第15話 子狼?
次の日からしばらくは、何事もなく順調に旅を続けた。
俺達は、もう少しすれば獣人領という場所まできた。
ここは、森の近くを街道が通っていて、魔物や賊に警戒が必要な場所だ。
しばらく警戒しながら進んでいると、突然アイギスさんが馬車を停めろと言った。
アイギスさんは、御者台から飛び降りて、盾と剣を構えた。
「ジョージさん、馬車の中へ!」
「は、はい!」
俺は、幌馬車の中へ引っ込んだ。
耳を澄ますと、森からガサガサという音と、ギャギャギャっと騒ぐ声が聞こえた。
恐怖はもちろんあるが、好奇心を抑えきれず、十分に気をつけながら、幌馬車の中から覗いてみた。
すると、丁度森から、白い小さな影が飛び出し、それを追いかけるように緑の小さい人型が3体飛び出してきた。
白い小さな影の正体は、ここからじゃ見えなくて分からないが、腰布だけの緑の醜悪な顔をした小人は見えた。
あれがゴブリンか。
3体のゴブリンは、森から飛び出したところに、アイギスさんと馬車があることに気づいたのか、白い小さな影を追うのをやめて、武器を構えた。
3体のうち2体は木の棒を持ち、1体はナイフのような物を持っている。
アイギスさんは、1人で大丈夫なのか心配になった。
しかし、それは杞憂だった。
俺のレベルが低いせいか、それともアイギスさんが強すぎるのか分からないが、馬車の横にいたアイギスさんが消えた、と思った次の瞬間にはギャっと声が聞こえ、ゴブリンがいた場所に目を向けると、3体のゴブリンは地面に横たわっていた。
「ア、アイギスさん! 大丈夫ですか!?」
「あぁ! もう終わったぞ! 討伐部位と魔石だけ回収するから待っていてくれ!」
「分かりましたー!」
こっそり覗いていると、どうやらゴブリンの左耳を切り落としているようだ。
その後、心臓あたりから小さな魔石を回収していた。
うーん、グロい。俺には出来そうにないな。
しばらく待っているとアイギスさんが戻ってきた。
両手が汚れていたので、浄化をかけてあげると感謝された。
そのまま御者台に乗らずにいたので、どうしたのかと思っているとアイギスさんが困ったような顔をした。
「どうしたんですか?」
「あ、あぁ、それがな、さっきのゴブリンが追いかけていたモノがいるんだが……」
「あ! 白い小さなやつですよね? それがどうかしたんですか?」
「それが、そこにいるんだが、どうしたものかと思ってな」
「どこです?」
アイギスさんが指をさしたので、その場所を見てみると、あちこちが赤く染まっている白い子犬?が横たわっていた。
「子犬?」
「いや、たぶんウルフ系の魔物だろう」
「魔物ですか……でも、可愛い感じで、なんか可哀想ですね」
「そうなのだ! だからどうしたものかと、私はテイムのスキルを持っていないからな……」
「小さいうちから育てたら懐いてくれたりしませんかね?」
「うーむ、聞いたことがあるくらいだが……」
「聞いたことがあるなら試してみましょうか。ポーションもありますし、子狼なら自分達が殺される前に対処も出来ませんかね?」
「そうだな。対処は問題なく出来る。ジョージさんすまないが頼む!」
「いえいえ、自分も動物好きですからね。懐いてくれるのを期待しましょ!」
俺は、御者台から降りて、子狼のもとへ行き、浄化をかけてから、ポーションをかけてあげた。
傷から血が出ていないことを確認してから、ポーションに濡れたところが乾くようにイメージしながら、乾燥を唱え、乾かした。
傷もなくなり、ふわふわな白い塊となった子狼は、眠ったままだった。
アイギスさんが、布を持ってきて、その中に入れ、そっと抱き上げた。
いつも凛としているアイギスさんの顔が蕩けているように見えるのは気のせいだろうか。
そのまま俺達は、御者台に乗り、馬車を進めた。
今日は、野営になる予定だ。
夕方には、街道に設けられた野営場所に着いたので、野営の準備を始めた。
俺達の他にも2台の馬車があり、護衛もいるようだ。
アイギスさんは、その護衛に話をしに行った。
寝ている間の警戒について話をしてくるらしい。
その間に、石と薪になるものを拾い集めておいた。
石は、焚き火跡がいくつもあったので、そこから集めた。
俺は、石で囲いを作り、火をおこし、その上に小さな鍋を置いて、スープを作り始めた。
出汁と干し肉と、乾燥させた根野菜のスープだ。
今回は、子狼用に干し肉を大きいまま追加で入れてある。
しばらくすると、アイギスさんが戻ってきた。
アイギスさんは、馬車の横に簡易テントを張り、そこで仮眠するそうだ。
テントを張り終わったアイギスさんは、馬車の中に寝かしていた子狼を抱き抱えてきた。
俺は、空の木箱をいくつか馬車の中に乗せていたので、それを焚き火の近くに持ってきて椅子がわりにしていた。
そこのアイギスさんも座り、寝たままの子狼を膝に乗せたまま夕食のパンとスープを食べた。
食べていると、子狼が目を覚ました。
だが、まだ弱っているようで、鳴いたりしなかった。
俺は、子狼用に柔らかくした干し肉を口元に持っていてあげると、クンクンと匂いを嗅いでから、食べてくれた。
食べてくれて良かった。
これなら、元気になってくれるだろうと、アイギスさんを見ると、子狼が干し肉をハグハグしている様子を蕩けた顔をしながら見つめていた。
「アイギスさんもあげてみますか?」
俺は、柔らかくなった干し肉を差し出す。
「うん! あげる〜♪」
誰? って思ってしまうほどのウキウキ声が返ってきた。
アイギスさんを見ると、ニッコニコな笑顔の年相応の可愛い女の子になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます