第4話 お掃除

 北の錬金術師は女性だった。

 あらためて自己紹介を済ませた。

 師匠の名は、リゼというらしい。

 まず最初に与えられた仕事は、入り口の扉の修理だった。


「あの師匠、道具は何かないんですか?」


「金槌ならそこら辺に落ちてるはずだよ。あとはゴミ捨て場から拾ってきな!」


「えぇ……」


「不満なら出ていってくれて構わないよ!」


「いえ! 早速取り掛かりますです、はい!」


 とりあえず、扉の構造を確認するか。

 蝶番が上と下にあって……あぁ、ドア枠の木が腐って取れちゃってるね。

 まぁこの蝶番も錆が酷いな。

 うーん、枠の腐った部分をどうにか取り除いて、そこに使えそうな木材あてて、両サイドから小さい木材あてて、壁と枠を無理やり固定しちゃえばいいかな。ま、応急処置としてはギリギリなんとかなるか。


「師匠、ゴミ捨て場ってどこですか?」


「あぁ、それならこの店の裏だね」


「了解です!」


 俺は、店の裏口から出てるとゴミ捨て場になっていたので、使えそうな物を探す。


 うーん、腐った木材の山って感じだね。

 あとは、屋根の瓦?レンガ?みたいなのとか、ボロボロになった鍋のようなもの。

 あ、釘は木材についたままだ。

 せめてノコギリでもあれば……お? 半分に折れたサビサビのノコギリ発見!

 

 腐った木材から店舗に落ちてたサビサビの金槌を使って釘を集める。

 腐っているおかげか思いの外、簡単に取れた。

 部分的に、まだ使えそうな木材もあったので、サビサビで半分のノコギリで枠に合わせて長めに切ったり、サンドするための小さな木材も4つ何とか手に入れた。


 店の入り口に戻り、枠の腐った部分の上下をノコギリで切れ目を入れて、金槌で打って壊す。

 壊した部分に、長さを調整した木材を入れて、釘を打つ。

 そして、小さな木材で壁と枠サンドして、釘を打って固定する。

 蝶番も固定して……油なんてないよな? 獣の油ならある? じゃあそれを。

 蝶番に塗って、着火の生活魔法を使ってみるか。

 どうやって使うんだろ?


「師匠、生活魔法ってどうやって使うんですか? 」


「そんなもん、イメージして魔法名言えばいいのさ」


 そんなんで良いのか。

 じゃあ、人差し指から、ライターの火が出てるイメージで……。


「着火!」


 おぉ! 初魔法! ちゃんと指先からライターの火が出たよ! 

 あと何かが減った感覚、たぶん魔力かな。


 これで温めて、油を溶かして馴染ませたら……うん、ちょっとはスムーズかな?

 あとで固まったら、その時はその時だな。

 まぁ、ガタガタだけど応急処置ならこんなもんで大丈夫でしょ。

 

「ふぅ、こんなもんでどうでしょう? 隙間とか強度とか問題は残りますが、とりあえず応急処置なんで」


「もともと壊れてたんだし十分だよ。じゃあ次は店とお前さんの寝床の掃除だよ」


「了解です! 浄化の魔法って使ってみても大丈夫ですか?」


「ふん……店の方からやるなら使ってもいいよ」


「分かりました! それではやってみます!」


 この店舗部分は6畳程の広さがあるかな。

 両サイドに棚があって、正面にカウンターって感じ。

 汚れや埃、蜘蛛の巣と、だいぶ汚いね。

 よし、浄化の威力見せてもらいましょうか!


 俺は、部屋が綺麗になるようにイメージしながら、両手を前に出し、浄化を発動させた。


 白い光が部屋を覆い、見る見るうちに、汚れや埃や蜘蛛の巣が無くなっていった。

 おぉ!感動!魔法って凄い!

 今度は、さっきより何かが減った感覚がする。

 ただどのくらいで限界なのか分からんな。


 師匠は、なんか口開けて固まってるけど、みんなできるんじゃ無いのか?


「師匠、終わりました! 次は俺の寝床へ案内してください」


「あ、あぁそうだね。物置に使ってた場所があるから、そこを片付けて使いな」


「了解です!」


 物置に案内されて、中を見ると、木箱がいくつも置いてあり、ここも店舗同様の汚さだった。


 師匠に魔法の使用を許可をとり、発動。

 こちらもあっという間に綺麗になった。

 木箱を整理するだけで、寝るスペースが出来たので、空の木箱を並べて、それをベッド代わりにすることにした。大きさが揃っていてラッキーだね。

 まぁ寝てみたら、硬いし痛いから、早急にマットレスや布団の類をゲットしないとね。


 その後、キッチンと師匠の寝室も浄化をかけて、この日の仕事は終了した。

 夕方になり、食事をすることになった。

 ありがたいことに俺にも食べさせてくれるらしい。

 キッチンには、材料を切る台と竈、ボロボロのテーブルと椅子2脚があった。

 師匠は、朝の残りであろうスープを温め直してくれた。

 くず野菜のスープだな。とてつもなく薄味、遠くで塩味がするような。

 あと、固い黒パン。

 異世界ラノベ物と同じように、スープに浸して食べるようだ。

 

 ここまでしてくれるから、師匠案外優しいのかもな。

 なんでこれまで、みんな辞めちゃったのが不思議なくらいだ。

 ま、これで、今日は寝るだけだな。

 おっと、その前にトイレトイレ……。


「師匠、トイレ? というか厠? 便所? ってどこですか?」


「そんなもんあるわけないじゃないか。どこの貴族様だい」


「え……じゃあどこですれば」


「うちの中じゃなければ何処でもいいよ」


「……ゴミ捨て場でも?」


「あぁ。あそこは周りから見られないから気が楽だね」


 おう……師匠、あなた若いんだから、お外でしてるなんて、危なくない?

 って大きい方はどうすんの? 紙は?


「あ、あの女性にこんなこと聞くと失礼かもしれませんが、大きい方はどうすれば良いんですか?」


「はっ、こんなババアに、なに気を使ってるんだい。大きい方も外だよ。適当に穴掘って出すもん出して土を被せときゃいいのさ。あとは浄化を自分のケツにかけときゃいいんだよ。それくら知ってるだろ?」


「そ、そうなんですね。なにせ自分は、教会もない田舎から出てきたものですから」


「そうなのかい。じゃあ今までは、葉っぱだった訳だ。ま、生活魔法があれば、その辺も違うからね。これから慣れていきな」


「はい……」


 とりあえず、廃材で目隠しの囲い作って簡易トイレ作成しよう。

 穴掘って、大きい方して浄化かければ、なんとかなるでしょ。


 俺は、明日の目標を決めて、ゴミ捨て場で解放感を味わい、就寝した。

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