第36話 地獄に落ちろ
しばらく歩くと、ギラギラの正体が見えてきた。
どうやらネオン街のような場所らしい。まだ昼間だと言うのに、派手な光がそこら中に飛び交っている。
正直、かなり目に悪い。
道を行き交う人々も、皆露出度が高い服装をしているように見える。
「あの人なんてもはや下着姿じゃん……」
「いや、それはキサマもじゃろ」
「なあ、本当にこっちであってるのか? なんか怪しい店ばかりなんだけど……」
先程から通り過ぎる店の外観はどれも怪しげだ。というより、いかがわしいと言った方が正しいかもしれない。
進めば進むほど、そのいかがわしさも増しており、このまま進めば間違いなく良くないことに巻き込まれると、直感が告げている。
「合ってるも何も、特に目的があって進んでいるわけではない。ただ、こっちの方が楽しそうだから来ただけじゃ」
「はぁ!? おまっ……ふざけんな!」
「なぁに、まだ何か起きたわけでもあるまい。引き返せばいいだけの話じゃ」
「言われなくともそうするわ!」
そう言って踵を返す俺だったが、そんな時に限ってトラブルというのは起こるものだ。振り返った瞬間、俺の体に衝撃が走った。誰かにぶつかったようだ。
「あ、すいません……」
反射的に謝るが、反応がない。
不審に思い顔を上げると、そこにはスキンヘッドの男が立っていた。目つきは鋭く、眉間には深い皺が刻まれている。
その男は無言のまま、俺の体を上から下まで舐め回すように見ていた。
なんだろう……。すごく嫌な感じだ。
「あの、なにか?」
「巨乳のおねーさんはっけ〜ん! しかも、かなりの美人さんだぜ! ラッキー!」
男は俺の胸を見ながらそう言った。そして、そのまま視線は下の方へとスライドしていき、股間のあたりで止まる。
「ひっ……」
間違いない。コイツは俺の貞操を狙っている……!
やばい……逃げないと……!
「今日はツイてるぜ〜! こんなに可愛いおねーさんとヤれるんだからよ〜!」
「あ、あの……俺、そう言うのには興味ないんで……。どいてもらってもいいですか」
なるべく刺激しないように言葉を返すが、男は全く引く気配を見せない。それどころか、どんどん距離を詰めてくる始末だ。
「嘘でしょ。そんなエロい格好で、こんな場所に来ておいて、ヤリ目じゃないとかありえないっしょ〜。素直になりなよ。もしかして、いざ本番になると怖気づいちゃうタイプなのぉ? 大丈夫、優しくしてあげるからさ〜」
キモい! キモすぎる! なんだコイツ、どうしたらここまで気持ち悪いセリフを吐けるんだ?
男ってこんな気持ち悪い生物だっけ……。少なくとも俺が男だった頃はこんなんじゃなかったと思うんだけど。
もしかして、俺が特殊なだけで、男っていうのはこんな性欲に塗れた生き物だったのか……?
