第43話 ヤンキーが猫を助けるやつ

「こ、こんにちは〜……」


 触手の檻から脱した俺は、彼女の体液をたどり、その後を追っていた。

 辿り着いた先はスタッフルームらしき部屋。おそらく中にはリリィさんと触手娘がいるのだろう。

 意を決して、扉を開くと…………


 そこには触手に四肢を拘束されているリリィさんの姿があった。

 服はドロドロに溶かされており、全裸同然の状態だ。

 全身を隈なく弄ばれたのだろう。

 よだれなのか粘液なのか、はたまた淫らな液なのかわからないが、透明な液体が全身を包み、内股には幾本もの線が垂れている。

 顔は真っ赤に染まり上がり、瞳はトロンとしていて焦点が定まっていない。

 そんな状態でも彼女はこちらの存在を認識したようで、助けを求めてきた。


「あ、君……ちょうどいいところに……。なぜかよくわからないけど、この女の子に快楽殺しにされそうなんだぁ。助けて〜……」


 息も絶え絶えに話す彼女に、触手娘は笑顔で答える。


「大丈夫ですよー。すぐに気持ちよくなりますからねー。それこそ天国にイクくらいにー」


 まるで天使のような優しい声色だが、言っていることはかなりヤバい。

 このままでは間違いなくリリィさんは死んでしまうだろう。それは避けたいところだが……。

 この光景を見た途端、俺の中で関わりたくないという感情が増幅し、自然と腕がドアを引いていた。


 ……パタン


 そっ閉じである。

 一体どれほどここにいたのだろう。

 きっと今頃、ルナがうまいご飯を作って待っていてくれてるはずだ。

 そうだ、帰ろう……。

 さっきのは見なかったことに……


「待ってよ〜。助けてくれないと、ボク本当に死んじゃうから。もう今でも……んっ♡こんなに……気持ちいいのにぃ♡」


 リリィさんの淫猥な声がドア越しに聞こえてくる。

 どうやらあの触手娘の責めは想像を絶するほどのものらしい。

 しかし、俺も同じ地獄を味わったのだ。自業自得。リリィさんにも同じ地獄を味わってもらおう。

 そう思い、再び歩き出すが……


「にょろろ〜。お客さん……逃げられると思わないでくださいね。店長をイかせたら、次はお客さんを天国までイかせてあげますから……」


 なるほど、ここで決着をつけた方が良さそうだ。


「はぁ……」


 なんでこんなことに……。まさか【モン娘化】で即席メンヘラができるとは思わなんだ。

 今後は気をつけるとしよう。

 今後があればの話だが……。


 ガチャリ……。


 も一度、扉を開ける。すると、目の前には先ほどよりもさらに蕩けた顔をしたリリィさんがそこにいた。

 頬を赤く染めて、だらしなく開いた口からは涎が流れ落ち、目は虚ろになっている。


「にょろろ〜。やっぱり戻ってきてくれたんですね、お客さん。信じてましたよ。ちょっと待っててくださいね。店長を片付けたら、すぐに全身を絡め取ってあげるので……」


 話しながらもなお、触手はリリィさんを責め続けている。

 その様はまさにエロ同人そのもの。触手が絡み合う度に、いやらしい水音が部屋に響き渡り、嬌声がこだまする。


「ちょっと話し合わないか……? 二人で妥協案を探そうよ」


 俺の言葉に、触手娘が首を傾げる。


「話し合う必要なんてないですよ。私はただ、お客さんに気持ちよくなって欲しいだけですから。だから、安心してください。痛みなんか感じさせないくらい、とびっきりの快楽でイカせてあげますからね」


「いや……。俺は気持ちよくなりたくなんて……」


「にょろろ〜。お客さんの意思なんて関係ないんですよ。私がシたいからスルんです。それに気持ちよくなりたくないなんて嘘ですよね? さっきはあんなに幸せそうにしてたじゃないですか」


「確かに気持ちよかったけど……それとこれとは……」


「まぁ、いいです。すぐに気持ちいいことしか考えられなくさせてあげますから♡」


 ダメだ。話が通じない……。

 どうしてそんなに俺と交尾したいんだよ! もしかして、フェロモン的な何かが出ているのだろうか。

 ありうるな……。俺、サキュバスだし……。

 困った。もしフェロモンに酔ってるのなら、説得は難しいかもしれない。

 だからと言って、暴力で解決するのは……無理そうだし。


 よし、逃げよう。このままここにいてもロクなことにはならない気がするし。

 逃げ切れるかどうかはわからないけど、もはやそれしか選択肢はない。

 さよならリリィさん。いい触手ライフを。

 そう思って走り出そうとした瞬間だった。


 ぬるり……


 足に何かが巻きついた。驚いて下を向くと、一本の触手が俺の右足に絡まっている。


「どこに行くのお客さん? 早く気持ちよくなりたくて、焦っちゃった? 大丈夫だよ〜。すぐに気持ちよくしてあげるからね」


 かなり距離があったのに……。想像以上に触手が長かった。


「ちょ待てよ……」


「待たないよ〜。今すぐにお客さんを立派な苗床にしてあげるから♡」


 まずい……。このままだと本格的に犯されてしまう……!

 死ぬまで永久苗床コースとか絶対に嫌だぁ!


「誰か助けてぇ!」


「それじゃあ、いただきまーす♪」


 股間に冷たい感触が触れる。

 もうダメだ……。そう思った時だった————


「邪魔するぞー。お、アオイ、こんなところにおったか。さっさと家に帰るぞ。ワシゃ腹が減ったのじゃ」


「い、イズナ!」


「誰おまえ。私の邪魔をしないで」


 突然の乱入者に驚く触手娘。

 一方、イズナはほうけた顔で耳をほじくり回しているた。


「た、助けてくれ!」


「なんじゃ貴様。もしかして、モン娘化させた女子にヤられそうになっておるのか? ぷっ! ぷぎゃぁぁぁぁあぁあ!! 傑作だな! ぶふぅぅぅぅぅ!!!」


 必死に助けを求める俺を嘲笑うかのように大笑いを始めるイズナ。

 コイツを救いだと思った俺が馬鹿だった。

 つい最近見捨てられたばかりじゃないか。やっぱ、もうおしまいだ。


「しかしまあ、キサマがそのままではワシとしても困るからのう。この傑作を破壊するのはいささか心苦しいが……」


「何? おまえみたいな子供一人で、私と戦うつもり? いいわ、おまえも私の苗床にしてあげる」


 節那、背中から黒い影が落ちてくる。見れば、無数の触手がウネウネと蠢き、今にもイズナに襲いかかりそうな勢いである。

 対するイズナは余裕綽々といった感じで、構えすら取らず、あくびをしながら耳掃除をしている。


「はぁー……。結構じゃ。ワシはそういうの興味ないからな」


 そして指の先に溜まった耳垢をフッと吹き飛ばすと、触手娘の方に向き直った。


「ちょうどいい。少しKPが貯まったところじゃ。オヌシに神力の一端を見せてやろう。光栄に思うがよい」

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T-転性(TS)したら S-サキュバスだったんだけど!? F-ファンタジー世界は異世界人に優しくない! 〜最強スキル『モン娘化』は使うのにえっちなことが必要です~ 司原れもね @lemo_tsuka

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