第18話 イールレイク
3日後、俺達はイールレイクを囲む様に点在している町の1つに辿り着いた。
ざっくりだが、イールレイクの東西南北に町があるらしい。
俺達は、その中の西の町に着き、湖を眺めている。
「すげー。対岸が見えない」
「言ったでしょ? 海のような湖って」
「あぁ。水際も波があるし。琵琶湖よりもデカいかもな」
水際は砂浜になっている。
湖には、何隻かの小舟が出ていて、魚を獲っているようだ。
「ビワコって?」
「俺がいた世界のデッカい湖の名前だよ」
「へぇ、ジョージさんの世界にもあるんだ」
「色んな魚や貝もあったような気がするから、ここも色々ありそうで楽しみだよ」
「ジョージさんは食べるのが好きだよね」
「人生の楽しみの一つではあるね」
湖を眺めた後は、道行く人に従魔オッケーのオススメ食事処を聞いて、昼食をとることにした。
お店のメニューを見ると、日替わり魚の塩焼き定食、日替わり魚の煮込み定食、オーク肉定食だった。すべてのメニューに貝の味噌汁がついてくるようだ。
俺とアイギスさんは魚の塩焼き定食を頼んだ。
テマリ用にも、魚の塩焼きをお願いしたら、快諾してくれた。
そして、出てきた一人分の定食は、ご飯と味噌汁、魚の塩焼き2尾だった。
テマリにも2尾の塩焼きだった。
魚はマスっぽいな。しかし、めっちゃ和だ。
アイギスさんもテマリも、美味しそうに食べていた。
アイギスさん箸の使い方上手いね。
テマリは頭も骨も全部食べちゃってるね。
俺も久しぶりの和食を美味しくいただいた。
その後は、しばらくぶらつきお店を見て回った。
釣具屋があったので、餌以外の一式を購入した。
明日は、釣りをしよう。
そうアイギスさんに話すと、明日はテマリを連れて町とその周辺を探索するようだ。
この辺の魔物は、オークが出るらしい。
そうこうしていると夕方になったので、宿をとり、夕食を済ませ就寝した。
夕食後テマリはアイギスさんに連れて行かれた。
俺の従魔……。
次の日、朝食を済ませて別行動へ。
貸し船もあるようだが、釣り人用の桟橋もあったので、そっちで釣ることにした。
餌も桟橋の近くで売っていることは昨日釣具屋の店員さんに聞いてたからね。
餌は、ミミズ?だった。
桟橋では、一定間隔で釣りをする人達がいたので、俺もそれに習い、間隔をあけて釣りを開始した。
間隔はあいているけど、普通に話声は聞こえるので、隣にいたおじさんに声をかけてみた。
「今日は、どんな感じです? 釣れました?」
「ん? おう。マスとフナが少しだな」
「おぉ、良いですね!」
「まずまずだな。ま、今日はまだイールが釣れてないだけ良いがな」
「イールですか?」
「なんだ知らないのか? この湖の由来になった蛇みたいな魚だよ」
「ここでは食べないんですか?」
「食べないな。なんでも昔の勇者様が食べると水神様の祟りがあるって言ってたらしくてな。まぁ見た目も蛇みたいだし、イールレイクに住む人達は基本食べないんだ」
「へぇ。もし釣れてしまったらどうするんです?」
「そりゃ、逃すさ。んで、その日は釣りをやめるんだ。なんでも触らぬ神に祟りなしって言うらしいぜ」
「それも勇者様が?」
「あぁ。言い伝えではな」
うーん勇者って地球の人だよな?
召喚されたのが昔の日本人だったりするのか?
よくわからんな。
俺が考え事をしていると、オジサンが指をさして、あっちでイールが釣れたらしいぜと教えてくれた。
せっかくなので俺もイールを見てみることにした。
イールを釣った人が、今日はついてないぜと言いながら針を外していた。
その蛇のような魚は、どうみてもウナギだった。
釣った人は、ウナギをリリースして、釣りをやめて帰っていった。
ウナギを食べない?
ってか、逆に名物になっても良いくらいの魚なのにな。
勇者が、乱獲して絶滅することでも考えたのかな。
オジサンのもとに戻り、勇者がいた時代の話をもう少し聞いてみた。
その中で、水神様に祈りを捧げる儀式を勇者が秘密裏に行っていたらしい。
その時は、ウナギを大量に獲って勇者に渡していたとのこと。
勇者がいなくなって、儀式の仕方が分からなくなったことから、儀式は行われなくなって、祟りの話だけが残っているようだ。
どうも勇者が独り占めしていたような気がするね。
タダでウナギもらって美味しく食べていたんだろうな。
この町には、ご飯も味噌汁も煮付けもあるからね。
ここで蒲焼に必要な調味料やご飯とかを手に入れてたんだろうな。
オジサンの話を聞いて、考え事をしていると、オジサンが1メートルを超えるウナギを釣り上げた。
「あちゃー。今日は終いだな」
「オジサン、そのウナ、じゃないイール俺に譲って貰えませんか?」
「え! うーん……まぁ俺はそんな信心深くないからいいけどよ」
「ありがとうございます。じゃあ、せめてコレを。もし心配なら神殿に寄付してください」
そう言って、銀貨を5枚渡した。
「っそうかい? 悪いねぇ。じゃあ、ありがたく」
「いえいえ、こちらこそ」
オジサンはニコニコしながら、釣りをやめて帰っていった。
まさか、こんなデッカいウナギが手に入るとは!
調味料もご飯もあるし、鰻丼だな!
俺も釣りをやめて、調味料とご飯を炊くために必要なものを購入して、人気がない湖のほとりを探して調理を開始した。
どうやら料理スキルが手に入っていたようで、思いの外、簡単に捌くことが出来た。
ま、浄化をかけたらヌメリが無くなって捌きやすくなったんだけどね。
火をおこして、飯盒のようなものでご飯を炊く。
その横で、高さを調整して、串にさしたウナギを遠火で焼く。
ある程度焼けてきたら、醤油などの調味料を混ぜたタレを塗って、焼くを繰り返す。
ウナギの脂とタレの良い匂いがしてくる。
ご飯も炊けたところで、木の器にご飯を盛り付けて、ウナギの蒲焼をのせタレを少しかける。
出来た!
鰻丼!
めっちゃ久しぶりだ。
一口食べて、思わず美味いぞー!と叫びそうになった。
勇者が隠したかった理由が分かったね。
日本で食べたウナギより美味いんだもの。
東の島国にもウナギがいることに期待だな。
その後、宿でアイギスさんとテマリと合流したが、アイギスさんからは何だか美味しそうな匂いがすると言われ、テマリはヨダレを垂らしながら、しばらく匂いを嗅がれた。
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