第37話 ぐちょぐちょにしたいと思ってたんです〜

「そんな強引だと、絶対に気持ち良くなんてできないよ〜」


 不意に背後からそんな声が聞こえてきた。振り返るとそこには1人の女性が立っていた。


 眠たげに瞼を落とし、ボサついた青髪が目にかかりそうなほど長い。

 顔立ちはかなり整っており、美人と言って差し支えないだろう。

 身長はやや低めで、胸も控えめ。全体的に細身で、子供らしい印象を受けた。


 しかし、そんな容姿とは裏腹に、彼女の纏う雰囲気は妖艶そのものだ。

 なにより服装がすごい。間違いなくサイズが合っていないであろうダブダブのワンピースを身につけており、大きく開いた襟口からは鎖骨が見え隠れしている。

 そして、その下は下着すらも身につけていないらしく、動くたびに胸が溢れそうになっていた。

 はっきり言って、目に毒である。


「誰だテメェ。邪魔すんじゃねぇ!」


 男は怒鳴り声を上げるが、女性は怯む様子もない。それどころか、不敵な笑みを浮かべ、こちらに歩み寄ってくる。


「私はただの通りすがりのお姉さんだよ〜。それよりさ〜。君、無理矢理は良くないと思うよ〜。嫌がってるじゃん」


「あぁ? 別に嫌がるフリしてるだけだろ? 俺にはわかるんだ」


 フリなわけがない。こんなクソ男に抱かれるなんて死んでもごめんだ。しかし、男は本気で勘違いしているらしく、女性の言葉に耳を傾けようとしない。


「君さ〜。絶対にモテないでしょ?」


 唐突に、煽るような口調で女性が言い放つ。男は彼女の言葉を聞くなり、ピクリと眉を動かして、苛立たしげに舌打ちをした。


「はぁ!? 俺がモテないだと!?」


「うん。絶対そう」


「ふざけんな! 俺がモテないはずがないだろうが! 現にこうして、巨乳のねーちゃんともヤれてんだからよ!」


 男の汚らしい手が俺の胸を鷲掴みにする。瞬間、嫌悪感が脳内を支配して、思わず悲鳴を上げそうになった。

 しかし……


「うっそだ〜」


 女性の冷ややかな視線を受けて、男は動きを止める。


「その子、どう見ても嫌がってるし〜。君からは童貞の臭いがプンプンしてるもの〜」


「なっ……!」


「ねえねえ〜。君さ〜。もしかして、女の子と付き合ったことも無いんじゃな〜い? だから、女の子の扱い方がわかんないんでしょ〜。ぷぷっ。かわいそうな子〜」


 まるでマシンガンのように繰り出される煽り文句の数々。その全てが的確に男の心を射抜いているようで、みるみるうちに男の顔が赤く染まっていく。


「ねぇ〜。しってる〜。女の子はね、無理やりされても、全く快感を感じたりはしないんだよ? むしろ、不快に感じるの。特に初めての子なんかは、トラウマになるくらい傷ついちゃうかも〜。君はさ〜、えっちな本とか動画ばっかり見てるから、勘違いしちゃったのかな?」


「ぐっ……。うるせぇ! うるせえ! うるせえ!! このアマァ!!」


 とうとう我慢の限界に達したのか、男が叫びながら何かを取り出した。今度こそ武器かと身構えるが……


「この金をやるからどっか行け!」


 やはり金だった。


 俺は確信する。コイツはマジのクソ野郎だ。なんでも金で解決できると思ってやがる。

 だが、まずいな……。実際、この世のほとんどのことはお金があればどうにかなるものだ。ましてや、彼女は俺と全く無関係の女性。金に釣られてもおかしくない。


「え〜。おかねかぁ。ボクさ〜お金とか興味無いんだよね〜。ボクが興味あるのはもっと別のこと」


「じゃあ何なんだよ! 何が欲しいんだよ!」


「う〜ん。それは秘密〜」


 そう言って、彼女は人差し指を唇に当てる。

 その仕草はとても艶やかで、思わず見惚れてしまいそうになるほど魅力的だったが、同時に背筋が凍るほどの恐怖も感じた。


「クソが! もういい! こうなったら力ずくでも言うことを聞かせてやるよ!」


 男はそう叫ぶと、手に持っていた金を投げ捨てて、拳を振り上げた。

 対する女性はというと、「きゃ〜ぼうりょくはんた〜い」と言って、わざとらしく身を縮こまらせてみせる。


 次の瞬間、男の拳が彼女に向かって振り下ろされた。

 だが、彼女はそれをひらりとかわすと、男を再び煽る。


「うわ〜。暴力はいけないよ〜。ほらほら、こっちを見て」


 男は言われた通りに、振り返って彼女を見ようとする。

 そして、次の瞬間、男は目を見開いて、呆然と立ち尽くした。


「何だこの犬!」


 なんと、彼女がいたはずの場所には、真っ黒な生き物がいたのだ。

 男は動転してそれを犬だと思っているようだが、俺から見ると明らかに違う。


「いや違う……コイツは……魔物!?」

「グルル……」

「何でこんなところに……」

「ふふふ……。わんわんじゃありませんよ〜。がうがうですよ〜」


 顔面蒼白の男とは対照的に、女性は余裕たっぷりといった表情で笑う。

 そして、男の恐怖する面をじっくり堪能すると、彼女は黒い塊に命令を下した。


「その男の未使用オチンポ食べちゃって」


「ガルルル!」


 その言葉を合図に、その魔獣は男に飛びかかった。


「ひぃ!」


 情けない声を上げて、逃げ出す男。その背中はいつかのイズナを思わせるようで、あの時と同様、男が見えなくなった頃に耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。


「た、助けてくれぇぇ!!」


 断末魔のような叫び声を聞きながら、俺は目の前で起こったことが信じられずに固まっていた。

 すると、女性は俺の方を向いて、ニッコリと微笑む。


「大丈夫ですか〜? 怪我はありませんか〜?」


 先ほどまでの煽るような口調とは打って変わって、穏やかな口調で話しかけてくる彼女。

 俺はそんな彼女に戸惑いながらも、なんとか返事をする。


「あ、はい……大丈夫です……」


「そうですか〜。それは良かった〜」


 何が何だかわからないが、とりあえず……助かった。


「ところで〜。えっちなことに興味ありませんか〜」


「え……?」


「実はボク。おねえさんを見た時からぐちょぐちょにしたいと思ってたんです〜。はぁ……はぁ……。おねえさんがぐちょぐちょになってるところ絶対に可愛いと思うんですよ〜」


 助かってなかった。


(改稿予定)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る