第39話 テンタクルちゃん

「着きましたよ〜」


 彼女の声に顔を上げると、そこには淫猥な光を放つ大きな看板があった。


『モンスター風俗:異種姦倶楽部』


 どうやらここが目的地のようだ。

 それにしても……モンスター風俗とはどういうことだろうか。その隣には異種姦の文字見えるし……まさか……な。


「では入りましょうか〜」


 彼女に手を引かれて店内に入る。そこは想像していたよりもずっと綺麗で清潔感のある空間だった。

 店の中にはいくつもの扉があり、それぞれの扉が様々な部屋に繋がるようになっているようだ。

 その内の1つからは嬌声のようなものが聞こえてきて、その声を聞く度になんだか妙な気分になってしまう。


「あ、あの! こういうお店初めてで……何をすればいいのかわからないんですけど……」


「はい。わかってますよぉ。今から説明するので、安心してくださいね〜」


 彼女はそう言うと、カウンターらしき場所に立って、俺に説明を始めた。


「まず初めに自己紹介をしますね〜。ボクの名前はリリィと申しま〜す。このお店のオーナー兼店長兼娼婦で唯一の従業員です〜。よろしくね〜」


 肩書きがてんこ盛りすぎる。それに唯一の従業員って……。お店として大丈夫なのかそれ……。


「それで〜。ウチのサービス内容なんだけど〜。ウチはモンスターとえっちできるすごいお店なんだぁ〜」


 薄々感づいてはいたが、やはりそういう感じの店だったか……。

 モンスターとエッチなんて、エロ同人の世界だけの話だと思っていたのだが、まさか自分が経験することになるとは夢にも思わなかった。

 実際のところ、どうなのだろうか……。普通に人間とした方が安全だし、相性もいいと思うのだけど……やっぱ、前世童貞だからよくわからない。


「テンタクルちゃんに体の穴という穴をぐちょぐちょにされたり〜。オークくんに人権無視の家畜扱いされちゃったり〜。スライムくんに体の中まで溶かされちゃうようなプレイとか〜。アラクネちゃんに卵を産みつけられるのとか色々あるんだけどぉ〜どれがいいかなぁ〜? ちなみにボクのおすすめはアラクネちゃんだよ〜。文字通り未知の体験ができちゃうからね〜」


 とんでもないことをペラペラと話していく彼女だが、その内容に興奮を覚えてしまう自分がいるのだから不思議だ。

 これもサキュバスになった影響なのか?

 いや、それとも元々素質が……やめよう。これ以上考えても虚しくなるだけだ。

 自分の中に芽生え始めた新たな性癖を否定するかのように首を横に振った後、俺は恐る恐る口を開く。


「え、えと……できれば挿れないのがいいです……」


「ほぇ? 挿れない? あぁ、そっか〜。初めては大切にしたいもんね〜。わかるよその気持ち〜。じゃあ、テンタクルちゃんとかがオススメかな〜」


 なんでだよ。触手とかどう考えても挿れるやつだろ。俺知ってるよ? エロ同人で何度も見たもん。99%挿れるじゃんアレ。

 挿れないなんて、絶対に嘘じゃん!


「ほ、本当に挿れないんですよね……?」


「うん、もちろんだよ〜。ヌルヌルぐちょぐちょの触手で全身を這い回るだけだよ〜」


「……じゃあそれで」


「おっけ〜。それじゃあ、こちらへどうぞ〜」


 リリィさんに導かれるままに、奥の部屋へと入る。

 すると、そこには、壁一面を覆い尽くすほど大量の触手が蠢いていた。

 そのあまりの光景に、思わず絶句する。


「うわぁ………」


「すごいでしょ〜。これ全部が君に襲いかかるんだよ〜。想像するだけでゾクゾクしちゃうよね〜」


 確かにゾクゾクする。悪い意味で。もう帰りたいくらいだ。


「あの……これ本当に大丈夫なんですか? どう見ても挿れる気満々なんですけど……」


「大丈夫だよ〜。ボクはモンスターと仲良くなるプロだからね〜。この子達は絶対に君のことを傷つけたりしないよ〜」


 どうも信用できないな……。しかし、ここまで来てしまった以上、覚悟を決めるしかあるまい……。


「最後に時間の話なんだけど〜。30分コースから死ぬまで永久苗床コースまであるんだけど、どうす……」


「30分で!」


 食い気味に答える。

 なんだよ死ぬまで一生苗床コースって……もはや、それサービスの域を越えてるだろ。


「え〜? いいの〜? もっと長くてもいいんだよ〜?」


「いえ……大丈夫です」


「そっかぁ〜。残念だけど、君がそう言うのなら仕方ないね〜。じゃあ、いっぱい楽しんでね〜。30分後にまた来るね〜」


 それだけ言い残すと、彼女は部屋から出て行ってしまった。

 部屋に残されたのは俺と無数の触手たちだけ。


 これから起こることを考えると自然と体が震えてくる。しかし、それと同時に心のどこかでは期待している自分もいて……。

 俺は一度大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた後、触手の方へ一歩を歩み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る