第40話 ぐぢゅぐぢゅぐぢゅ!

 俺は一度大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた後、触手の方へ一歩を歩み出した。


「よ、よろしくお願いします〜」


 緊張からか、触手相手に無意味な挨拶をかましてしまう。

 当然伝わらないものだとばかり思っていたのだが、意外にも触手たちは俺の言葉に反応してくれたようで、ウネウネと嬉しそうに蠢きだした。

 コミュニケーションが取れるのかもしれない。それなら、ダメで元々、色々と聞いてみるとしよう。


「え、えっと……優しく……お願いしますね」


 再び話しかけてみるが、返事はない。その代わりと言わんばかりに、1本の触手がゆっくりとこちらに近づいてききた。


 ヌルリ……


 優しく撫でるように腹部を滑る触手。ひんやりとして冷たい感触に思わず鳥肌が立ってしまう。

 だが、乱暴をする様子はない、むしろこちらを気遣うような優しい動きだ。これは言葉が通じたと見て良さそうだ。


「あと……その……初めてなので……お手柔らかに……。挿れるのはちょっと怖いので、それ以外の方法でお願いします……」


 続けて伝えると、部屋中の触手たちが一斉に動きを止めて、何やら相談を始めるかのような素振りを見せた。

 そして、しばらくした後、その全てが俺に向き直り、今度は一斉にこちらに向かって伸びてきた。


 ついに始まる……そう思うと、心臓がドクンと跳ね上がるのを感じた。

 まずは一本目の触手が俺の体に触れてくる。それは、まるで蛇のようにスルリと体に巻きつくと、下から突き上げるような形で双丘の谷間を貫く。


 ぬちゃり……くちゅ……


 粘っこい液体を塗りつけるように、全身を撫で回される。少しくすぐったい気もするが、我慢できないほどではない。


 続いて4本の触手が左右から四肢を絡めとるように巻きついてきたかと思うと、俺の体が宙に浮いた。

 地面を離れた俺の体は触手にされるがままで、大きく股を開く形でガッチリ固定されてしまう。


 そのまま宙に吊るされた状態で愛撫を受ける姿はなんとも無様で、人の目がないにも関わらず、強い羞恥心が込み上げてくる。

 そのせいかどうか、普段、絶対に快感など感じないはずの太ももや二の腕などの柔らかい部分に触れられると、不思議なことにピリッとした甘い刺激が走った。


「んっ……」


 不意に口から漏れ出た吐息。慌てて口を手で押さえるも時すでに遅し。

 それを聞き逃さなかったのだろう。今までただ撫で回すだけだった触手の動きが明らかに変わった。


 1本は足裏を責め立てながら、残りの2本が内股に侵入してくる。内ももから鼠蹊部にかけてスリスリと焦らすように這いずり回り、時折、敏感な部分をツンツンとつつかれる。

 かと思えば、脇腹のあたりを揉みほぐすかのようにモニュモニュと揉まれたり、胸の周りだけを執拗になぞられたりと、様々な手法で責め立てられて、その度にビクビクと腰が浮いてしまう。


「んぁ……」


 必死に歯を食い縛って我慢するが、それでも抑えきれない喘ぎ声が口の端から漏れてしまう。

 快楽に身を捩らせるたびに、全身に絡みついた触手たちがさらに強く締め上げてくる。


 そして、もう何本目かわからない触手が迫ってくる。

 ソレは他と明らかに形状が異なり、先端がパックリ開き、舌のような器官が覗いていた。


 コイツはまずいかもしれない。


 直感的にそう思った俺は、なんとか逃れようと体を捩るものの、手足を拘束されているせいで身動きが取れず、あっけなく捕まってしまった。

 触手が狙いを定めたのは、口でも、胸でも、もちろん、秘所でもなく、なんとへそだった。


「ひゃんっ!」


 本来なら、指が入ることすら困難なほどの小さなくぼみを、触手は無理やりこじ開けるようにして入り込んでくる。

 異物感に悶えている間にも、どんどん奥を目指して進んでいく。やがて、内臓を直接触られる感覚に耐えられなくなった頃、触手はようやく動きを止めた。


 お腹の中で何かが蠢くような感覚にゾワっと背筋が粟立つ。

 気持ち悪いはずなのに、それを大きく上回る未知の快感に頭が真っ白になる。


「なにこれ……しゅごいぃ……」


 呂律すら怪しくなってきた口で呟くと同時に、へその中をかき回すように触手が暴れ始めた。


 ぬちゃ……ぐちゅ……ぐぽっ! ぐぢゅぐぢゅぐぢゅ!


