第12話 アイギス

 俺達は、冒険者ギルドの受付の人が教えてくれたお店へと入った。


 全室個室ということで、落ち着いてアイギスさんと話が出来そうだ。


 こっそりお店の人に、おいくらくらいあれば大丈夫か聞いておいた。

 銀貨で10枚もあれば大丈夫とのことなので、ホッと胸を撫で下ろした。


 個室まで案内されて、俺は席へと着いた。

 アイギスさんは、フルプレートアーマーだったので、そのまま案内され鎧を外しに行った。

 戻ってきたアイギスさんは、綺麗な白いストレートロングの髪、紺色の瞳、白いワンピース姿だった。スタイルは、とても良い。

 腰にはベルトをつけ、そこに皮袋をつけていた。


「本当に良いのだろうか。こんな高いお店で」


「えぇ。大丈夫ですよ。ささ、立ったままではお話も出来ませんし、どうぞ」


「あ、ああ。すまない」


「では、改めまして、自分は新人錬金術師のジョージと言います」


「あぁ、私は、アイギスだ」


「自分は、これから東の島国まで旅をしようと思っています。そこで、護衛を探していたんです」


「それで私に声を掛けたんだな」


「はい。アイギスさんは田舎で農業でもとお話をされていましたので、もし東の島国まで行かれるようでしたら、ついでに護衛を依頼出来ればと」


「なるほどな……どこへ向かうかまでは決めていなかったな。東か……」


「もし途中で良い場所があればそこまででも構いませんよ」


「それは私が優遇され過ぎているな」


「まぁ自分もダメもとで伺っていますからね。実は、東の島国に行くルートも知らないんです。あのこの国?大陸?世界? の話も聞いて良いですか?」


「あぁ。ざっくり大陸の話をすると、中央には大森林。西は小さいこの国。北は魔族領。南は獣人領。東は他国との貿易で大きくなった商業の国。そこから海を渡り東の島国となっているな」


「そうなんですね。やはりこの国は戦争を?」


「まぁそうだな。負け続けて領地が減っているがな。南の獣人領とは停戦してしばらく経つが、魔族領とは今も戦争中だろうな」


「そうか、それで……。えっと、そうすると獣人領から商業の国に行って、東の島国に行くのが安全そうですね」


「そうだな。この国には、もう未来はないだろうからな」


「いやどうでしょう。ここだけの話なんですがね、どうやら勇者を召喚したようですよ?」


「なんだと! それは本当か!?」


「お、落ち着いてください。ここだけの話って言ったじゃないですか」


「そ、そうだったな。すまない」


「いえいえ。やはり勇者とはそこまで?」


「それはそうだろう。過去の勇者の話はジョージさんも聞いたことくらいはあるだろ?」


「あー、自分は田舎から出てきたものでして、勇者の話も錬金術の師匠から少しだけ聞いたくらいなんです」


「そうだったのか。ならば知っておいた方がいいだろう。過去、勇者を召喚した国は、一時的にこの大陸を支配するほどの力を得るんだ」


「勇者ってそれほどなんですね……一時的にというのは?」


「それは、例え大陸を支配したとしても、大陸中が荒れるんだよ。勇者のせいで」


「勇者のせいですか?」


「あぁ。勇者の中には聡明なお方もいらっしゃるが、ほとんどの場合は、力で支配し自分の思い通りのルールを作り、強制する者ばかりなんだ」


「そうなんですね……」


「いやしかし、このタイミングで話が聞けたのは、むしろ良かったかもしれない」


「そうなんですか?」


「あぁ、過去に召喚された勇者達は、必ず東の島国を保護し優遇するんだ」


「なるほど……」


 過去の召喚された人達もみんな日本人なのかもな。

 米や調味料を安定供給させたいんだろうな。


「なら、東の島国に行けば安全ですね!」


「あぁそういうことだ。なので、私はジョージさんの依頼を受けようと思う」


「お! ありがとうございます! 依頼料はどのくらいが相場なんでしょう?」


「そうだな……正直、私がどれほど護衛に向いているか分からないんだ」


「今まで護衛の経験はありませんか?」


「いや、何度かパーティーで護衛依頼を受けたことはある。だが私1人でどこまで出来るか……」


「なるほど。では、ひと月様子をみて金額は相談しましょうか。宿代や食事代は、こちらが持ちますので」


「いいのか? では、それでお願いする」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 俺達は、握手をし、料理を頼んだ。

 良い値段がするだけはある。

 コース料理だったが、どの料理も、美味しかった。


 俺はアイギスさんに出発の日時を伝え、お互いそれまでに準備をすることにした。

 準備のために必要だろうと、銀貨10枚を渡しておいた。

 俺じゃ野営の知識もないし、なにが必要なのか分からないからね。

 一応師匠から旅に必要なものは聞いたから、それは購入するけど。

 あとは御者がいないから、商業ギルドで馬車の練習させてもらえるか確認しなきゃな。


 俺は、アイギスさんと別れて師匠の家へと帰宅した。


 師匠達にも、勇者関連の話をしておいた。

 そのうち勇者お披露目の時が来るだろうから、その頃に師匠達も東に向かって旅立つようだ。

 ま、師匠達には魔力茸の栽培も優秀なエスちゃん、メイちゃんもいるから、優秀な護衛を雇って安全に旅してもらいたいところだね。


 よし、あとは出発までに色々準備しなきゃな。

 師匠から教えてもらったレシピも羊皮紙に書いたりとなかなか忙しい日々になりそうだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る