「おい人間。オヌシ、ワシの眷属に手を出そうとは、良い度胸じゃな」
突然、イズナが背後からそんなことを言ってきた。その声はいつもより低い。おそらく、怒っているのだろう。
「あ? なんだガキ、なんか文句あんのか?」
「ありありじゃ。オヌシのような汚らしい男にウチのかわいい眷属のヴァージンをくれてやるわけがないじゃろ。即刻失せろ」
背中から伝わる怒気に俺も思わず鳥肌が立つのを感じた。普段の彼女からは想像もできないほどの威圧感である。
うざったらしかった尊大な態度も、今では頼もしく思えるほどだ。
そんな彼女が放った言葉に対して、スキンヘッドの男は一瞬呆けたような顔をしたのち、爆笑し始めた。
「ギャハハハッ! おいおい、ガキのくせに随分ませたことを言うじゃねえか! ヴァージンって! あ〜腹痛え!」
「ふんっ。ワシは神じゃぞ? あまり怒らせると、天罰が下るぞ?」
「あーはいはい。神ね神! わかったわかった」
イズナが脅してもなお、笑い続ける男。これはもはや、何を言っても無駄だろう。
しかし、そう思った矢先、男の様子が一変した。急に優しげな笑顔を浮かべ、何やらポケットを探っている。
武器かと身構えたが、彼が取り出したの全く別のものだった。
「ほら、これやるから菓子でも買ってこい」
金だ。男がヒラつかせているそれは紛れもなく紙幣であり、10と書いてあるのが見えた。
どうやら、金でイズナのことを懐柔しようとしているらしい。
だが、彼女はそれに見向きもせず、相変わらず男を睨みつけている。
「そんなものでワシが釣れると思ったか? 随分と舐められたものじゃのう」
「うーん……。じゃあ、これでどうだ?」
そう言って、男はさらに札を取り出した。今度は100と書かれている。
どうやら、金額を上げて交渉するつもりらしい。
だが、いくら金額を上乗せされようと、イズナは見向きも…………
「よかろう。それで手を打とう」
した。めちゃくちゃあっさり買収された。
「てめぇ! なにやってんだよ! 眷属のヴァージンはくれてやらないんじゃなかったのか!」
まさかの展開についていけず、俺は声を荒げる。
すると、その声を聞いて初めて我に返ったのか、イズナはハッとした表情を見せた後、気まずそうに目を逸らした。
「えへ☆」
クソが……。このクズ野郎を少しでも信じた俺が馬鹿だった。やはり、ゴミはゴミなのだ。どれだけ綺麗で、可憐な見た目をしていようと、中身は薄汚れた欲望の塊でしかない。
金に釣られないはずがなかったのだ。むしろ、よく10ドーラで釣られなかったものだとさえ思う。
「まあまあ、ヴァージンなんてどうせいつかは失うもんなんじゃし、気にするでない」
「お前マジで一回地獄に落ちろ」
「残念ながらワシは天国から舞い降りた神につき、地獄には堕ちぬのじゃ」
「だったら、生き地獄を味わわせてやるよ! 覚悟しとけよ……」
俺の口から出たドス黒い声に、イズナは一瞬、全身の毛を逆立てた。
しかし、それも本当に一瞬のことで、すぐ元の様子に戻ったかと思うと、100ドーラを握りしめて、俺に背中を向ける。
「まあまあ、そんなに怒るな。確かに初めては痛いかもしれないが、すぐに天国に登るかのような快感を得られるじゃろうて。しかも、その男は羽振りが良い。きっと、いっぱいおかねをくれるぞ」
「黙れ! 俺が失うのはヴァージンだけじゃねぇんだよ! 男としての尊厳もなんだよ!」
俺は怒りに任せて叫んだ。しかし、イズナはそれでも振り返らず、ただ一言、小さな声で呟いた。
「……………………がんばれ♡」
コイツマジぶっ殺すぞ……。
心の中でそう呟くと、殺意が伝わったのか、イズナは足早に歩き出し、そのまま人波の中へと消えていったのだった……。
「よし。邪魔なガキも消えたし、さっそくホテル行こうぜ」
「くっ……」
なんとか抵抗を試みる俺だったが、女の力ではどうすることもできない。頼みの綱の【モン娘化】もSPが足りなくて使えないため、絶体絶命の状況だ。
「まあ、安心しろって。最初はちょっと痛くて怖いかもしれないけど、慣れれば気持ちよくなるからよ」
そう言って、男は俺の肩を抱き寄せてきた。瞬間、全身に鳥肌が走る。気持ち悪すぎて吐きそうだ。
「や、やめろ……!」
「大丈夫だって。俺に任せろよ」
もうダメだ……。このままでは確実に犯される……!
そう思った時だった。
「そんな強引だと、絶対に気持ち良くなんてできないよ〜」
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