 耳を塞ぎたくなるような水音が鳴り響き、それに合わせて視界が明滅する。激しい嘔吐感がこみ上げてくるものの、それもすぐに気持ちよさへと塗り替えられてしまう。

 しばらくすると、下腹部の奥から何か熱いものが込み上げてくるような感じがし始めた。


「ま……ずい……SPたまっぢゃう……だまっぢゃうよぉ……」


 このままでは、へそで達してしまう。そんな不名誉極まりない事態だけは避けたかったのだが、手足の自由を奪われているためどうすることもできない。

 そんなことを考えているうちにも、刻一刻と限界は近づいてきていて……そして…………ついにその時が訪れた。

 視界が白く染まり、全身がビクンと跳ねる。

 同時に、全身の力が抜けて、ぐったりと脱力する。


「あぁ……」


 ただ、だらしなく口を広げることしかできない俺を他所に、触手たちの動きはさらに激しさを増すばかりだった。

 それからどれほどの時間が経過しただろうか。俺の体は触手の渦に飲み込まれてしまっていた。


 うなじに粘液を塗りつけるように這い回る触手。

 内股の柔らかな部分をさすさすと擦る触手。

 腋の下をほじくるように動く触手。

 お腹を優しく撫で回す触手。

 おへそをほじくり回す触手。

 胸を絞り上げるように締め付ける触手。


 ありとあらゆる場所を責められ続け、俺はすっかり骨抜きになっていた。

 もはや、抵抗する気力さえ湧いてこない。


 それどころか、この地獄がいつまでも続くことを望んでいる自分がいることに気がつく。

 きっと、サキュバスになった影響なのだろう。


 うなじに冷たい感触が走るたびに……

 ヌルリと内股を擦られるたびに……

 脇を肉塊が抉るたびに……

 お腹の上をうねうねと這われるたびに……

 おへそがぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて掻き回されるたびに……

 胸が搾り上げられるたびに……


 体の奥底からえもしれぬ快感が湧き上がってくる。


「んっ……んんっ」


 くぐもった声を漏らしながら、無意識のうちに腰をくねらせていた俺だったが、ふと我に帰ると顔を真っ赤にして俯いた。


「あれ……今、何を……?」


 無意識に行っていた自分の行動が信じられなくて、思わず赤面してしまう。

 しかし、一度意識してしまったせいか、頭の中はもうそれ一色になってしまっており、次第に思考がピンク色に支配されていくのがわかる。


 もうこのままでもいいのでは?


 そんな考えが頭をよぎる。

 だが、僅かに残った理性でその考えを振り払うと、この状況を打開するべく俺は再び思考を巡らせた。


 とうに30分は過ぎているはずだが、リリィさんは一向に戻ってくる気配がない。

 何かトラブルでもあったのだろうか……

 触手とコミュニケーションを取ろうとしても、全く反応してくれないし、実は最初から俺を逃すつもりなんてなくて、俺は触手の苗床にされるために連れて来られたのかも……


 様々な可能性が脳裏をよぎり、不安に襲われる。だが、今はそんなことで悩んでいる場合ではない。

 リリィさんが戻って来ない以上、自分の力でどうにかする他ないのだ。

 幸い、えっちなことは嫌というほどされたから、SPは溜まっているはず。

 あとはどうやって触手に体液を飲ませるかが問題だ。


「…………」


 あのヘソをほじくり回している触手には舌のような器官がある。もしかしたら、口に似た構造をしているかもしれない。

 それなら、そこから流し込めるかも……。


「くっ……」


 しかし、実行に移そうにも、手足は相変わらず拘束されたままで動けない。

 せめて、触手がへその中から出て来てくれれば、やりようもあるんだけど……。


 力をこめれば、抜けたりしないだろうか。そう思って、大きく息を吸い込むと、俺は思いっきり腹筋に力を込めた。

 次の瞬間、にゅぽんという音とともにへその中の触手が勢いよく飛び出す。

 チャンスだ。


 すかさず、俺は触手に口目掛けて体液を注ぎ込もうとするも、そこで問題が発生した。

 届かない。

 当初の予定では唾液を流し込むつもりだったのだが、股座の方に触手が飛んでいってしまったため、距離的に無理があったのだ。


 ならば、他の手段を考えるしかない。

 股間でにゅるにゅると動く触手に体液を注ぎ込む方法……。

 それはもはや一つしかない。


「くそが……」


 悪態を吐きながらも覚悟を決めると、俺は下腹部に力を集中した。

 そして………………。

 結局、俺が選んだのはおしっこだった。

 本当は死ぬほど恥ずかしいけど、背に腹は代えられない。

 黄金水が触手目がけて迸り出る。

 刹那————ジメジメとした暗室が閃光に包まれた……。

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