

 商業の国への最短ルートを進み、数日が経った。

 俺達は大森林が横目に見える街道を進んでいた。

 そして漸く街道の先に、町が見えた。



 まだ遠目にだが、なんだか町の様子がおかしい。

 町の防壁であろう石壁が所々壊され、町の中からは煙が上がっているのが見えた。

 

「あれは……大森林から魔物ッ!? これはスタンピードよ!」


「えッ!! ど、どうすればいい!?」


「ここじゃ囲まれちゃうわ! 急いで町まで進めて!」


「わ、わかった!」


 俺は急いで馬車を進ませた。

 ガタガタ揺れたり跳ねたりでケツが痛いが今は構っていられない。


 町の中まで馬車を進ませると、あちこちから怒号と戦闘音が聞こえてきた。

 入り口から、町の中央まで一直線に道があり、町の中央と思われる場所に簡易なバリケードが作られており、武器を構える大人達がバリケードの外に、中には女性や子供、老人達が見えた。


 バリケードの前に武器を構えていた屈強な獣人の男性が俺達に気づいた。


「おーい! こっちだ! そこから入れ!!」


 そう言って、バリケードの前にいる人達の隙間を指差した。


「分かりました!!」


 そう俺は叫んで、馬車を進ませ、なんとかバリケードの中へ入ることが出来た。


「ジョージさん、私も戦闘に加わるから、気をつけて!」


「わ、わかった! アイギスさんも気をつけて!」


「わん!」


 アイギスさんは、テマリを撫でて、先程声を掛けてくれた獣人のもとへ走っていった。

 

 俺にもポーションが作れると思い、マジックポーチを身に付け、テマリを連れて、怯えた表情をしている人達のもとへ向かった。


「みなさん、自分は旅の錬金術師です。お怪我をされた方はいませんか?」


「ッ!! こっちじゃ! こっちに負傷者がおるんじゃ!」


 獣人の老人が負傷者のもとへ案内してくれた。

 そこには、30人程の負傷者がいた。

 中には欠損している重症者もいるようだ。


「これは酷い……。薬草などの素材はありませんか?」


「そこにある木箱の薬草が全てじゃ……」


 老人の指差す先には、いくつもの木箱が空になっていたが、2つの木箱はまだ手付かずの状態で残っていた。


「分かりました。出来る限りのことをしてみます。数本のポーションが手持ちにありますので、重症者に飲ませてあげてください」

  

「……重症者は助からんッ。まだ、戦える者に、ポーションを」


 この老人にとっては苦渋の決断だったのだろう。

 とても辛そうな顔をして、ギュッと拳を握りしめている。


「大丈夫です。ここは錬金術師を信じてください。では、お願いします!」


 俺は、手持ちのポーションを老人に渡し、ポーションの作成に入った。

 背後では、老人が怪我人の手当てをしている人に声をかけ、重症者へポーションを使用するよう指示を出していた。 


 マジックポーチから魔力茸の原木やポーション作成に必要な物を取り出す。

 まずは、ポーションからだな。

 木箱から薬草を取り出し、乾燥をかけて、鍋に水を生成し、錬金術を発動させる。

 2本のポーションが出来上がり、そのうちの1本を原木に使用して魔力茸を育てた。

 そして、それを材料に加え、ハイポーションの錠剤を作成し木皿に入れていく。

 錠剤が20個程になったところで、近くを通った女性に声をかける。


「すみません! この錠剤を1つずつ重症者達に飲ませてください!」


「は、はい!」


 これで、重症者はいいだろう。

 次は、ポーションを錬金していく。

 木箱1つが空になったところで一旦やめる。

 30本以上は作成出来た。

  

 出来たポーションは、近くにいた人に声をかけて、負傷者へ持って行ってもらった。


 先程の老人が目を丸くしていたので声をかける。


「どうでしょうか? 薬は足りましたかね?」


「そうじゃの……今ここにいる負傷者に関しては大丈夫じゃ。じゃが、まだ戦っている者達の分が……」


「確かにそうですね。即効性はありませんが、錠剤なら数が作れますので、最後の木箱は全て錠剤に使ってしまってよろしいですか?」


「もちろんじゃ。すまんが頼む!」


 そう言って老人は深く頭をさげた。


「承知しました!」


 栽培用のポーションを確保しつつ魔力茸をドンドン栽培して、最後の木箱が空になるまで錠剤を作成した。




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