第3章 幕末
蕎麦屋と饅頭屋
ボクのおそばの屋台は、大繁盛、それに、ボクたちたぬきは、本来は夜行性だから、夜鳴きそばみたいな夜に活動する仕事は性に合っているのかもしれない。
美味いそばとうどんが食べられるとどんどん噂が広まって、ますます繁盛していったんだ。『店主のオススメたぬきそば』って張り紙もして毎夜屋台を引いて、江戸の町を歩いたんだ。
そばやうどんのたぬき、きつねは誰が考えたかはよく分かっていないけどボクは比較的早くこの名前を使って商売をしていたんだ。
しばらくして、お母さんらしき人が、娘さんを5人も連れて毎晩ボクの屋台にやって来るようになったんだけど、ボクのオススメのたぬきそばを注文しないで、毎回きつねうどんを注文したんだ。
なんとなくだけど何かおかしいなって思ってたんだ。
ある日ゆっくりと帳簿を付けようと、長屋で売り上げの入った袋を開けてみたら、木の葉だらけ、変化きつねに騙された! あの親子だけじゃない最近やたらときつねうどんやきつねそばを注文するお客さん多いなと思っていたらこんなんになるとは、大赤字だ! 長屋の家賃も払えない。
しかたなく、ボクは屋台を売ることにした。
次の日、屋台を売りに出した。するとそこへ二人のお侍さんがやってきた。
「長治郎! このそば屋の屋台、改造して饅頭の屋台にするぜよ」
背の高い方のお侍さんが笑いながら小柄なお侍さんをからかうように言った。
「龍さんボクの実家が饅頭屋だからっていつもネタにして、それに今は、無駄使いできないでしょ」
小柄なお侍さんが言い返す。どうやら長治郎と言うらしい。龍さんと呼ばれた背の高いお侍さんがボクに声をかけてきた。
「何で屋台手放すぜよ?」
きつねに騙されてとは、さすがに言えず。ボクは俯いた。
「龍さん酷なこと聞いちゃかわいそうだよ」
長治郎さんが、ボクをかばってくれた。
「ねえねえボクたちと一緒に会社(カンパニー)を作らない?」
「カンパニー?」
ボクは二人に尋ねた。
「西洋のやり方の新しい商売ぜよ」
龍さんが、カンパニーについて熱く語り出した。そして「ああ言い忘れとったワシは、坂本龍馬」自己紹介しながら笑顔で握手をしてきた。
続けて「ボクは、近藤長治郎、通称、饅頭屋長治郎、君の名前は?」
ボクは、暫く黙ってイサクという旧約聖書の登場人物から「一作」と答えた。
この『一作』という名前が、人間としての名前になるんだ。
武士でないから名字は名乗れなかったけど、そば屋の屋号が吉田屋だったから『吉田一作』って名前を使うことになったんだ。
龍さんに付けられたあだ名は『蕎麦屋一作』龍さんは和やかに「蕎麦屋と饅頭屋で商人二人もいてカンパニー作るのに心強いぜよ」と豪快に言った。
龍さんとも話しを良くしたけど長さんとは、毎晩お酒を飲んで商売の話しをしたりしたんだ。
そして、江戸を離れて九州の長崎に、日本初の会社(カンパニー)亀山社中を作る事になったんだ。
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