第41話 触手娘

 刹那————ジメジメとした暗室が閃光に包まれた。

 やがて、光が収まった頃、再びヌルリという音が耳に飛び込んでくる。

 しかし、それは先ほどまでのネットリとした、粘っこいものとは違う。もっとサラリとして、それでいて粘り気も感じられるようなそんな音。


「成功……したのか?」


 恐る恐る目を開く。次の瞬間、視界に飛び込んで来たのは、俺の股下で蠢く無数の触手たちの姿だった。


 失敗したのか?


 一瞬、そう思ったものの、どうやらそうではなさそうだ。

 触手の筋をなぞるように視線を上にずらしていけば、紫のそれとは違う綺麗な肌色が視界に映る。


「にょろろ〜。なにこれ? どうなってるのー?」


 どうやら成功したようだ。

 下半身こそまだ触手のままではあるが、上半身は完全に人の姿になっている。

 薄紫色の髪の毛は触手と見分けが付かなくなるほど長く伸びており、赤い瞳からは困惑の感情が見て取れた。


「人間の体……どうして? なんで急にこうなったんだろ……」


 彼女は不思議そうに自分の体を眺め回しては首をかしげている。

 しばらくして、その原因が俺にあることに気がついたのだろう。彼女がこちらをキッと睨みつけてきた。


「まさか、お客さんの仕業?」


「はい……」


「そっかー…………それならいいや!」


「えっ?」


 てっきり怒られるものだとばかり思っていたので、彼女の反応に面食らってしまう。

 キョトンと目を丸くする俺を他所に、少女は屈託のない笑みを浮かべると言葉を続けた。


「だって、人間になれたってことは、お客さんとお話ができるってことでしょ? 今まではお客さんの言葉がわかっていても、返事すらできなかったけど、これならお客さんの望み通りのプレイが提供できると思うんだよねっ! だから、むしろお礼を言いたいくらいだよーっ! にょろろ〜」


「そ……そうですか……」


 なんともポジティブというか、能天気というか……。

 まあ、何はともあれ、これでようやくまともに話ができるようになったわけだ。

 もう触手の苗床になる心配もない。


「にょろろ〜。私、ピロートークとかやってみたいと思ってたんだぁ〜。ねぇねぇお客さん。私のテクニックどうだった!? 気持ちよかった!?」


 無邪気に問いかけてくる触手娘。


「えっと……その……すごく良かったです……」


 羞恥心で顔を赤らめながら答えると、触手娘は嬉しそうに飛び跳ねた。


「ほんとぉ〜! 嬉しいなぁ。私もね、すっごく楽しかったよ。ありがとう、お客さん」


 そう言って触手娘が微笑むと、不意に俺の体が浮き上がる。そして、そのままベッドに押し倒されてしまった。


「きゃっ……」


 突然のことに驚き、短い悲鳴を上げてしまう。そんな俺を見下ろしながら、触手娘が妖艶に微笑んだ。


「それじゃあ、第二ラウンド始めよっか〜。いっぱい気持ちよくしてあげるから、覚悟しててよね、お客さん」


 ヌルリとした感触とともに、触手が四肢に絡みついてくる。

 まずい……このままだとまた犯されてしまう……。

 いやでも、今の彼女なら話せばわかるはずだ……多分……。


「ちょ待っ……」


「なに? どうしたの、お客さん。もしかして、挿れたくなった? いいよ、もちろん。私の赤ちゃん、たくさん産ませてあげる♡」


 触手娘の赤みがかった瞳が妖しく光る。

 まるで、獲物を狙う蛇のようにチロチロと舌なめずりをしながら、こちらを見下ろしてくる。


「違う違う違う!」


「大丈夫、安心して。やさしくしてあげるから〜。お客さんは私に体を預けてくれればそれでいいんだよ。そうすれば……赤ちゃん、いくらでも孕ませさせてあげるからさ」


 ダメだコイツ話が通じねぇ。

 見た目は人間になっても、中身は相変わらず触手のまま。

 人間のメスを苗床としか見ていないらしい。


「本当にちょっと待てぇぇぇえええ!!!」


「もう……さっきからなんなの? そんなに焦らなくてもちゃんとシてあげるよ? それとも、やっぱりこっちの方がよかったりするのかな? にょろろ」


 触手の先端がおへそに触れる。その途端、全身にゾワっとした感覚が走った。

「ひゃんッ!」

 思わず変な声を出してしまい、顔が沸騰したように熱くなる。

 そんな俺を見て、触手娘はニヤリと笑うと、さらにおへそを責め始めた。

 ぷにぷにした肉塊でおへその周りをなぞるように何度も擦られるたびに腰が跳ね上がる。

 お腹の奥がキュンキュンと疼き始めると同時に、子宮が熱を持ち始めて……。

やばい……このままじゃ……!

危うく快楽に飲み込まれそうになったところで、俺はハッと我に返った。

そして、最後の力を振り絞って、触手でもわかるように大きな声を上げる。


「やめろおぉおぉぉぉ!!」


瞬間、ピタリと動きを止める触手娘。


「なんで? 気持ちよさそうにしてるじゃん。このまま続けようよ」


「はぁ……はぁ……。続けるも何も……コースの時間はとっくのとうに過ぎてるんだよ!」


 そう叫ぶや否や、彼女の顔から笑みが消えた。


「え? うそ……」

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