第38話 娼館は良くないんじゃないか?

「ぐ、ぐちょぐちょ? ちょっと何言ってるかよくわからないです……」


「ボクね〜。この辺りで娼館を経営してるんだけどさ〜。君、えっちなことに興味あるよね〜。さっきの男は強引だったからダメだっただけでしょ? 本当は気持ち良いことしたいんだよね〜。えっちなことしたいんだよね〜〜」


 女性はグイグイと顔を近づけてきて、息がかかるほどの距離でまくし立ててくる。

 確かに、彼女のいう通り、えっちなことに興味がないわけではない。


 しかし、娼館は……娼館は良くないんじゃないか?

 だって娼館ってすごいえっちな場所だろう?

 となると、やっぱり得られる快感も相当なものになるわけで……まだ、女になってから日が浅い俺には、少しハードルが高い気がする。

 それに、あんまり女体のままエロいことをしすぎると、男に戻った時に、勃たなくなったりするかもしれない……。

 だから、ここは丁重に断るべきだ。


「い、いや……遠慮します。えっちなこととか全然興味ないんで……」


「そんな嘘つかなくてもいいんだよ〜。だってボクはわかっちゃうもん……。君の心の中は……えっちなことでいっぱいだよね? 体中からえっちな匂いがプンプンしてくるよ〜」


 そう言って、彼女は俺の胸に顔を埋めてきた。そして、そのまま大きく深呼吸を繰り返す。


「すぅ〜……はぁ〜……。すぅ〜……はぁ〜……。うん。やっぱりえっちな匂いがする」


「いや……き、気のせいじゃないですかね?」


「う〜ん。そうかなぁ? すっごくえっちな臭いがすると思うんだけどな〜? あ、もしかして、処女を失うのが怖いの? それなら安心してよ〜。ウチは挿れないコースもあるからさ〜。なんだったら、後ろの穴に突っ込むコースもあるよ〜」


「後ろか……後ろなら男も女も関係な……じゃなくて、本当に結構なんで!」


 危ないところだった。危うく、流されるまま尻を差し出すところだった。

 俺は抱きついた御製の体を丁寧に引き剥がして、距離を取る。

 しかし、それでもなお諦めきれないのか、彼女はさらに食い下がってきた。


「そっかぁ……。でもさぁ……。ボク、君のことを助けてあげたんだよ? ちょっとは付き合ってくれても良くない?」


「うっ…………」


「お金は取らないからさ〜。なんなら、あの男みたいにあげてもいいよぉ」


 どんたげ俺のことをぐちょぐちょにしたいんだこの人は……。

 でも、無料か……。無料……。無料なら、行っても……いいかもしれないな。

 どうせSPを溜めるためにえっちなことはしないといけないんだし、それが恩返しになるというのなら、尚更断る理由はない。


「ひ、ひとつ聞いてもいいですか?」


「なんですかぁ〜」


「どうしてそんなに俺をぐちょぐちょにしたいんですか?」


「それはね〜。おねえさんから不思議な匂いがするから。モンスターと人間の匂いが混じったような……そんな感じの匂いがするの」


「え……」


 思わず動揺してしまう。まさか、この人……匂いで俺がモン娘であることに気づいている?

 そうでないとしても、普通の人間ではないと勘づいていそうだ。

 今更、自分がモン娘であることを隠すつもりはあまりないが、だからといって、まさか匂いでバレるとは……。


「それで〜。来てくれるの〜?」


「わ、わかりました……。行きます」


「やった〜! ありがとう〜」


 パァっと花が咲いたように満面の笑みを浮かべる彼女。

 最終的には、承諾してしまったわけだが、これは決して俺がえっちなことに興味があるからとかではなく、あくまで恩義に報いるためであって……SPを溜めるためであって……仕方ないことなのだ。


「それでは、早速ご案内しますね〜」


 女性は嬉しそうな声を上げると、俺の手をとって歩き出した。

 ついさっきまで何も感じなかったはずの、彼女の手の温度が妙に生々しく感じられる。心臓の音もバクバクうるさい。

 これから始まるであろう未知の体験への期待と不安で、俺の胸ははち切れそうになるのであった……。

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