亀山社中

 龍さんと長さんにつれられて、江戸から長崎まで、長い旅だったよ。

 途中、宿屋で鍋を突っつき、お酒を飲みながら色々な話しをした。

 攘夷派と開国派での争いとかの話しは、そばを食べに来るお客さん聞いたりはしたけど、たぬきのボクには関係ないと思っていた。だけど、そういうわけにもいかなくなってきた。

「幕府を倒して、新しい日本を作るぜよ!」

 龍さんが酔っぱらって、大きな声を出した。

「龍さん声が大きいよ、役人とかに聞かれたらまずいよ」

 長さんが、龍さんの口をふさいだ。

 どうやら龍さんには、大きな野心があるようだ。

 激動の時代、後から思うとすごい人達と、一緒にいたんだなと思うよ。



 長崎につくと、早速、拠点となる建物を借りた。

 元々『亀山焼』の職人さんの家だったこと、そして、仲間という意味の『社中』この言葉が『亀山社中』の名前の由来になったんだ。

 この亀山社中は、ただの貿易会社じゃなかったんだ。なんと私設海軍としても活躍したんだ。

「一作! おまさん、船乗ったことあるか?」

「あるよ、龍さん」

 ボクは、答えた。しかし、船に乗るのは百年以上前だよな、あの頃は帆船しか無かったけどこの時代の船は風力だけで進んでいたわけでは無く、蒸気機関も付いていて風がなくても蒸気機関のおかげで航海がとても楽になったんだ。



 船を操縦する訓練をしたり、商売をどうするか? 長い話し合いをしたりと忙しい日が続いていた。

 ある日の事龍さんが社中のみんなを呼び集めて「薩摩と長州に同盟を結ばせる」と言い放った。

 確かに、薩摩と長州が同盟を結べば、幕府に抵抗する事が、出来るかもしれない、だけど、薩摩と長州は犬猿の仲、龍さんは一体何を考えているんだろう?

「ワシがなんとかしてみせる」

 そう言って、龍さんは、亀山社中を飛び出して行った。

「龍さん! オレも行くぜよ」

 中岡慎太郎という仲間が、龍さんを追いかけていった



 龍さん達が、飛び出した後、ボク達は、亀山社中を運営するのに必死だった船や輸入した物を管理したり色々と忙しかった。

 ボクと長さんは、主に帳簿付けをやる事になった。二人でそろばんを使い計算をしては、帳簿に記載していく作業をしたんだ。

 休憩の時間には、いろいろ語り合った。

「ボクは、もっと勉強するために、留学したいんだ」

 長さんが、目を輝かせる。ボクも、ゴアの神学院への留学楽しかったな。長さんは、何所へ留学しに行きたいんだろう?

「ああ、イギリスへ行きたい」

 長さんは、そう呟くと英語で書かれた本をとりだした。

「これボクの宝物、君にだけ見せてあげる」

 ボクは、受け取ってその本を見て思った。英語はよく分からないけど長さんが、イギリスへ行きたいという思いが伝わってくる一冊だった。

 長さんは、本をしまうと立ち上がった。

「なんかボクばっかりしゃべって悪かったね。そろそろ仕事にもどろうか?」

 長さんが謝って来たのでボクは答えた。

「いやいや、楽しかったですよ。また、聞かせて下さい」

 ボクと長さんは、再び、帳簿付けをしに、部屋の中へ入って行った。

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