第11話 可愛い奴隷ちゃんなんて!!

 次の日には師匠が寝袋を買ってくれた。

 それからの日々は、特になにかある訳でもなく、ポーションを作ったり、薬草などを採取したり、魔力茸の栽培方法を姉妹に教えたりと、平凡な日常を送っていた。

 そして、月末のオークションが終わった。

 いつものようにギルドへ納品に来たタイミングで、俺にも声がかかり、そのお金を受け取ることになった。


 千円札が、なんと金貨10枚という高額なものになったとギルドの職員に言われた。

 ここからギルドの取り分20%を引かれて、金貨8枚が俺のものとなった。

 まだ、ギルドへ登録していなかったので、師匠の推薦と合わせて、晴れて俺も錬金術師として登録出来た。

 師匠に感謝を告げ、ギルドの職員に、幌馬車と馬の購入について話を聞いた。

 新品を購入し、なおかつ良い馬もつけると、金貨5枚は必要だと言われた。

 それでも金貨3枚は残るので、それで購入をお願いすると、来週には手配してくれると言うことだった。

 それまでに、諸々の準備を済ませれば、大丈夫と思い、師匠にもその事を伝えた。


 それからの日々は、旅立つ準備と、師匠から様々なレシピを教えてもらいながらの忙しい日々となった。


 その忙しい日々のなかで、師匠やギルドの職員からも護衛はどうするのかという事を聞かれた。

 俺は、悩んだ末に、師匠に奴隷はいるのかという質問をすると、東区に奴隷商館があるという事を教えてくれた。

 そして、俺は奴隷商館へとウキウキで向かった訳だが……。


 結論から言うと、可愛い奴隷ちゃんなんていなかった。


 そうだよね!

 可愛かったら貰い手も、いっぱいあるよね!

 可愛くない女の子というと失礼だけど、そんな子もいなかった。

 そりゃ女の子ってだけで、この世界色々需要あるもんね!

 むっさいオジサンや、食い詰めてガリガリのお爺さんや、どうみても護衛に向かない危なそうな人しかいなかった。

 こんなん戦争の捨て駒にしか使えないんじゃない!? って思わず口走ったよね。

 そしたら、奴隷商の人が、そうですよ? ってキョトンとした顔で言いましたよ。

 異世界奴隷ちゃんって可愛いがテンプレじゃないの!? って叫んだ俺は悪くない。

 まぁ、奴隷商の人のさらにキョトンとした顔を見て、俺は帰宅しました。


 帰宅して、師匠に、そのことを話したら、当たり前だろ! って言われて爆笑された。

 ひとしきり笑った後に、金があるなら冒険者ギルドへ行って護衛依頼出せばいいじゃないかと、ありがたいお言葉を頂いたので、次の日に冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドに入ると、ここはテンプレのように酒場が併設されていて、昼間から酒を飲む人達も結構いた。

 しかし、ここではテンプレのように絡んでくる人はおらず、俺のことはチラ見された程度だった。


 俺は、受付へと向かい、護衛依頼の手続きをしていたが、ここでテンプレが発生した。



「アイギス、お前は今日で解雇する」


「え?」


「え? じゃねぇよ! お前はこのパーティーに何の貢献もしてねぇじゃねーか!」


「そうね。私が魔法を撃とうとすると邪魔するし」


「あーわかる! あたしも弓を撃とうとして何度も射線に出てきたもん」


「なぁアイギスわかったか? 俺達の邪魔になってるんだよ。だからお前は今日で解雇だ」


「ま、待ってくれ! 私はパーティーの盾役としての責任を果たしていただけだ!」


「はぁ……盾役だったら攻撃の邪魔していいのかよ? その邪魔がなければもっと効率良く魔物が狩れてるんだよ! なぁわかってくれよ」


「くっ……わかった」


「やったねリーダー!」


「はは! そうだな! ま、このままアイギスを解雇すると俺達のパーティーが何言われるかわからねぇから、多少の金は渡してやるよ」


「わぁ! リーダー優しいんだっ! アイギスちゃんお礼言いなよ?」


「……世話に、なった、感謝する……」


「アハハッじゃあ元気でねぇー」

「別のパーティーでも邪魔にならないようにね!」

「じゃぁな! アイギス!」


 そう言って笑い身を寄ながらギルドを出ていく男と女2人。

 俯いて、お金の入った皮袋を握りしめるアイギスと呼ばれていた女性。


 俺は、しばらく呆気に取られていた。

 盾役がヘイトのコントロールしてただけじゃん。

 なんでそんな優秀な人を解雇するのか訳がわからなかった。

 併設された酒場からは、嘲笑。

 え? ここには馬鹿しかいないの? って小声で呟いてしまった。


「依頼人さん。あまりそう言わないでください。ここで飲んでいる人は、その、なんと言うか、あまり優秀とは言えない人達なんです。それに今出て行った人達は、そのぉ、出来てるんです。アイギスさんは断ったみたいで……たぶんそのせいかと」


 そう受付の人が小さな声で教えてくれた。

 なるほどね。自分の女にならないから、難癖つけて解雇ってとこか。


 俺と受付の人が、お互い見つめ合って頷いていると、アイギスさんが隣の受付へとやってきた。


「すまない。パーティーからの脱退の手続きをお願いする」


「あ、はい。承知しました」


「あと、ギルドからも脱退したい。その手続きもお願いする」


「え!? ア、アイギスさんそれは!」


「……もう疲れたんだ。やるべきことはやっていたのにこの扱い。私は冒険者に向いていなかったのだよ。どこか田舎へ行って農業でもしようと思う」


 あー、報われない。

 こんなに頑張っていた人が報われない世界なんて辛すぎる。

 

 ん? 待てよ。この人、脱退するなら俺の専属で雇えるんじゃね?


 フルプレートアーマーだから、顔は分からないけど、女性だよな?

 生い先短いアラフォーの俺は、せめて女性と旅したいぞ!

 これはチャンスじゃね?

 脱退手続き終わったら、スカウトだな!!


 俺は、今まで手続きをしてくれていた受付の人に、小声で、隣に来たアイギスさんって人スカウトしてもいいですかっと聞いてみた。

 受付の人は、アイギスさんが良ければとのこと。


 俺は、自分の手続きを一旦ストップしてもらい、アイギスさんの手続きが終わるのを待った。


「アイギスさん、これでパーティーとギルドからの脱退の手続きが終了しました。今までお疲れ様でした」


「あぁ、なんだか呆気ないものだったな。労い感謝する。ではこれで失礼する」


「ッ! ちょーっと待ったーーーーー!!!」


「な、なんだ!?」


「あ、すみません。手続きが終わったようなので声をかけさせて頂きました」


「あ、あぁそうなのか。急に大きな声を出すから驚いたぞ」


「すみません。どうしても貴女が欲しくて」


「はぁ!? 欲しいってなんだ!? 私はお前のモノになる気はないぞ!!」


「あ! いえ! ち、違います! 自分は、錬金術師でして、護衛が欲しくてここに来たんです!」


「あ、あぁ護衛が欲しいってことか。あまり驚かせるな!」


「申し訳ない! どうでしょう? いきなりですが自分の専属護衛として雇われてみませんか?」


「いや、私はパーティーから邪魔者として解雇されたので、護衛など到底出来る物ではない」


「いやいやいや、話はここで聞かせて頂きましたが、貴女は盾役なんですよね? その役割を全うしていただけじゃないですか! 自分から言わせていただければ、貴女ほど優秀な人はいないですよ!」


「私が優秀?」


「そうです! だからこそ貴女が欲しいんです! 護衛として!」


「そ、そんなこと……」


「急に言われても困りますよね。どうでしょう、どこか落ち着けるところで食事でもしながらお話しませんか?」


「そ、そうだな。その方が助かる」


 俺は、受付の人に落ち着いて話せて食事が出来る場所を尋ねた。

 すると、商業ギルドから数軒隣に個室になっている食事処があると教えてくれた。

 予約とかの必要もないと言うことなので、俺達はそのお店へと向かった。


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